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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第八章
72/123

◆一対の翼と幸せの四つ葉

 

 

 



 とうとう、この日がきてしまった。


 

 


「それじゃあ、この子のことよろしくお願いしますね」

「ええ」

「ニーナ。お前さんがいなくなるなんて寂しいけれど、新しい家で幸せになるんだよ」

 

 

 寂しい、だなんて。

 そんなこと思ってもいないくせに。

 白々しく、"良い先生"を演じる先生に吐き気がした。

 先生がニーナのために何かをしてくれたことなんてあったかな。



 そう考えて、頭の中に浮かぶのは先生とは違う顔。

 いつもニーナのこと、面倒をみてくれてたのはお兄ちゃんだった。

 

 物心ついた時には、ニーナは孤児院にいて。

 ニーナのそばにはお兄ちゃんがいた。

 ずっと、一緒だった。

 

 お化けが怖くて眠れなかった時も。

 先生に怒られて泣いてしまった時も。

 ちょっとの硬いパンしか食べさせてもらえなくて、お腹がぺこぺこだった時も。

 

 ずっと、一緒だったのに。

 今、ニーナの隣にお兄ちゃんはいない。

 

 

 

 

 ーーー『ニーナ!引き取られるって…この孤児院、出てくって、本当か!?』

 

 



 焦ったお兄ちゃんが、そう言ってニーナのところへ来たのは三週間も前のこと。

 

 


 

 ーーー『うん、そうなんだ。ニーナを引き取りたいって言ってくれたの、とっても優しそうな人たちだったよ』


 ーーー『なんで……なんでそんなふうに、笑って言うんだよ…』

 

 

 

 笑ったのは、お兄ちゃんに心配かけたくなかったから。

 引き取ってくれる人が優しそうな人たちだったのは、本当。

 それに、今までたくさんお兄ちゃんには面倒みてもらったから。

 お兄ちゃんが、お腹を空かせた私のために食べ物を盗んできてくれてたのも知ってる。

  私が孤児院を出て行けば、お兄ちゃんが盗みをする必要なんて、ないでしょう?

 

 

 だから。

 

 だから、ニーナは、笑って、

 

 

 

 

  ーーー『ニーナは!俺と一緒にいられなくなっても、何とも思わねぇのかよ!!』

 

 

 

 

 ………そんなわけ、ないじゃん。

 何とも思わないわけないじゃん。


 寂しいよ。離れたくないよ。

 お兄ちゃんとずっと一緒にいたいよ。

 

 でも、もう決まっちゃったことだから、ニーナにはどうすることもできないから。

  つい、そんなこと言うお兄ちゃんにカッとして、大丈夫だよっ!って言い返しちゃって。

 あの時は、半ば喧嘩のような言い合いになってしまった。

 

 

 


「ニーナ、孤児院のみんなにお別れちゃんと言ってきたかい?」

「あ…」

 

 

 今日からニーナのおとうさんになる人が、優しく声をかけてくれる。

 

「えっと、まだ…です」

 

 とっさにそう答えた。

 本当は、みんなにはもう挨拶をしてきた……お兄ちゃん以外。

 

 あの日から、お兄ちゃんが孤児院を飛び出していった日から、お兄ちゃんはまだ帰ってこない。


  一番、会いたい人なのに。

 言いたいことも、たくさん、あるのに。

 だから、お兄ちゃんが来てくれるまで、できるだけ待っていたかった。

 来てくれるかも、分からないけれど。

 

 今のニーナにできる、精一杯の時間稼ぎ。

 

 

「あらあら。それはダメよ。きちんとお別れの挨拶、してこなくちゃ。私たちは、馬車で待ってるからゆっくりみんなと話してきなさいな」

 

 お母さんになる人が、頭を撫でてくれる。


 本当に、優しい人たち。

 ニーナには、もったいないくらい。

 


  二人が馬車へ行ってしまってから、孤児院の門の前で一人ぽつん、と立つ。

  キョロキョロと辺りを見渡しても、お兄ちゃんが来る気配はない。

 

 これで、終わり?

 このまま、お兄ちゃんにはもう、会えないの?

