愁雲
「俺も、」
小さく。
リオにもほとんど聞こえないほどの声でシルバーが呟いた。
「シルバー?」
初めて聞くようなシルバーのその声に、リオは隣のシルバーを見やる。
そして、静かに悟る。
ーーーーああ、この人も。
リオは目を伏せながら顔を二人の子供の方に戻した。
ーーー『異なる世界を行き来する?…………召喚魔法のことか?』
以前ーーー拾われてから初めて迎えた夏のはじめに。
元の世界に帰る方法を探し、シルバーにそれとなく尋ねたことを思い出す。
異世界があることは常識のようで、リオは世界と世界の移動手段が存在するのかを問うた結果、召喚魔法という答えが返ってきた。
ーーー『それって、人……とかも呼び寄せることができるんですか?』
ーーー『大昔は…勇者召喚だかなんだかあったみたいだがな。使い魔とやらも存在していたらしい。今じゃその文献もほとんど残ってねぇし、そもそも召喚魔法自体、失われた魔法だ』
ーーー『そう、ですか』
ーーー『召喚魔法を復活させようと研究している学者も少なくない。使い魔という戦力や異世界の知識、技術を得ることができるかもしれないからな』
ーーー『実際、その研究は進んでいるんですか?』
ーーー『成功したとか言う話もいくつか耳にするが、あくまで、この世界内にあるものの召喚だ。異世界からの召喚には、程遠いだろう』
ーーー『例えば……もしも、異なる世界からやってきた人がいたとしたら、どうなるんですかね。…その人は元の世界に戻れるのでしょうか』
ーーー『さあな。発見されれば少なくとも、国の保護下に置かれることは間違いないだろうぜ………いや、監視下と言った方が正しいか』
ーーー『…(自由が制限されるのは嫌だなあ)』
ーーー『それと、元の世界に戻るのは難しいだろう。召喚魔法が使えていた当時なら可能だっただろうが、世界を越える召喚魔法の消えた今は不可能だと言っていい…………そいつが世界を渡った方法が分かればまだ希望はあるかもな』
その言葉を聞いたその日から。
不可能だと言われても、リオなりに考え、調べてもみたが、結局元の世界に帰る方法について何の手がかりも見つかっていない。
お母さん、お父さん、京ーーー。
いつも当たり前すぎて、その存在の大きさに気づけなかった。
会えなくなってから、ふとした拍子に思う。
私、ちゃんといつもありがとうって言ってたっけ。
毎日食べてたお母さんの手作りのお弁当。
夜遅くまで働くお父さんの帰ってきた声。
可愛い弟とはいつも喧嘩ばかりだった。
家族四人で暮らす、ごく普通の小さな家。
今では全てが懐かしい。
私、大好きだった。
お父さんもお母さんも京も、すごく大切な存在だった。
ありがとうもごめんも、他にもたくさん。
会えなくなってから、溢れてくる。
ーーーー会いたい。
「シルバー」
「…」
「シルバー」
「…何だ」
「…何でもありません」
「………そうか」
ふと、特に意味もなくシルバーの名を呼び、返事が返ってくることに何故か安堵する自分がいる。
会いたい。その想いは消えずに残っているけれど、少なくとも今、私の隣にはシルバーがいる。
だからだろうか。
「……なあリオ」
「……何ですか?」
「……いや、何でもねぇ」
二人の子供とは対照的に、愁然とした二人の大人。
いや、大人……なのかな。
「シルバー。どうしたんですか、らしくないですよ」
「てめぇもな。……少し昔を思い出して、昔の自分に呆れてただけだ」
「………そうですか」
「ああ」
それからしばらく。
リオはシルバーと共に静かに二人の子供を眺めていた。




