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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
番外編 一
60/123

言葉の壁 -拾い主の誤解 (2)- 


 

 


 

 あの後リオが泣くことはなかったため、もしかしたら一人になると寂しくなるのか、不安になるのかもしれないと思ったシルバーは翌日、リオが眠る前にベッドへと連行する。

 ただ単に一人で寝かせて、もしまた昨日のように泣いていたらと思うと心配でしょうがなかったからでもある。


 寝室に入るとリオがじたばたと暴れ始めたため、シルバーは溜め息を一つ零し、リオをポーンとベッドの上に放り投げる。


 

「××××!×××××!××××××××××!!」

「あー分かったから、餓鬼はさっさと寝ろ!!」

「××,××××××××!?」

 

 

 多分、というか確実に文句を言っているんだろう。

 シルバーがベッドへ入るとより一層騒がしくなった。

 寝ろ、の意味を込めてぽんぽん、とその頭を軽く叩く。

 するとリオはポカンとした様子で呆然とシルバーの顔を見上げた。

 ……なんだ、その間抜けヅラ。

 

 思わず笑いそうになってしまうのを堪え、リオを寝かしつけるため背中を優しく叩く。

 その一定のリズムにうとうととし始めたリオを見ると、なんだか小さな弟ができたみたいだ。



 間も無くリオが小さな寝息を立て始めたのを見て、シルバーも寝ようと部屋の明かりを消した。

 

 

 


 

 ***

 

 

 


 リオを拾ってから一週間ほどが経っただろうか。

 

 シルバーが心配していた通り、リオは夜眠ると涙を流すことがあった。

 その度にシルバーはその涙を拭い、優しく頭を撫でてやる。

 そうしてやると、リオは安心したように表情を緩めた。


 その日もすぐ側にある温もりが動いたのを感じて、目の前の小さな体を引き寄せるとぽんぽんとその背中を叩く。

 


 そんな生活を繰り返している中で、リオが突然言葉を猛勉強し始めた。

 もともと教えるつもりではあったから何も問題はないが、その血気迫る表情に一体何があったのだろうかと疑問に思う。

 

 

 そしてある時ふとリオが呟いた言葉に、慌ててその意味を問う。

 それは、リオがよく泣きながら呟いていた言葉の一つだった。

 

 

「母さん、か」

 

 ようやく、分かった。

 ついでに"父さん"の言葉も教えてもらい、シルバーは確信する。

 

 

『父さん、母さん』


 

 リオは、両親を想って泣いていたのだ。

 まだ子供だから恋しがっているのだろう。

 ただトルーマンの病院を出る時に家族はいないことを確かめたから、亡くなっているのかもしれない。

 もしくは、もっと遠い場所にいるか。


 もし生きていてリオが会いたいのなら探してやればいい。

 そこは、リオ次第だ。

 

 

 それでもリオが夜泣くこともだんだんと少なくなっていき、シルバーも心の中で密かに安堵していた時のこと。

 

 

 

 その日、何かの流れでシルバーは「餓鬼が気にすんな」とかなんとか言いながら半ば癖になっていた動作でリオの頭をぽんぽん、と叩いた。

 するとリオはブスッとした様子で言ったのだ。

 

 

「私、そんな、餓鬼じゃない」

「あ?どう考えても餓鬼だろ。こんな細っこいし、声変わりだってしてねぇし」

 

 何言ってんだ、と笑おうとすると。

 

 

 

「私、男違う。私、女。歳、18」

 

 


 

 ………。

 ……………。

 何も、考えられなくなった。

 今、こいつ、なんて言いやがった……?

 

 

 しばらく頭の中が真っ白だったが、なんとかリオの言葉を理解すると、その瞬間、まるで雷に撃たれたかのような大きな衝撃がシルバーを貫いた。

 

 

「は!?てめえ、女だったのか!しかも18って…嘘だろ!!」

 

「…ほんと、です」

 

 

 

 その後は、よく覚えてない。

 混乱した頭のままトルーマンの所へ駆け込んだ。

 

 そして帰ってから取り敢えずすぐに一部屋片付け、新しいベッドを用意した所でようやく頭が冷えた。

 冷静になった所で、シルバーは今までリオに対して取っていた行動を思い返し、頭を抱えた。

 

 一番の失態は一緒のベッドで寝たことだろう。

 完っ全に男だと思っていた。

 歳ももっと下だと思っていた。

 一緒に寝たのだってリオが心配だったからという理由からだが、それでもリオは知らない男と寝るだなんて嫌だっただろう。


 やってしまった、とシルバーにしては珍しく落ち込みながらリオに謝る。

 

 

「その、いや、あれだ。今まで、悪かったな」

 

 今までのことを思うと決まり悪く、つっかえながらの謝罪になってしまったが、リオが逆にここまで良くしてもらい、本当に感謝している、と礼を言ってくれたため少しほっとする。

 

 そこへリオが尋ねる。

 

 

「何故、私と一緒、寝てた?」

「あー……」

 

 突然きたその問いに、なんと答えようかと視線を宙に彷徨わせる。

 

 こいつは自分が寝てる時に泣いていたなんて知らねえしな…。

 別に理由を言ってもいいのだが、素直にリオが心配だったと言うのもなんだか抵抗がある。

 と、シルバーが言い出せずにいるとやがてリオは興味が失せたかのように。

 

 

「……やっぱり、いい」

 

 

 ………いいのかよ。

 思わず心の中でそう突っ込んでしまう。

 仮にも年頃の女が、他人同然の男と一緒にベッドで寝てたっつーのに。

 

 


 今度は違った意味でリオを心配するシルバーだった。

 

 




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