師弟
そう、あの後の結果発表で。
ジャックは、一位にはなれなかった。
僅差で、二位という結果に終わったのだ。
一位には、あの手の形の魔石細工が選ばれた。
けれど、会場からは、ジャックに対して大きな拍手と、たくさんの称賛の言葉が投げかけられた。
『坊主!よくやった!』
『お前さんの魔石細工も、負けてなかったぞ!!』
『いい魔石細工だ!!』
あの光景に、リオはちょっぴり感動して涙が出そうになったくらいだ。
そして、講評の言葉の中でも。
『ーーーそして、二位という結果にはなってしまったが。ジャック、君の魔石細工に込められたものは、よく伝わった。君の魔石細工は実に素晴らしい。生命の宿ったその青い鳥に、私は一人の魔石細工職人として、敬意と称賛を贈ろう』
ハイラムは、ジャックの青い鳥を、絶賛していた。
それでも、やはり、優勝出来なかったことが悔しいのか、唇を噛みしめるジャック。
シルバーは、ぽんぽん、とその頭を叩いた。
「ステージに立てただけでも十分すげぇのに、あのハイラムにあそこまで言わせたんだ。もっと胸を張りやがれ」
ジャックは、師匠のその言葉にゆっくりと顔をあげる。
「優勝するだけが、全てじゃねえ。あれは、てめぇの最高の魔石細工だった。俺も、見ていて誇らしかったぞ」
シルバーは、優しく微笑みながら「強いて言えば、時間が足りなくて焦ったところがマイナスポイントだな」と付け加える。
その言葉に、ついに涙が溢れてしまったジャックは、感極まってシルバーに抱きつく。
やんわりと受け止めたシルバーは、優しくその背を叩く。
その珍しい光景に少し驚きつつも、リオは温かい目でよく似た師弟を見守った。
しばらくしてジャックの涙がおさまった頃、丁度、ハイラムとカールが会場から出てきた。
二人は、シルバーとリオに気づいて、驚いた様子を見せつつも、こちらに近づいてくる。
「シルバーに、リオじゃないか」
「こんな所で、どおしたのぉ?……って、あれ?その子は…」
次に、ジャックの存在に気づいたカールが、ジャックの顔を覗き込む。
二人の突然の登場に、ポカンと口を開けていたジャックは、慌てて目尻に残った涙を拭う。
そして、カールの質問に答えるそぶりを見せないシルバーに代わり、リオが口を開いた。
「実は、ジャックはシルバーの弟子なんですよ」
「で、弟子!?」
素っ頓狂な声をあげたのは、ハイラムだ。
カールは、軽く自分の耳を何度か叩くと、にっこり笑いながらリオに尋ねる。
「……幻聴かな?今、弟子っていう単語が聞こえた気がするんだけどぉ」
「……幻聴じゃありません。ジャックは、シルバーの"弟子"です」
弟子、の部分を強調して言えば、ピシリ、とカールの笑顔が固まった。
ハイラムは、否定をしないシルバーを見て本当のことだと悟ったようだった。
「そうか、そうか」
何処と無く、嬉しそうに何度も頷いていた。
一方で、カールはと言えば。
「シルバー、一度病院に行こうか〜。うん。絶対、このままだと危険だよ」
「カール、それは、どういう意味だ!俺が、おかしくなっちまったって言いてえのか!?」
「あ、やっぱり大丈夫そうだねぇ」
「……待て。今、てめぇは何を基準に大丈夫だと判断しやがった?」
「……」
「おい!何でそこで黙る!?カール!!」
ーーー早速、シルバーで遊んでいた。
ちらり、とリオがジャックの方を一瞥すると。
彼は、二人が登場した時とはまた違った意味で、ポカンと間抜けな表情をしていた。
………ごめん、ジャック。この人達は、こういう人達なんです。
「ーーージャック」
そこへ、ハイラムがジャックに声をかける。
はっ、とハイラムの顔を見上げたジャックは、つっかえながらも返事をする。
「は、はい」
「君がシルバーの弟子だったなんて、驚いたよ」
優しく微笑まれ、ジャックは戸惑っているようだ。
「講評でも言ったが、君の魔石細工は本当に素晴らしいものだった。君には、才能がある」
「あ、ありがとうございます」
そこで、ハイラムは優しくも、ハッキリとした口調で言った。
「ーーーーーまた、ここに来なさい。次は称賛だけでなく、トロフィーも持って帰りなさい」
その言葉に、ジャックは大きく目を見開いた。
そして、強く、強く言った。
「ーーーはいっ!」
その目は、もう涙に濡れてなどいなかった。
あの、初めて会った時と変わらぬ、眩いほどの光に満ちた瞳が、そこにあった。
ーーこの子は、きっと、すごい魔石細工職人になる。
そんな、予感がした。
「ーーージャック!」
遠くで、ジャックの名を呼ぶ声がした。
「母様…父様……」
声のした方を振り向いて、小さく呟くジャック。
そんな彼に、シルバーは言った。
「ほら、行ってやれ」
ジャックは一回頷くと、シルバーとリオに向き直った。
「俺、シルバーとリオには本当に感謝してる。言葉では表せねぇくらい。こんな俺をアルジェンテにおいてくれたし、いっぱい、学ばせてもらった」
その言葉に、リオはジャックが来てからの日々を思い出す。
「俺、お前らといた時毎日がすっごく楽しかった!!ほんと、ありがとう!!」
そう言ったジャックの笑顔は、今まで見た中で、一番輝いていた。
「俺、絶対立派な魔石細工職人になるから!じゃあな!!」
そして、リオたちに背を向け走り出す………と、思ったら。
すぐに足を止めて、こちらを振り返った。
「……たまには、またアルジェンテに行ってもいい?」
その言葉に、リオは噴き出した。
シルバーも、小さく笑っている。
「ーーーいつでも来い」
シルバーの返事に、今度こそジャックは振り返ることなく駆けて行った。




