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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第七章
52/123

師弟

 

 

 


 

 そう、あの後の結果発表で。


 ジャックは、一位にはなれなかった。

 僅差で、二位という結果に終わったのだ。

 一位には、あの手の形の魔石細工が選ばれた。

 けれど、会場からは、ジャックに対して大きな拍手と、たくさんの称賛の言葉が投げかけられた。


『坊主!よくやった!』

『お前さんの魔石細工も、負けてなかったぞ!!』

『いい魔石細工だ!!』


 あの光景に、リオはちょっぴり感動して涙が出そうになったくらいだ。

 そして、講評の言葉の中でも。



『ーーーそして、二位という結果にはなってしまったが。ジャック、君の魔石細工に込められたものは、よく伝わった。君の魔石細工は実に素晴らしい。生命の宿ったその青い鳥に、私は一人の魔石細工職人として、敬意と称賛を贈ろう』

 

 ハイラムは、ジャックの青い鳥を、絶賛していた。

 


 それでも、やはり、優勝出来なかったことが悔しいのか、唇を噛みしめるジャック。

 シルバーは、ぽんぽん、とその頭を叩いた。


「ステージに立てただけでも十分すげぇのに、あのハイラムにあそこまで言わせたんだ。もっと胸を張りやがれ」


 ジャックは、師匠のその言葉にゆっくりと顔をあげる。



「優勝するだけが、全てじゃねえ。あれは、てめぇの最高の魔石細工だった。俺も、見ていて誇らしかったぞ」


 シルバーは、優しく微笑みながら「強いて言えば、時間が足りなくて焦ったところがマイナスポイントだな」と付け加える。

 その言葉に、ついに涙が溢れてしまったジャックは、感極まってシルバーに抱きつく。

 やんわりと受け止めたシルバーは、優しくその背を叩く。

 その珍しい光景に少し驚きつつも、リオは温かい目でよく似た師弟を見守った。



 しばらくしてジャックの涙がおさまった頃、丁度、ハイラムとカールが会場から出てきた。

 二人は、シルバーとリオに気づいて、驚いた様子を見せつつも、こちらに近づいてくる。



「シルバーに、リオじゃないか」

「こんな所で、どおしたのぉ?……って、あれ?その子は…」


 次に、ジャックの存在に気づいたカールが、ジャックの顔を覗き込む。

 二人の突然の登場に、ポカンと口を開けていたジャックは、慌てて目尻に残った涙を拭う。

 そして、カールの質問に答えるそぶりを見せないシルバーに代わり、リオが口を開いた。


「実は、ジャックはシルバーの弟子なんですよ」

「で、弟子!?」


 素っ頓狂な声をあげたのは、ハイラムだ。

 カールは、軽く自分の耳を何度か叩くと、にっこり笑いながらリオに尋ねる。

 


「……幻聴かな?今、弟子っていう単語が聞こえた気がするんだけどぉ」

「……幻聴じゃありません。ジャックは、シルバーの"弟子"です」


 弟子、の部分を強調して言えば、ピシリ、とカールの笑顔が固まった。

 ハイラムは、否定をしないシルバーを見て本当のことだと悟ったようだった。


「そうか、そうか」


 何処と無く、嬉しそうに何度も頷いていた。

 一方で、カールはと言えば。

 

「シルバー、一度病院に行こうか〜。うん。絶対、このままだと危険だよ」

「カール、それは、どういう意味だ!俺が、おかしくなっちまったって言いてえのか!?」

「あ、やっぱり大丈夫そうだねぇ」

「……待て。今、てめぇは何を基準に大丈夫だと判断しやがった?」

「……」

「おい!何でそこで黙る!?カール!!」


 ーーー早速、シルバーで遊んでいた。

 

 ちらり、とリオがジャックの方を一瞥すると。

 彼は、二人が登場した時とはまた違った意味で、ポカンと間抜けな表情をしていた。

 ………ごめん、ジャック。この人達は、こういう人達なんです。

 


「ーーージャック」


 そこへ、ハイラムがジャックに声をかける。

 はっ、とハイラムの顔を見上げたジャックは、つっかえながらも返事をする。


「は、はい」

「君がシルバーの弟子だったなんて、驚いたよ」


 優しく微笑まれ、ジャックは戸惑っているようだ。

 

「講評でも言ったが、君の魔石細工は本当に素晴らしいものだった。君には、才能がある」

「あ、ありがとうございます」


 そこで、ハイラムは優しくも、ハッキリとした口調で言った。



「ーーーーーまた、ここに来なさい。次は称賛だけでなく、トロフィーも持って帰りなさい」



 その言葉に、ジャックは大きく目を見開いた。

 そして、強く、強く言った。


「ーーーはいっ!」

 


 その目は、もう涙に濡れてなどいなかった。

 あの、初めて会った時と変わらぬ、眩いほどの光に満ちた瞳が、そこにあった。

 ーーこの子は、きっと、すごい魔石細工職人になる。

 そんな、予感がした。




「ーーージャック!」


 遠くで、ジャックの名を呼ぶ声がした。

 


「母様…父様……」


 声のした方を振り向いて、小さく呟くジャック。

 そんな彼に、シルバーは言った。


「ほら、行ってやれ」


 ジャックは一回頷くと、シルバーとリオに向き直った。


「俺、シルバーとリオには本当に感謝してる。言葉では表せねぇくらい。こんな俺をアルジェンテにおいてくれたし、いっぱい、学ばせてもらった」


 その言葉に、リオはジャックが来てからの日々を思い出す。

 


「俺、お前らといた時毎日がすっごく楽しかった!!ほんと、ありがとう!!」


 そう言ったジャックの笑顔は、今まで見た中で、一番輝いていた。



「俺、絶対立派な魔石細工職人になるから!じゃあな!!」

 


 そして、リオたちに背を向け走り出す………と、思ったら。

 すぐに足を止めて、こちらを振り返った。

 

「……たまには、またアルジェンテに行ってもいい?」

 


 その言葉に、リオは噴き出した。

 シルバーも、小さく笑っている。

 

 

「ーーーいつでも来い」




 シルバーの返事に、今度こそジャックは振り返ることなく駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 


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