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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第九章
83/123

信用度ゼロ (1)

 




 本当にどうして私まで王都に行かなくてはならないのか。

 頬杖をつきながらリオは一目で機嫌が悪いと分かる表情で、窓の外の流れ行く景色を眺めていた。

 チラッと見るとシルバーも機嫌の悪そうな……いや、こちらの表情は普段からこうだ。


 王都自体はいろいろと興味があるのだが、今回は王族も絡んでいるとなると正直面倒事の匂いしかしない。

 リオ自身が王族と関わる訳ではないが、面倒な何かに巻き込まれる可能性の高いシルバーとは距離を置きたい………切実に。


 と、シルバーには王都へ発つ前日の夜に本人に包み隠さず言ったのだが、実際はただたまにはアルジェンテで一人のんびりしたかっただけである。

 普段もカウンターに座ってのんびりしてるだろうって?

 いや、あれ結構キツイから。

 ただ座ってるだけって意外と疲れるし、何より暇なんだよ。

 ……まあ、面倒事が待ってそうだと思ったのも確かだけどね。



「なあ。結局ずっと俺が御者台って酷いとは思わないのかな、君たち」



 馬車の前方からルイスの声が聞こえてきた。

 その声が若干の疲れと苛立ちを含んでいるのは、アルジェンテからここまでずっとルイスが馬を操ってきたからだ。


 ちなみにアルジェンテにある馬車は御者が必要ない。

 何故か?

 馬車と言う名の最新技術が詰め込まれた乗り物で、馬も本物ではないからだ…傍目には本当に生きているように見えるが。

 馬の形を模したそれは手綱を握る必要がなく、基本あらかじめ設定しておいた通りの道順を走り、その他変更点などは馬車の中からでも魔力によって操作ができる優れものらしい。

 なおちゃんと自己判断で止まったり曲がったりもできる。

 よくそんなものがアルジェンテにあるなと驚いたが、シルバー曰く、製作者である同級生から押し付けられた、とのこと。



 ルイスの声に、リオは爽やかに笑う。


「はは、私手綱とか握ったことないんで」


 一方のシルバーは無表情で言い放つ。


「身体動かすのは魔法も使えねえてめえの唯一の取り柄だろうが。それに第一この馬車はお前が乗って持ってきたんだ、よってお前がそこに座るのは当然だ」



 あんまりなシルバーの言葉にルイスがついに叫んだ。


「リオはともかく、シルバー!!当然とか意味わかんないんだけど!?それに転移が使えないお前に言われたくないね!!お前こそ魔法とったら残るもんなんてほとんどねぇだろ!!」


「ああ"?転移は使えねえんじゃなくて苦手なだけだ!!」


「だったら使えよ!時間も労力も大幅に削減できるんですがねえぇええ!?!?」


「俺の労力は削減されねえ!!むしろ俺が多大な労力を費やさなくちゃならねえだろうが!!それに魔法とったら残るもんがないって、なんだ!?あるわボケ!!そもそも転移が苦手なのだってなあ、」