 

 

「……そんなの、いやだよぅ…」

 

 

 思わず、視界が歪む。

 涙が溢れて、ぼろぼろと止まらない。

 

 会いたい。

 会いたいよ、お兄ちゃん。

 どうして、最後に会いに来てくれないの。

 

 ……ニーナが嘘をついたから?

 本当は泣きたかったのに、笑って。

 お兄ちゃんと離れたくないって本当のこと言わないで、大丈夫だよって嘘ついたから?

 だから、バチがあたったの…?

 


「うっ、うぅ…おにいちゃあん」

 

 

 ねえ、ごめんなさい。

 嘘ついて、ごめんなさい。


 ニーナ、本当は大丈夫なんかじゃない。

 お兄ちゃんがいないと、寂しいよ。

 

 だから、お願い。

 


 最後に、お兄ちゃんに会わせてください。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーニーナ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の、声。

 

 ニーナを呼ぶその声に、俯けていた顔をばっとあげる。

 目の前は、光に包まれていて、とても眩しかった。

 でも、その光の中から。


 男の子が、駆けてくる。

 明るい茶色の髪を靡かせて、黄色い目をした男の子が、駆けてくる。

 

 

「おにいちゃぁぁあああああん!!」

 

 

 その姿を見て、思いっきり泣き叫びながらお兄ちゃんを呼んだ。

 

「ニーナ!」

「うわあぁぁああん!!お兄ちゃぁああん!!」

「ごめん、ニーナ」

「本当、だよ!遅いよ!!もうっ、お兄ちゃんのばかぁぁあああ!!」

「ごめん、本当にごめん」

 

 何で帰ってきてくれなかったの。

 もう会いに来てくれないかと思ってた。

 ニーナを抱き締めるお兄ちゃんに、ずっと不安に思ってたこと、全部ぶちまける。

 

 そうすると、お兄ちゃんはニーナを放して、自分の手を前に出す。

 

「ごめんな。俺、これ作ってたんだ」

 

 そう言って手を開いたお兄ちゃん。

 そこには、一つのペンダントが。


 

「……綺麗」

 

 ニーナの好きな薄桃色の、翼の形をしたペンダント。

 半透明の翼は、太陽の光にキラキラと輝いて。

 

「これ、お前に」

「ニーナ、に…?」

「ニーナのために、作ったんだ」

 

 お兄ちゃんはそう言って、ニーナの首にそのペンダントをかけてくれた。

 そして、お兄ちゃんはズボンのポケットから何かを取り出す。

 

「俺と、おそろい」

 

 ニヤッと笑うお兄ちゃんの手には、ニーナのとは色違いの翼のペンダントが。

 お兄ちゃんのは、今日の空みたいに綺麗な水色。


 思わず、自分のペンダントを握りしめる。

 嬉しいな。

 すごく、嬉しい。

 

 ニーナの翼と、お兄ちゃんの翼。

 一つだけだと片翼のペンダントだけれど、二つ揃うと一対の翼になる。


「二つで、一対の翼だ。それと、もう一つ仕掛けがあんだぜ?」



 ニーナが首を傾けると、お兄ちゃんは自分のペンダントをニーナのペンダントにくっつける。

  すると、

 

「わあぁ…!すごい、すごい!!」

 

 ニーナとお兄ちゃんのそれぞれの翼にあった複雑な紋様が、ぴったりと繋がって。

 一つの四つ葉が、浮かび上がる。

 

 

「ニーナ。この前は、ひどいこと言って、ごめん」

 

 

 四つ葉。

 それが意味するのは。


 

「ううん…あのね、お兄ちゃん。この前は言えなかったけど……ニーナもね、寂しいよ。泣きそうだったから、我慢して笑ってたの」


「そっか。ニーナ、泣き虫だもんなあ」

「全然、大丈夫なんかじゃないんだよ」

 

 よしよし、とお兄ちゃんは私の頭を撫でる。

 そして、私と目を合わせると歯を見せて笑った。

 

 四つ葉。

 それはーーーーーーー

 

 


「ニーナ、誕生日おめでとう。幸せに、なれよ」

 

 

 

 

 ーーーー幸せの、証。

 

 

 

 

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