騎士の訪問 (5)
トントントントン
「でねー」
トントントントン
「その時にーーー」
トントントントン
「ーーーーってことがあったんだけどーー」
トントントントン
「…………ねーねー、聞いてるー?」
トントントントンーーーーーダンッ!!!
「うるせえ!俺に話しかけんな!」
リオの隣で野菜を切るシルバーの包丁が一際大きな音を立て、同時にシルバーの怒号が飛んだ。
その怒声を浴びた本人はへらへらと笑っている。
「あーなんだ、ちゃんと聞こえてるんじゃん。もう耳が遠くなっちゃったのかと心配しちゃったよ俺」
「俺はまだそんな歳じゃねえし、俺からの反応がない時点で無視されていることに気づけ!」
ダンッ!!
おお、怖………。
再び物凄い音を立てる包丁。
リオはそのうちシルバーがその勢いで自身の指を切ってしまわないか密かに心配していた。
と、そこでシルバーが包丁を持ったままルイスの方を振り返る。
その目は見事につり上がっていた。
「それより、てめぇは何してる!俺とリオが動いてんのに、なんでてめぇが何もしてねぇんだ、おかしいだろうが!」
「えーだってキッチンに三人で立つなんてスペース的に無理があるでしょ」
2人並んだらもう俺の入る隙間ないじゃん、とキッチンに立つリオとシルバーを見ながらルイスはへらりと笑う。
リオの隣からぶちりと何かが切れた音が聞こえた気がした。
「働け!働かねぇ奴に食わせる飯はねえぞ!」
「って、ちょっ、アブね!!シルバー、お前こっちに包丁向けんな!それは食材に向けるもんだろ!?」
「なんならてめぇを切り刻んで今日の晩飯に加えてやる」
「やめとけって!俺が言うのもなんだけど、絶対不味い!!」
ぎゃーぎゃー煩い雑音をリオは水を流すことで強制的にシャットアウトし、一人黙々と晩飯の準備を続ける。
すると、しばらくしてリオの隣にルイスがやってきた。
「どうしたんですか?」
「いや、お手伝いにキマシタ」
「………そうですか」
どうやら、ルイスはシルバーに負けたらしい。
若干片言なのが気になったが、手伝ってくれるというのならお願いしよう。
「じゃあ、これ洗ってあるんで皮を剥いてください。そのあと一口大の大きさに切っておいてください」
「………ウン、ヤッテミルヨ」
この人、大丈夫だろうか。
少し、いやかなり不安になるリオだったが、とりあえず任せて自分はフライパンを取り出し、具材を炒め始める。
しばらくしてだんだんと具材が色づき、香ばしい匂いが辺りに広がっていく。
すると。
ダンッ!!!!!
その音に驚いてビクッと肩がはねたリオは、その音源を振り返る。
そして顔を真っ青にした。
「ちょっと!何やってるんですか!」
「ん?」
リオの叫びに、ルイスが顔を上げて首を傾ける。
しかしそんなことはどうでもいい。
リオの視線は彼の手元に注がれていた。
「その持ち方!!」
「え、何かダメなところあった?」
「ダメも何も、そんな持ち方する人初めて見ましたよ!」
「あ、ちょっとおかしかった?やっぱり」
ルイスの包丁の持ち方はちょっとおかしいのレベルを通り越してもはや異常だった。
うまく説明できないが……そう、一番近い言い方をすれば逆手、とでも言うのだろうか。
ルイスの言葉に唖然とするリオの目の前で、彼はその包丁を振り上げ、切っ先を真下に向けた状態で垂直に振り下ろした。
ーーーーーダンッ!!!!!
「こわっ!ルイスさん、それ怖いです!っていうか危なすぎるので今すぐやめてください!!」
野菜は吹っ飛び、包丁がまな板に突き刺さっている。
その惨状を作り上げた本人は、包丁を振り上げた状態でキョトンとした表情でリオに聞き返す。
「え、どこが危ないの?」
「全てです!!」
リオの必死の形相に、ルイスはしぶしぶ包丁をまな板の上に置いた。
思わずリオはほっと一息つくも、本人はなんだか不服そうだ。
「そんなに俺のやり方危なかったかなあ」
「少なくとも、あんな持ち方は初めて見ましたよ、私」
「んーとりあえず、普段剣を持つときと同じように持ってみましたー」
「やめてください。剣と包丁を一緒にしないでください」
とりあえず、駄目だ。
この人に包丁を持たせてはいけない。
まだ切り分けられていない具材も、よく見ればかなり身が小さくなっている…………絶対、皮剥く時に身も削られたな、これ。
「ごめんねー、リオ。役に立たなくて」
「貴方が戦力外であることはよく分かりました。とりあえず、もう二度と包丁は持たないでください」
「二度とって酷いな。じゃあ、皿によそったり、料理運ぶの手伝うよ」
「あと、そこにたまっている洗い物をお願いします」
「了解しましたー」
ルイスが洗い物をする様子をしばらく見守っていたリオだったが、今度は危なっかしい様子もなく与えられた仕事を全うできそうだと判断し再び料理に戻った。