「あーはいはい!そうでございましたねぇ!!!……つーか残るのはその口の悪さだけだろうが!!!!」



 いや、今ならルイスも口の悪さでは負けてないと思います。

 声には出さずにリオは心の中でそう呟く。


 そのまま騒がしいBGMを聞き流していると、ついに王都の姿が遠目に見えてくる。


「はあ、来てしまったものは仕方がないか」


 こうなったら、もしシルバーが厄介事に巻き込まれたら一歩離れたところから笑ってやろうと決めたリオだった。






 ***






「あー着いちまったか……帰りてえ」


「同感です。アルジェンテでのんびりしていたいです」


「ねー。俺も出来るなら今すぐUターンしてぇわ」




 王都へと辿り着いた一行は、王都中心部にある大きな門を潜り抜け王宮へと向かって足を進めていた。

 それぞれが声に諦念の色を滲ませながら呟くが、最後のルイスの言葉にリオは呆れたように言う。


「何言ってるんですか。私やシルバーならともかく、ルイスは王都の騎士様でしょう」

「アルジェンテでのんびり過ごしたせいかまた働き詰めの毎日が始まると思うとさ。もうここには帰って来たくなかったよね」

「てめぇはそれでも騎士かよ、おい」

「残念ながら。みんな憧れの騎士様様です」

「「……」」

「え、無言とか止めて。地味に傷付くから」


 そんなルイスを華麗に無視し、リオは広く美しい庭の先に見える圧倒的存在感を放つ宮殿に目を向ける。

 壮麗としか言いようのない外観に、その中もきっと煌びやかで美しいのだろうなと思う。

 同じように宮殿に目を向けていたシルバーが嫌そうに息を吐きながら言う。


「だいたい王宮なんて堅苦しい場所、俺みたいに粗暴な奴が来る所じゃねえだろう。場違いにもほどがある」

「お前は黙ってれば良いと思うよ。見た目だけなら王宮の絢爛さにも霞むことはないだろうから」

「確かに"見た目"だけは良いですからね」

「……てめえら喧嘩売ってんのか」


 ルイスとリオに好き勝手言われたシルバーの声は怒りが籠り震えていたが、既にリオの中で彼は残念美人と位置付けられているため彼の怒りの声は届かない。

 それはルイスも同様である。



 と、そこで歩きながらキョロキョロと周囲を見回していたリオはふと思ったことを口にする。


「でも、意外でした。私も門を潜れるとは思いませんでした」

「まあ今回は俺もいたし、基本的にきちんと身元を証明して訪れた目的を述べれば門を通ることはできる。それに一般に公開されている空間もあるんだよ」

「そうなんですか。でも流石に私が宮殿の中まで入ることはできませんよね?」

「あー門を通るのと宮殿に入るのはまた別だからなあ。けどシルバー付きの従者とか何とか言えば入れなくはないんじゃねえか?多分」

「……その方法はご遠慮します。私はそういう場所での立ち振る舞い方を全く知りませんから」

「ははっ。それでもシルバーよりはマシだと思うけどね、俺は」



 確かに普段のリオとシルバーの言動を比べればそうかもしれないが、二人の間には決定的な違いがある。

 それはこの世界、この国で生まれ育ったかそうでないか、だ。

 この世界の人間ではないリオにはまだまだ知らないことも多い。

 最低限の常識、マナーは身につけたが、あくまでも最低限、だ。

 礼節に厳しいだろう宮殿内で何がタブーになるか分かったもんじゃない。


「なら俺が王宮に行ってる間、リオはどうする?俺もどれくらい時間がかかるか分からねえし……」

「そうですよねえ」


 どうしようかなあとリオが考えていると、ルイスがのんびりとした口調で言う。


「んーじゃあもしよかったらうちの騎士団の訓練場でも観に来ない?」

「え、いいんですか?」

「うん。時間も潰せるし、退屈はしないと思うよ。そんで後で呼び出しの終わったシルバーにむかえにきてもらえばいい」

「成る程、名案です。じゃあお言葉に甘えて……」

「は?ルイス、てめぇは俺と一緒に王宮に行くんじゃねえのかよ?」



 あ、確かに。

 ルイスはシルバーを連れて来いって言われているんだものね。

 ルイスは行かなくていいのだろうか。

 まさか俺一人でいかなくちゃならねえのか、とシルバーは嫌そうに呟く。


「別に問題ないだろ?ようは今日お前の姿が王宮内にあればいいんだからさ。それに一人じゃない。きっともう中にハイラムさんがいるはずだから一緒に行くといい」

「げ、ハイラムがいんのか。尚更行きたくねえな」

「ま、頑張れ」


 あまりにも爽やかすぎるルイスの笑顔に、シルバーは何かを確信したように言う。



「………お前絶対あいつに会いたくないだけだろう」


「……それが、何か?」

「まあ、いい。てめえが鬼畜だの何だの言っていたと伝えておいてやる」




 瞬間、シルバーの言葉に真っ青に顔を染めたルイスの絶叫が辺りに響き渡った。






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