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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
番外編 一
56/123

Dr.の楽しみ

次の章に入るまで数話番外編を挟みます。

本編では語られなかったあんな話やこんな話。

 

 

 

 

 

 テータムの街外れにある病院。

 Dr.であるトルーマンは、毎日が忙しい。

 朝から夜まで、働き詰めになることもしょっちゅうだ。

 

 しかしそんな彼は、最近楽しみにしていることがある。

 


 部屋で小休憩を取っていたトルーマンの元へ、突如ドカドカという音が外から近づいてきた。

 その音にトルーマンは少しばかり笑みをこぼす。

 次の瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。

 


「トルーマン!!」



 その怒鳴るような声に、トルーマンはにこやかに言う。



「病院では静かにして欲しいものだね、シルバー」



 部屋の入り口で、眉をつり上げながら仁王立ちしているのはアルジェンテの店主こと、魔石細工職人のシルバーだった。

 その言葉には答えずに、シルバーはずかずかと部屋の中へ入ってくると、適当に椅子を引っ張り出して座った。


「で?今日はどうしたんだ、シルバー」


 トルーマンは既に慣れたように優しくシルバーに尋ねる。

 それもそのはず。

 こうしてシルバーが襲撃してくるのは、もう一度や二度のことではない。

 あの、涼という子を拾ってから、週に二、三回のペースでやってきていた。

 

 

 ーーー『トルーマン、リオが言葉を覚えたぞ』

 

 ーーー『あいつ、魔法を使えねぇ!!』

 

 ーーー『リオがぶっ倒れた!』

 

 ーーー『おい、餓鬼って、どんな料理が好きなもんなんだ?』

 

 

 その内容はくだらないことから、結構深刻なことまで様々であったが。

 しかし、いつのまにか、こうしてシルバーが涼のことでトルーマンのもとに来ることが、トルーマンの楽しみの一つになっていた。

 くだらないような内容も、聞いてみればこの年老いた自分にとってはとても微笑ましいものに思えるのだ。


 涼をシルバーが引き取ってから、一ヶ月。

 先週のシルバーの話だと、この世界の言葉を少しずつ話すようになってきたらしい。

 


「トルーマン、てめぇ、黙っていやがったな」

「?…何のことかな?」

 

 唸るように言われたその言葉に、身に覚えのないトルーマンは首を傾ける。

 はて、何か自分はシルバーに隠し事をしていただろうか。

 そんな様子のトルーマンを見て、シルバーが目をつり上げた。

 


「あいつ、女だったぞ!!」

 

 

 ずる、

 予想もしなかったシルバーの言葉に、思わず眼鏡がずれ落ちる。


「シルバー…お前…気づいていなかったのか」


 嘘だろ、と思いながらそう言うと。


「気づくわけねぇだろ!あんな細っこくて、ズボンなんか履いてたら!!」


「…で?シルバーはどうして涼ちゃんが女の子だとわかったんだい?」

「あいつが、自分で言ったんだ!覚えたてのカタコトの言葉でな!」


「……言われなければ、気づかなかったんだね」

「……悪かったな。しかも、あいつ、18歳らしいぞ」

「じ、18!?」


 涼の年齢には、トルーマンも驚きの声を上げた。

 

「……12、3歳くらいかと」

「…だよな、俺もだ」


 はあ、とシルバーは溜め息を吐く。


「で、何を悩んでいるんだ、シルバーは」

「…俺は、あいつが男だと思って引き取ったんだ。女となれば、話は別だ」

「どうしてだい?」


「だって考えてもみろ。あいつの言葉が本当なら、リオだって小さな子供でもねぇんだ。いい年した女が、他人も同然の男と二人っきりは、嫌だろ」


「ぶっ!」


 シルバーの言葉に、思わず吹き出してしまった。

 そして、シルバーのその真面目な顔を見てしまったら、もう、笑いを堪えることはできない。


「くっ、はははっ!!なんだ、そんなことで、悩んでたのか!」

「そんなことって、なんだ!こっちは真剣に考えてんだぞ!」

「いやいや、言動の荒い君が、まさかそんなことを気にするとは思わなくてね、つい」


 笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭う。

 


「ーーーあいつは、てめぇの所にいた方が、いい気がする」


 と、突然静かな声でそう言ったシルバー。


「俺ははっきり言って、人の面倒を見るのは向いてねぇし、てめぇの方が、そういうのは得意だろう?それに、ここにはあの赤毛もいるからな」

「タレイアかい?」

「ああ。あいつ、赤毛の前ではよく笑うからな」

 

「俺の前とは違って」と言うシルバーに、トルーマンは優しく微笑みながら言う。

 


「それは違うよ、シルバー」

「…」

「確かに、涼ちゃんはタレイアと仲がいい。でもね、涼ちゃんは君の前でもしっかり笑っているよ」

「…」

「まあ、彼女が笑った時に限って、君はそっぽを向いてしまうんだがね。君は、人を相手にするのが苦手だから、少しでも何かあるとすぐに顔をそらす癖がある」

「………そんな、餓鬼じゃあるまいし」

「まあまあ。今度、しっかり彼女を見ていてごらん。きっと、綺麗に笑っているはずだから」

 


 と、シルバーが突然立ち上がった。

 

 

「………帰る」

 


 ぶっきらぼうなその言葉に、トルーマンは再び吹き出しそうになる。

 

「トルーマン、今日、俺が言ったことは、なしだ」

「………何のことかな?」


 にっこりと微笑めば、シルバーは目をそらして舌打ちをした。

 そして、そのまま何も言わずに帰っていった。



 ようやく静かになった部屋で、トルーマンは先週病院を訪れた涼の顔を思い出す。

 


 ーーー『涼ちゃん、シルバーとは、うまくやってるかな?』

 

 ーーー『?う、まく?………うん、たのしい』

 

 ーーー『そうか。それは良かった』

 


 あの時、確かに彼女は笑っていた。

 シルバーのもとが楽しいと言って、笑ったのだ。



「シルバー、涼ちゃんは君にしっかり心を開いているよ」



 自分では、人の面倒を見るのは向いていないと言ったが。

 トルーマンは、シルバーほど面倒見のいい人物も思い浮かばない。

 …………まあ、あの短気な所はなおした方がいいと思うが。


 けれどもシルバーも、涼ちゃんが来てから少し、変わったように見える。

 それは、勿論、いい方向に。

 



 そして、トルーマンは再びそのドアが開くのを楽しみに待つのであった。


 

 

 


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