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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第八章
67/123

孤児院を飛び出してきた少年 (1)

 

 





 

 ここは地球が存在する世界とは異なる世界。

 

 そんな異世界の大陸のうちの一つに存在するアルビオン王国の王都から、東へ約5日馬車を走らせるとテータムの街にたどり着く。

 

 そしてテータムのさらに街外れには一軒の店がある。

 小さく、お世辞にも綺麗とは言えない外観はあちこちにガタがきているのが一目で分かり、やや色褪せた看板には"アルジェンテ"の文字が見て取れる。

 しかし一見古びたこの店のドアを開けば、なかなかに洒落た内装が施されている。

 

 店内に飾られているのは白爛石から作られた美しい魔石細工たち。

 自らが買われるのを棚の上で待っている彼らだが、その時は一向に訪れそうもない。

 その原因は主に彼らを作り出した本人にあると言っていいだろう。

 

 今アルジェンテはまだ開店の時間をむかえていないため、ドアにはclosedと書かれた札がかけられていた。

 既に太陽が顔を出しており、外では秋に色づいた木々がその光を浴びている。

 

 アルジェンテの住人は二人。

 その一人であるリオがリビングへと姿を現す。

 リオは白と淡い黄色のリボンで飾られた紺色の箱を手にリビングのソファへと腰を掛けた。

 手にしているのは今朝ジャックから届いたものだ。

 

 王都での大会から帰ってきたのは一昨日のこと。

 王都からテータムまでは馬車で5日はかかるはずが、カールの魔法により瞬きの内に店へと帰ってくることができたリオは、改めてこの世界の魔法の便利さに感心した。

 


 リオはひとまず箱を机の上に置き、一緒に届いた手紙の封を開ける。

 中には今までのお礼とまたアルジェンテを訪ねたいことがジャックらしい言葉で綴られていた。

 ジャックの両親も息子の突然の訪問にも関わらず面倒を見てくれたことに深く感謝しているとのこと。

 そしてこの箱はそれらに対するささやかなお礼の品らしい。


 ジャックの家は貴族であるから、多分相当いいものを贈ってくれたのだろうと予想できる。

 だって箱にもブランド名らしきものがあるし……。

 リオはしげしげと箱に書かれた文字を見つめる。


「でも私はこの世界でのブランドとか有名な店とか知らないんだよなあ」


 まあ、何でもいい。

 貰えるものはありがたく頂戴しておこう。

 元の世界の時もそうだが、リオは元来ブランドなどを気にかけるようなたちではないので早速中身は何だろうかとそのリボンに手をかける。


 シルバーが主に魔石細工の指南などをして面倒を見ていたのだから本当は彼にこの箱を渡すべきだろうが、手紙にはリオへの感謝も述べられていたため、まあいいだろう、とリオは自己完結する。

 どうせ彼は魔石細工作りで部屋に籠って出てこない。

 

 そしてその紺色の箱を開け、リオは思わず目を輝かせた。

 

 

「チョコ!!!」

 

 

 思わず叫んでしまったリオ。

 キラキラと目を輝かせたまま箱の中に並んだチョコを食い入るように見つめる。

 何を隠そう、リオはチョコが大好物なのであった。


 半ばうっとりとした様子でリオは宝石のように並ぶチョコを眺める。

 ああ、これはミルクっぽい……こっちのホワイトチョコの上にトッピングされてるのは何だろう?…これはビターで、こっちはトリュフで、それにこれは……

 と、脳内をチョコが埋め尽くしていたリオの元へアルジェンテのもう一人の住人、というよりこの店の主人のシルバーが現れる。

 


「全く朝から一体何を叫んでんだよ…」

 

 半ば呆れたように言う彼は、どうやら先程のリオの叫び声を聞いてリビングに顔を出したらしい。

 と、リオが手にしているものに気づきそれを覗き込む。

 

「チョコ?それ、どうしたんだ?」

「ジャックからですよ。先日のお礼ですって」

「そうか………ってこれドゥースのヤツじゃねえか」

 

 リオの言葉に何気なく箱の蓋を見たシルバーが僅かに目を見開く。

 

「ドゥースって何ですか?店の名前ですか?」

「ああ。王都にあるチョコの名店だ。クソたっけぇうえに数も少ねえからすぐに売り切れちまうらしいぜ」

「へえ…」

 

 シルバーの話を聞くとリオはますますチョコに熱い視線を注ぐ。


「おい、そんなに熱い視線を送るとチョコが溶けちまうだろうが。俺も食うんだから、溶かすんじゃねえぞ」

「溶かすなんてそんな勿体無いことするわけないじゃないですか。全く、シルバーは私を何だと思ってるんです?私、チョコは大好きなんです。愛していると言っても過言ではありません。一日中チョコを食べてもいいくらい…いや、一日に留まらず一年でもいいかも…」

 


 突然熱く語り出し、かと思えばぼんやりとした様子で呟くリオを、シルバーはどこか引き気味の様子で冷めた視線を送る。

 と、ぼんやりとしていた目を再びチョコに戻したリオはケロッとした様子で言った。

 

 

「まあ、万が一溶けても私が全て頂くので問題ありません」

 

「俺にも食わせろ!!」

 

 

 ベシッ

 

 アルジェンテのリビングにシルバーがリオの頭を叩く音が響き渡った。

 

 

 


 

 ***

 

 

 


 

「いいか。半分ずつ、だ。俺とお前で半分ずつだぞ」と、くどいくらいシルバーから言い聞かせられたリオはしぶしぶ了承する。


 こんなことならシルバーにはチョコが届いたことを隠しておけばよかった。

 そうすれば、独り占めできたのに。

 ………ジャック達がリオとシルバーの二人宛にお礼を述べていたことには触れないでおく。

 

  一階の作業場へと行ってしまったシルバーを追ってどのチョコを食べたいかを扉越しに尋ねると。

 

「半分残しといてくれりゃ、あとはリオの好きなの食っていいぞ」

 

 ………なんだかんだいって、シルバーって優しいよね。

 

 

 シルバーの言葉に、リオはカウンターに座り嬉々として自分の食べるチョコを選ぶ。

 

「これと、これ…それからこのトリュフも食べたいな」

 

 じっくりと選抜し終えたリオはチョコの箱に蓋をし、お店の準備に取り掛かる。

 

 

 店のドアを開け、札をひっくり返すと、そのままふと空を見上げる。

 空はどんよりとした曇天だった。

 

 

 

「今日は雨が降りそうだなあ」

 

 



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