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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
85/123

信用度ゼロ (3)





 ドカンという衝撃音に続いてルイスの体が宙を舞う。

 一瞬の後、ルイスは石畳の床に叩きつけられそのままゴロゴロと地面を転がった。

 そして壁にぶつかり止まった体はうつ伏せの状態で動かない。



「うわぁああああ!すみません!ルイス大丈夫ですか!?」



 リオは焦った様子で壁際に駆け寄り、倒れたルイスの肩を揺する。

 ルイスは目をしばたかせ、少し顔をしかめながら片目を開けてリオの方を見た。


「う…、り……お………」


 声はか細いが、意識はあるようだ。

 弱々しく声を絞り出すルイスに、リオは早口でまくしたてる。


「わざとじゃないんです!!ずっとうじうじしててウザいなってちょっと…いやかなり思ってましたけど、決して悪意があったわけではないんです…!!いい加減黙れよとか思ってたわけでもなくて…!!気付いたら勝手にルイスの体を突き飛ばしていました……!!!」


 リオの声が廊下の石壁に反響していく。

 慌てているわりに妙に細かい弁明に、ルイスの眉がぴくりと動く。


「それ……100%確信犯、で、しょ…」


 ルイスは石の床に頬を押しつけたまま、息も絶え絶えに半ば呆れたように呟いた。

 まあ、否定はしないと心の中でリオはそう答えると、ルイスと共に倒れていた何かがムクリと起き上がる。



「ルイス副団長!!やっと見つけましたよコノヤロウ!!!」



 ……?


 開口一番に繰り出された言葉に思わずリオは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら唖然としてその場に立ち尽くす。

 ……また中々インパクトのある奴が現れたぞ。



 超高速移動物体の正体は、黒い軍服らしきものに身を包んだ小柄な男だった。


「もう、俺がどれだけ探したと思ってんスか!?」


 男の怒声が再び響き渡る。

 リオが男の勢いに面食らっている間に、気づけば男はルイスの胸倉をつかみ上げている。


「……しる、か…そんなこと…」


 ルイスは黒い手袋がぴったりとはめられた手にその体を揺さぶられながら、力なく言葉を漏らす。


「今こっちはすっごく大変な事になってんスよ!!ルイス副団長が王都に帰って来たって連絡があったのにいつまでたっても団長の所に報告に来ないし!!あれほど報告は速やかに、何よりも真っ先に優先しろと言ったのにあんたは…!!」

「ま…て…おれ、寄り道せずに、ここに帰って来たん、だけ…ど……」


 ルイスの抗議の声は全く届いていないらしい。

 うじうじしていたとはいえ、王都に来てからは特に道草を食っていたわけでもないのでルイスの主張は最もなのだが。


 怒涛の勢いでルイスへの不満を爆発させていた男だったが、突然ハッとしたように目を見開くとルイスを揺さぶっていたその動きを止めた。


「こうしちゃいられない!副団長いつまで寝てるんですか!行きますよ!」

「いや、俺がこうなって、るの…お前の、せいだ、から……」

「ほらほら立って立って!!……もう、立たないなら引きずって行きますからね!!!」



 リオが状況を把握するその前に、小柄な男は床に伸びているルイスの襟首をつかんでずるずると引きずって行ってしまった。



「何だったんだ今の……」



 あまりにも一瞬の出来事に呆然と呟く。



「っていうか私はどうすればいいのさ」


 小柄な彼の赤味がかった茶髪が見えなくなる頃になってようやく我に帰ったリオは、自分が一人取り残されてしまったことに気付いた。


 え、本当にどうしよう。

 ルイスが見学においでって言ったからその言葉に甘えたのに、案内役のルイスが連れてかれたんじゃ右も左も分からないこの建物の中で動きようがないんですけど。


 下手に動かずここでルイスを待っていた方が良いのだろうか。

 でもいつルイスが戻ってくるか分からないし。

 じゃあ来た道を戻って外に出る?

 その後どうしよう……帰る宿とかもないし。

 そもそもルイスの話に適当に相槌打ちながら歩いていたから来た道なんて全く覚えていないんだけれど。



「……仕方ない、とりあえず適当に歩いてみよう」




 はあ、と溜め息を一つ零しながらリオはそのまま真っ直ぐに歩き始めた。


 

 

 


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