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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第八章
71/123

ヴァルと魔石と色と

 

 




 

 ヴァルが魔石細工作りを始めてから5日が経った。

 


「あ、あああぁぁぁぁぁぁ…」



 アルジェンテに、ヴァルの情けない声が響く。

 

「また、かたまった……」

 


 ヴァルの魔石細工作りは、一向に進んでいなかった。

 魔石を溶かすことはできても、そこから練ることができない。一定量魔力を魔石に流し続けるのは、溶かすのとは桁違いに難しいようだ。

 


「一度休憩しろ。魔力もだいぶ消費しただろうからな」

「……おう」

 


 ……大分疲れているようだ。


 シルバーは何処かへ行ってしまい、リオはおやつを持ってヴァルのもとへ行く。

 


「はい、お疲れ様です」

「ありがとう…ってなんだ!?これ!?」

「?カボタのタルトですが」

「まさかリオが作ったのか?」

「ええ」

「へぇ。てめぇにこんなもんが作れるとは知らなかったぜ」

 


 甘い匂いを嗅ぎつけてか、姿を消したはずのシルバーも再び顔を出す。

 シルバーは甘いもの好きだからなあ。

 いそいそとシルバーも席につくのを見て、シルバーの分のタルトとお茶も持ってくる。

 

 もともと、お菓子を作るのは好きだった。

 元の世界ではたまに作っていたのだが、そういえばこちらの世界で作ったのは初めてかもしれない。

 材料が揃わなかったこともあるし、普段は店番をしているため作る時間もないのである。

 

 しかし、ヴァルがいる間は店を閉めよう、ということになったため暇になってしまった。

 そこでリオはふとカボタが余っていること、さらにたまたまビスケットやら砂糖やらも揃っていることを思い出しタルトを作ったのだった。

 

 カボタはかぼちゃによく似た野菜であり、名前までもがどこかかぼちゃに似ているのが面白い。

 カボタに限らず、元の世界と同じようなもの、そして名前までもが似た響きを持つものは意外と多く存在しており、そこがまたこの世界の不思議な所である。

 中には全く同じ名前もあるしな、と考えながらもリオは一度その思考を中断し目の前に座るヴァルの方へと意識を向けた。

 

 ヴァルは幸せそうにタルトを頬張っていた。

 思わずこちらまで微笑んでしまうほど、彼は本当に美味しそうに食べる。

 


 しかし途中でヴァルは溜め息を吐いた。

 

「…はあ。俺、ダメだな。五日経ってもまだ魔石練れねぇなんて」

「まあ、仕方ねえな。こればっかりはできるようになるまで、個人差がある」

「ニーナなら、俺と違ってすぐにできただろうな」

 


 フォークを置いて、ヴァルは手で自分の前髪をつまむ。

 


「俺の髪は、こんな茶色だろ?茶色は、魔法の才能がねえんだって。でも、ニーナは髪も目も綺麗な緑色だから。俺よりも上手に魔力を操れるんだろうなぁ」

 

 ニーナのことを思ってか、ヴァルの表情が和らぐ。

 前髪を放して、ヴァルは少し苦笑い。

 

「先生たちも、言ってた。色のついた子供は、引き取り先が見つかりやすいって。けど、俺みたいな茶色は引き取ってくれる人もいないだろうってさ」

 

 あーあ、とヴァルは溜め息をつきながら頬杖をつく。


「俺の髪も茶色じゃなかったらなあ」

 

 そのままの調子でヴァルは続ける。

 


「俺さ、将来は騎士になりてぇんだ」

「騎士…かっこいいですね」

「だろ?でも、だから余計に茶色じゃなかったらって思っちまうんだよなぁ」

「ヴァル君は髪は茶色ですけど、目は綺麗な黄色じゃないですか。私なんか髪も目も両方とも茶色ですよ」

「あ…わりぃ」

「いえいえ、謝らなくていいですよ。なんとも思っていませんから」

 


 ……まあ、本当の色は黒だけどね。

 私はこの世界の人ではないから。

 髪の色でどうこうとは思わない。


 思わないけれど。

 一年以上この世界で暮らすと、見えてくるものがある。

  この世界では髪や目の色で人を差別する人間がいる。

 私の世界でも様々な差別が存在していたのと同じように。

 今まで自分の周りでは、明らさまな差別を目の当たりにしたことはないけれど。

 

 魔法の才能が髪に現れること。

 貴族が色にこだわること。

 ヴァルの孤児院の先生が言った言葉。

 

 それらのことから、色による差別が存在するだろうことは推測するに容易い。

 


 でもそれなら。

 それなら、シルバーはどう思ったのだろう。

 私の黒い髪と目を見て。

 魔法の才がないとされる茶色とは違い、黒は魔物の証とまでされているというのに。

 カールからそれを聞いてからは、ふとした時にそう思うようになった。

 


 そこで今まで黙々とタルトを食べていたシルバーが口を挟む。

 

 

「別に、茶色だから無理ってことはねぇぞ」

 


 思いもよらぬシルバーの言葉に、えっ?とヴァルは素っ頓狂な声をあげる。

 

「あくまで色はその才能があるってだけだ。それを生かすも殺すも自分次第。茶色だが人の何十倍も努力して色つきの奴にも負けねぇくらいの魔法を手に入れた奴もいるし、剣を極めてそれだけで騎士に上り詰めた奴もいる」

 

 俺の知り合いに、いるからな。と言うシルバーにヴァルは何を思っただろう。

 

 

「…そっか。そっか」

 

 それを繰り返すヴァルの表情は少し晴れやかだ。


 

「ところで、ヴァルはニーナちゃんに何を作るつもりなんです?」

「うーん…何を作ろうかなぁ」

 

 腕を組んで唸るヴァル。

 まだ決めていなかったようだ。

 そこでふと、リオは自身の左耳についている赤いピアスの存在を思い出す。

 

「お揃いのものを、作ってみては?」

「おそろい?」

 

 首を傾けるヴァルに、リオは左耳を見せる。

 

「これ、この街を出て行った私の親友とお揃いのピアスなんです」

「それ、いいな」

「ええ。お揃いのものがあると、その人と繋がっている気がするんですよね」

「んー…よし、決めた!俺、おそろいのペンダント作る!!」

「……なら、紙やるからそこにデザインでも描け」


 

 空になった皿とカップを持ち席を立ったシルバーがどこからか紙と色鉛筆を持ってくる……………色鉛筆なんてあったんだ。



 それを受け取ったヴァルは楽しそうにペンダントの構想を練り始め、リオはそれを微笑ましく見守るのだった。

 

 


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