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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第八章
68/123

孤児院を飛び出してきた少年 (2)

 

 

 

 

 



  雨が降りそうだというリオの予想通り、午後になると雨が降ってきた。

 

 

「リオ!雨が降ってきた!!洗濯物しまうの手伝え!!」

 

 

 店の奥からシルバーの声が響いてきたため、リオはカウンターの席から立ち上がる。

 どうせ店内に客はいないし、というより普段から来ないし。

 

 雨まで降ってくれば尚更客がやってくることはないだろう、とそのままカウンターから離れてシルバーの元へむかう。

 


 雨は結構大降りで、慌ただしく洗濯物を取りこむシルバーに倣い、リオも素早く洗濯物を室内に運ぶ。

 全てをしまい終わる頃には、シルバーもリオも全身びしょ濡れだった。

 

 

「ああ、くそっ、びしょ濡れだ」

 


 張り付いた髪をうざったそうにかきあげるシルバー。

 その髪は水を含んだせいか鈍い鉄色に見える。

 リオは室内に戻る前に、着ていたベストを脱ぎぎゅう、と水を絞る。

 その時、ふわり。

 全身を暖かい空気に包み込まれたような感覚。

 

「…あ、」

 

 気づけば体にぴったりと張り付いていたシャツが濡れる前の状態に戻っていた。

 シルバーの髪もいつものように銀色に輝きながら緩く波打っている。


 魔法、か。

 

「……やっぱり便利だよなぁ」

 

「何か言ったか?」

「いえ、何も。ありがとうございます」

 



 そのまま店の方へと戻るも、やはり客は誰も来ておらず、リオは再びカウンターの椅子へと座る。

 

 そこで、違和感。


 

「……ん?」

 

 

 何かが、違う。


 洗濯物を取りこむ前と今とで、店内の何かが変わった。

 それが重要なことのように思えて、その違和感の正体を必死に探す。

 そこで、リオはハッと目を見開いた。


 ーーーカウンターの上から、ドゥースの箱が消えている。

 


  その事実にリオは両手で顔を覆いながら絶望の悲鳴をあげた。

 

 

「どううぅぅぅぅぅぅううううす!!!!」

 


 まるでムンクの叫びのようなそれである。


 あまりのショックに呆然としていたリオの視界の端に、ふと、来客を告げるドアのベルが微かに揺れているのが目に入る。


 これは、誰かが店内に入って、チョコを盗んでいったってことか?


 もちろん、店を空けてしまっていた自分が完全に悪いのだが、それでもふつふつと湧いてきた怒りは収まらない。

 

「……この私からチョコを盗むだなんて。いい度胸してますね」

 

 小さく呟くと、リオはすぐに店を飛び出す。

 犯人が何処へ行ったのかは分からないが、リオは己の勘を頼りに道を駆ける。


 ベルが揺れていたのだから、犯人が店を出てからそう時間は経っていないはず……。

 

 と考えていたところで、雨で視界も悪い中、奇跡的にもリオはその犯人を発見する。

 その瞬間、リオの目がぐわっと見開かれた。

 

 

  「待ちやがれこんのくそ餓鬼ぃぃいいいいい!!!!」

 

 

 その声に驚いたのか、リオの血走った目に恐怖を感じたのか、犯人ーーーーまだ小さな少年が、ぎょっ、とした表情を浮かべて弾かれたように走り出す。

 その手にはしっかりと紺色の箱が。

 

 逃してなるものか、とリオも全速力であとを追う。

 しかし少年はすばしっこく、尚且つ複雑な小路地へと入り込んでいく。

 走って、曲がって、曲がって、塀を飛び越えてまた走って。

 

 そしてとうとう、リオは少年の姿を見失ってしまった。

 

 


「う、うう……ドゥース……」

 

 大好物の、それも高級チョコを失ったリオの嘆きが雨音に混じる。

 悲しみながらもいつまでも雨の中にいるわけにもいくまいと、がっくり、と肩を落としながらリオは重い足取りでアルジェンテに帰ることにする。


 しかし少年を追って無我夢中に走ってきたため道がわからず、知っている道に出るまで時間がかかった。

 と、雨の音に混じって聞きなれた声が。

 


「ーー…!……だ!…ーりーー……」

 


 それに反応して顔を上げると、遠くにシルバーの姿が見えた。

 

 傘も差さずに酷く焦った様子で、きょろきょろと辺りを見渡しながら足早に道を歩いてくる。

 そしてリオに気がつくと、シルバーはまっすぐにリオの元へと駆けてきた。

 

 

  「リオ!」

 


 焦ったその顔は、リオの姿を見て安堵の表情を浮かべたが、次の瞬間青みがかった銀色の目がつり上がった。

 

「てめえ、こんな所で何してる!」

「……ドゥースが……」

「あァ?」

「……ドゥースが…チョコが……」

「……ドゥースがどうした」

 

「ドゥースが盗まれて、犯人見つけて追いかけたんですけど、逃げられました………」


「はあっ!?てめ、チョコって…こっちがどれだけ心配したと思って…!」

 


 叫び声がして見に行ってみりゃ、てめえはいねぇし、店のドアは開きっぱなしだし、とぶつぶつ言うと最後にシルバーは呆れたようにはあ、と溜め息を一つ。

 

 どうやら、シルバーはリオに何かあったのでは、と心配してリオを探してくれていたようだ。

 


「ご心配をおかけしてすみません……」

 


 謝りながらもチョコを盗まれて落ち込んでいると、もう一つ溜め息が聞こえた。

 

「まあ、何もなかったんならそれでいいさ」

 

 帰るぞ、と動こうとしないリオの手をとると、冷てえ、とシルバーは顔を顰める。

 

「まったく、すっかり身体が冷えてんじゃねえか。風邪でもひいたらどうすんだよ」

「何もなくはありませんよ…チョコ盗まれちゃったんですよ?」

「あー分かった分かった」

「盗むなら魔石細工を盗んでくれればよかったのに…」

「聞き捨てならねえ台詞だな、おい」

「どうせ売れない魔石細工なら誰かに盗まれた方がまだ幸せだっただろうに」

「てめえ、喧嘩売ってんのか?」

 

 勿論、今言ったのは全て冗談である。

 シルバーと話す中でいくらかいつもの調子を取り戻したリオ。

 

「でも、大丈夫です。犯人の顔は覚えていますから。絶対に見つけてとっ捕まえてやります」


「……やっぱ、心配して損した」

 


 それまでとはうって変わりキリリとした表情を作り、食べ物の恨みなめんなよ、と言うリオを見てシルバーの口元が引き攣った。

 

 



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