信用度ゼロ (2)
場所は移り、某騎士団本部。
重厚な石造りの廊下に、コツコツと二人分の靴音が響いていた。石壁には長い年月を経た傷が刻まれ、年月を重ねてきた証拠がそこかしこに見受けられる。廊下の両側には古めかしい壁掛けや騎士団の紋章をあしらった旗が整然と並んでいた。
廊下を歩く一人は肩を落とし、俯きがちにとぼとぼと歩いている。その顔にはすっかり元気がなく、時折何かひとりごちるように呟いている。もう一人は無言のままその隣を歩いており、前を向いている顔には微かな疲れが浮かんでいた。
「あーあ…もうどうしよう、俺」
「…」
「鬼畜とか言ってたのがアイツに伝わったら……もう、死ぬ。ホントに死ぬ。マジ無理。次アイツに会った時が俺の人生の終わりだわ…」
「…」
「でもさ、よくよく考えてみるとさ、俺はただ事実を言っているだけなのね?それなのに地獄見せられるとか、酷くねえ?」
「…」
「だいたいあいつの性格に問題があるんだよ。鬼畜でドSでもう血なんて通ってないんじゃねえの?って感じでさー」
ーーーーこれは、いつまで、続くのだろう。
リオは己の隣を歩くルイスを一瞥することもなく、ただひたすらにこの会話の終わりを待ち焦がれていた。
否、既にリオは何の反応も示していないため会話が成り立っているとは言い難い。
いや、最初は付き合ってあげてたんだよ?
でもさ、
『シルバーめ…俺の全てを投げ打った懇願すらも鼻で笑いやがって……くっ…もう、俺は終わりだ…』
『……そんなに怖いんですか?一体誰なんです、その人は』
『俺に聞くなリオ…あいつの名を出すのすら過去の地獄を思い出して寒気がするんだ。……そう、同じ地獄を味わった者の間ではその名前を決して口に出してはならないという暗黙のルールが……』
『名前を言ってはいけないあの人と言ったら……まさかヴォルd』
『いや違うぞ。むしろ誰だそれは。とにかくあいつは…鬼だ、悪魔だ。それ以外の何者でもない』
『…』
シルバーと別れてからずっとルイスはこんな調子なんだよ?
もういい加減うんざりしてくるよね。
本部に着いた際に石でできた堅牢な外壁を見て高揚した気分も、ルイスの嘆きと愚痴により既に跡形もなく消え去っていた。
もはや早く目的地に着くことを祈るばかりだ。
と、その時である。
「副団長ぉぉおおおおお!!!!」
突如後方からあがった雄叫びに驚いたリオは反射的に肩を跳ね上げた。
恐る恐る後ろを振り返ると、遠くの方から何かが土煙を巻き上げて猛スピードでこちらに向かってきているではないか。
え、え、何アレ!?
「ちょ、る、ルイス!何かこっちに来てるんですけど!!」
「……もう、嫌だ。俺あいつにだけは会いたくない……」
「まさかの気付いていない!?」
リオは反射的に隣の肩を叩いて訴えるも、ルイスは相変わらず俯きがちに歩きながらキノコを生やしてぶつぶつと呟くばかりで、何も気づいていない様子だった。
そうしている間にも、ドドドドドという地響きのような音が着実に迫ってきている。
もはやヒトではなく牛か何かが走り回っているかのような音だ。
「ルイス副団長ーーー!!!!!」
再度叫ばれた名前に、リオは焦りながらばしばしと強めにルイスの肩を叩く。
「ほら!ルイス呼ばれてますよ!!」
「もう、俺なんて……」
「いつまでこの人はうじうししてるんだ…!って、うぉぉおおおお!?!?!?」
不意に、おおよそ女子とは言い難い叫び声をあげながらリオは咄嗟に隣のルイスを突き飛ばす。
次の瞬間、ルイスのいた場所を何かが猛スピードで通り過ぎ………ることはなく。
「……あ」
まずい、ついルイスを超高速移動物体の方に突き飛ばしちゃった……!!
そう思ったのも束の間、リオの間抜けな声が漏れるとほぼ同時に、ルイスと何かがぶつかった重く鈍い音が響いた。




