黒ガ意味スルモノ
「……行っちゃいましたね」
「ああ」
「寂しいですか?」
笑いながらシルバーに尋ねれば、「調子乗ってんじゃねえ」と軽く頭を叩かれてしまった。
「で、どうする?シルバーに、リオ、それからカールも。今日は、俺の家に泊まってい、」
「全力で遠慮する」
シルバーはハイラムに最後まで言わせずに必死の形相で言った。
その様子に、けらけらとカールが笑いながら言う。
「僕も、遠慮するよぉ〜」
「なら、馬車を出そうか」
「んー、それも必要ないかなぁ。あ、そうだ。シルバーとリオも、僕が送ってあげるぅ」
「…本当か?」
カールの言葉に、少し驚いたような表情をするシルバー。
そして、その言葉に甘えたリオ達は、カールの魔法でアルジェンテへと転移した。
***
もう、見慣れてしまった光から解放されると、リオはしみじみと呟く。
「魔法って、便利ですね」
そして、同じく光から出てきたカールは早速ソファへとダイブする。
「ーーーっはぁ。つっかれたぁ〜」
リオは三人分のお茶を淹れる。
既にソファへと腰をかけたシルバーが、ソファに埋もれるカールに尋ねた。
「で?てめぇはなんで審査員なんかしてたんだよ」
「それ、聞いちゃう〜?」
「気になるだろうが」
カールは、ソファから体を起こす。
「ま、そんな大したワケでもないけどぉ。一言で言うなら、連行、だよねぇ」
「連行?」
「そ。なんでも、審査員の一人が風邪引いたらしくてさぁ〜。それで、たまたま僕の目撃情報を得たハイラムが、僕を捕まえに来たってワケ。何も僕じゃなくてもよかったと思うんだけどねぇ〜」
「……それは、気の毒だったな」
「まったく感情のこもっていない慰めをありがとぉ、シルバー」
「……俺じゃなくて、よかった」
「……なかなか酷いこと言うね、シルバー」
シルバーの言葉に、珍しくカールが笑顔を消して呟く。
そこへお茶を持って行き、リオもソファに座る。
そこからは、互いに別れた後の出来事について話した。
………途中、カールの置手紙のくだりに入った時、シルバーはカールのフードを引っ張り、その首を絞め上げていたが。
「ーーーけほっ、けほっ。…そっかあ。狼の群れなんて、リオちゃん達も、大変だったねぇ」
「ええ」
「僕が行った先でも、似たような話を聞いたよぉ〜」
「……そうか」
「確か、マースディンの方は結構酷いみたいだよぉ。何軒か、魔獣の魔法で家が消し飛ばされたって」
カールはにこやかに言うが、それは笑いながら言う内容ではないだろう、とリオは心の中でつっこむ。
「魔獣って、魔法を使うんですか」
「ん?そうだねぇ、使う奴もいるよぉ」
「じゃあ、魔獣は魔力を持ってて、魔法を使うことができる動物、ですか?」
「それはぁ、ちょっと、不正解〜」
リオの言葉にカールはにっこり笑う。
「そんなこと言ったら、人間も含めてみーんな魔獣になっちゃうよぉ。この世界の生き物は、みんな魔力を持っているからね」
「…へぇ」
「それに、魔獣以外にも、魔法を使える動物は存在する」
では、魔獣とは一体何なのか。
リオが少し思考を巡らせ始めると、カールの声がそれを遮った。
「魔獣はねぇ、闇の属性を持ってるんだよぉ」
そして、リオが顔を上げると、緑と金の双眸と目があった。
「ーーーねぇ、リオちゃん」
カールの手がリオの方へとのびる。
突然のことで、リオはそれに反応することが出来ない。
「どうして、黒い髪や瞳を持つ人間がいないか、知ってる?」
リオの髪を縛っていたリボンが解かれ、黒い髪が、肩に落ちる。
その黒髪を一房手に取ったカールは、それを口元に引き寄せた。
そして、カールは妖しげに光る瞳をこちらに向けながら、言った。
「それは、人間が闇の属性を持たないからだよ」
ーーーー息が、止まった。
「ーーーーカール」
金縛りにあったように動くことのできないリオの耳に、諌めるような声が響いた。
「は〜いはい。そんな睨まないでよぉ、シルバー」
いつものようにヘラヘラと笑い、カールは、ぱっとリオの髪から手を離す。
シルバーはカールの手から青いリボンをひったくると、リオの背後にまわった。
そして、口にそのリボンをくわえながら、両手でリオの髪をまとめ始める。
まだ呆然とした様子のリオに、カールは眉を下げながら謝る。
「ごめんねぇ、リオちゃん。怖がらせちゃったかなぁ?」
「あ、いえ。大丈夫です。少し、驚いただけですから」
いつも通りのカールの雰囲気に、リオはようやく我に返る。
そう、驚いた、だけだ。
「ん、出来たぞ」
その声で、シルバーがリオの髪を結び直してくれたのだと気づく。
「ありがとうございます」
シルバーは、リオの背後からソファへと移動した。
「カール、てめぇは、帰れ」
「…分かったよぉ。シルバーの言うとおり、大人しく出て行くことにするよ〜」
そして、カールはぴょん、と立ち上がった。
片手で、黒いローブのフードを被る。
「じゃあね、シルバー、リオちゃん」
ひらひらと手を振るカールは、光に包まれて、消えた。
***
カールが去ってから風呂に入ったリオは、風呂から上がり、ふと、鏡に映った自分の姿を見る。
リボンをつけていない、自分の髪。
濡れた黒い髪の隙間から、黒い瞳が覗く。
カールの話を聞いて、全てに納得がいった。
この世界で、黒い髪と瞳の人間を見かけないワケ。
シルバーが、あんなにも必死に隠せと言った理由。
「全部、そういうことだったんだ」
黒は、闇属性の色。
そして、人間は、闇属性を扱うことは出来ない。
「闇の属性を持つのは、」
それを使うことが出来るのは。
リオは、片手を額に当てる。
濡れた前髪が、ぐしゃり。
シルバーはバレるのは危険だと言った。
それは、単に黒い色を持つ人間への興味や、好奇心からくるであろう危険だけでは、なかったのだ。
黒い色は魔獣の、魔族の象徴であったから。
「ーーーー知られてはならないんだ、絶対に」




