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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第八章
70/123

孤児院を飛び出してきた少年 (4)

 

 

 




 ニーナが孤児院を出て行ってしまう日までもう二週間しかない、ということで。


 ヴァルの魔石細工作りはすぐにスタートした。

 けれども当然のことながら魔石細工なんて全く作ったことのないヴァルは、まず魔石の溶かし方から覚えなければならなかった。

 


  「魔力の流れは、分かるか?」

 

 シルバーがヴァルに問う様子をリオは二人の近くに椅子を持ってきて座りながら眺める。

 魔力の流れ、ねえ。

 私には一生分からないものだろうなあ。

 

 

「…それなら、なんとなく分かる」

「よし。なら、話は早ぇな。その流れを意識しながら、魔力を両手にーーーーーーー…」

 

 

 後で聞いた話だが、幼い頃から魔法の教育を受けていない限り、ヴァル君くらいの歳の子供が魔力の流れを感じたり、操ったりするのは相当難しいらしい。

 ヴァル君はたまたま魔力の流れを感じ取ることができたみたいだ。

 

「そのまま、持ってる魔石に、魔力を込めろ」


「……何も変わんねえけど?」

「それはてめぇの込める魔力が足りてねえからだ。もっと、込めろ」


「もっと、ってどれくらい込めりゃいいんだ、よ!」

 

 

 溶ける様子のない魔石に、ヴァル君はその声と共にぐっと全身に力を入れたように見えた。

 するとその甲斐あってか、魔石はその形を崩す。

 

「お、おお!?溶けたぞ!!」

「って、おい!バカ!!魔石に送る魔力弱めんじゃねえ!!固まっちまうだろうが!」

「はあ!?固まんの!?もしかして一度固まるともう溶かせないのか!?」

「そうだ!出来なくはねぇがお前にゃまず無理だ!だから一度溶かしたらずっと一定の量、魔力を流し続けなきゃいけねぇ。おら、新しいのでやり直せ!」

 

 


 ーーーーこれ、間に合うのかなぁ。

 リオは二人のやり取りを眺め、ぼんやりとそう思う。

 

 秋紅の月、17日。

 その日が、タイムリミットだ。

 

 この世界の一年は春桃、春黄、夏青、夏緑、秋橙、秋紅、冬白、冬黒の八つの月から成り、一月40日と数日、一年で約330日。

 およそ一ヶ月分だけ元の世界より一年の日数が少ない。

 それを知った当時のリオは元の世界でいうと18歳だったが、こちらの世界だと19歳ということになった。

 郷に入っては郷に従え、ということでその時からリオはこちらの世界の数え方で歳を数えている。

 

 ーーーああ思考がそれた。

 そんなややこしい月日のことなんか、今はどうでもいい。

 とりあえず、何が言いたいのかというと、時間はあまりないということだ。

 

 

 結局その日。

 魔石を溶かすことはできたものの、それを練るまではいかずに終わった。

 

 

「あ。シルバー、孤児院には連絡を入れたほうがいいんでしょうか。しばらくヴァル君はうちにいるんでしょう?」

「そういえば…連絡なんて全く頭になかった」

 

 魔石を片付け終わったシルバーと話していると、ヴァルが途中で口を挟む。

 

「連絡なんてしなくても平気さ」

 

 ヴァルは特に何の感情も込めずに、平然とそう言う。

 

「孤児院の先生たちが心配してるかもしれませんよ?」

「別に、孤児院の大人たちは俺たちのことなんざ心配しねぇよ。むしろうるさい餓鬼が減ったって、喜んでるかもな」

 

 ははっ、と明るく笑うヴァルに、本人がそう言うならまあ、いいか。と思う。

 その後、夕飯を用意してテーブルに並べるとヴァルに大変驚かれた。

 

 秋にとれる木の実を使ったサラダに、ご近所さんからもらった野菜のスープと少し硬めのパン。

 メインは肉屋のおじさんがサービスしてくれた牛肉で作ったステーキ。

 

「俺も、食べていいのか…?野菜も、肉も?」

 

 さっさと食わねえと冷めちまうだろ、というシルバーの声にヴァルはフォークを握りしめて食べ始める。

 

「うめぇ…!マジでうまい!!こんなにうまいもん食べたの、生まれて初めてだ!!」

 

 そんなに特別豪華な夕食ではなかったが、ヴァルはがつがつとすごい勢いで皿の上の料理を片付けていく。

 その喜び方は些か大袈裟すぎるように思ったが、ヴァルの話によると孤児院での食事はもっと粗末なものだったという。

 

  「孤児院じゃあ、肉なんて出たことねえよ!もぐっ、もぐ…これよりもっと硬いパンだけだ…ごくん」

「それしか出されないんですか?」

「あとはたまにスープがでる時もあるな」

「でもそれじゃあ全然足りないでしょうに…」

 

 育ち盛りの子供が腹を満たすにはあまりにも少ない食事だ。

 

「テータムの孤児院はあまりいい噂は聞かねえが、やっぱり、孤児たちへの待遇が悪いんだな。他の孤児院の方がもう少しマシな食事を出すだろうぜ」

 

 あそこは孤児に対して横暴だ、というシルバーの言葉にヴァルは頬を料理でぱんぱんに膨らませながら頷く。

 

「俺とかちょっと年上のやつらなら空腹も多少は我慢できるけど、一番大変なのは下の子供たちなんだ。腹が減れば泣くし、泣けば先生たちに叱られるし……最悪、殴られることもある」

 

 辛そうに歪んだ表情は、10歳とは思えないほど大人びて見えた。

 

「だから、そうならないようにいつも年上の子供たちで食べ物を盗んでる。それで、チビたちに食わしてやるんだ。そうやって、暮らしてる」

 


 生きるために盗む。

 それはシルバーに出会う前、リオも生きるために選んだ手段だった。

 

 すると、ヴァルはスープをちら、と見て困ったように笑った。

 

 

「だから、俺、今ちょっと申し訳ないなって思ってる。こんなにうまいもん、俺だけが食べてるから」

 

 

 あいつらにも食べさせてやりたかったなあ、と言いながらヴァルは全ての皿を綺麗に完食した。

 

 

 

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