◆ソラヨリ赤クソマルノハ
「ママーパパーいってくるねー!!」
バタバタと音を立てながら玄関まで走る。
とちゅうでリビングにむかって叫べば、パパとママの声が返ってきた。
「いってらっしゃい、チャーリー」
「気をつけるのよ」
くつをはくと後ろにパパとママが立ってこっちを見ながら笑っていた。
大好きな、僕のパパとママ。
ブンブン手を振って家を出て、道の上をかけていく。
と、
ーーードンッ!!!
「わあっ!」
「うわっ!」
人に、ぶつかっちゃった。
ぶつかった人のかぶっていたフードがとれる。
その時見えた、その人の髪に目が釘付けになった。
と、そのまま僕は後ろにバランスをくずして尻もちをついた。いそいで顔をあげて謝る。
「ご、ごめんなさい」
僕がぶつかったのは男の人だった。
って、あれ?
このお兄さんの髪の毛の色ーーーー
「大丈夫か?坊主。立てるか?」
と、お兄さんは少し笑いながらしゃがんで僕と目線を合わせてきた。
ちょっとびっくりしたけど、それよりもお兄さんの髪の毛をもう一度見てみる。
「ん?どうした?」
「あ、えっと、おかしいなぁって」
「何が?」
「最初に見たときと、今とでお兄さんの髪の毛の色が違うような気がして…」
ぶつかって、尻もちをつくまでの一瞬。
「夜の色みたいできれいだなぁって思ったんだけど……」
「………逆光で見間違えたんじゃねえか?」
「ギャッコウ?よくわかんないけど…そうかも!」
たしかに、見間違えたのかも。
今僕の前で笑うお兄さんの髪は、夜の色ではなかった。
「で?坊主はそんなに急いでどこへ行くんだ?」
「えっとね、友達と東の森の川で遊ぶの!」
東の森なら遊びに行ってもいいって村の大人たちは言ってる。
お日さまが顔を出しているうちは、安全なんだって。
ただ、夜になるとこわい魔獣が出てくるから暗くなってからは絶対入っちゃいけないけど。
「そうか。目一杯遊んでこいよ」
「うん!あ、ねえお兄さん。ベリーがたくさんとれる場所、知らない?ママに頼まれたんだ」
「それなら、東の森の湖の周りを探してみるといい。川を辿っていけばたどり着ける。少し遠いが、たくさん採れると思うぞ」
「ほんと!?」
「ああ」
「あ、お日さまが沈むまでには帰ってこれるかな?お昼まで遊んで、その後にとりにいこうと思ってるんだけど…」
「そうだな…昼に湖へ行ってベリーを摘んだとして、空が赤くなる頃には帰ってこれるだろう」
「そっか!お兄さん、ありがとう!!」
「おう。今度はちゃんと前見て進めよ」
「うん!」
バイバイ、と手を振ってお兄さんに背を向けて走り出す。
優しい人だったな。
やっぱり、あれは見間違いだよ。
夜の色。
前にパパとママが言ってた。
魔族の色なんだって。
夜の色は魔獣と魔人しか持っていないんだって。
魔人は見た目は僕たちと似てるけど、すっごくこわいんだって。
だから、きっと見間違い。
だって。
あんな優しいお兄さんが魔人なわけ、ないもの。
***
「ーーー何、やってんだか。俺は」
本当に、自分は何をしているのだろう。
見つめる先には、駆けていく一人の小さな少年の背中が。
何故、
「夜の色、ね」
ーーーーいや、ただの気まぐれさ。
何故も何もない。
そう、ただの気まぐれ。
「坊主、悪いなーーー空が赤く染まるまでには全て終わってるだろうよ」




