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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第七章
49/115

開幕

 

 

 

 



 

 観客席でなんとか空いている場所を見つけたリオは、シルバーとともにそこに座った。


 年に一度とあってか、大勢の人が見に来ている。

 なんでも、魔石細工職人にとっては、ここで優勝するのは夢の一つなんだとか。

 実に誉れ高い、ということもあるが、ここで優勝すると王宮からの声もかかりやすい、とのこと。

 

 少し話して空を見上げてしまったシルバーは放っておいて、まだかまだかと大会が始まるのを待っていると。

 


「え…ええ?」

 


 思わず、リオは自分の目を疑った。

 何やら派手な音楽が鳴ったと思ったら、何人かの人が現れて、ステージ上に設置されていた椅子に座った。

 その中でも、中央の豪華な椅子にハイラムが座ったのは少し驚いたが、まあ、国一番の職人だから、と納得した。

 問題は、ハイラムではない。その中の一人である。

 

 その人物は、ハッキリ言って浮いていた。

 一緒に入場した人たちの中で、明らかに浮いていた。

 周りの人々の洒落た正装であろう服とは違って、黒一色のローブ。

 人前であるにもかかわらず、珍しくフードは外されているが、そのおかげで今度はその目立つ色があらわになっている。

 歩くたびに揺れる、ふわふわとした黄緑色の髪。


 ポカン、とリオが口を開けたままその人物を見つめていると、司会の声が響いた。

 

 

「さあ!今年もやってまいりました!!年に一度の、魔石細工職人たちの祭典!!」

 


 やけにノリのいい司会者だな、とまだ覚醒していない頭の片隅でそう思う。

 

「ーーーまずは!本日の審査員の紹介から!!」

 

 その声とともに、椅子に座った人たちが、右から順番に紹介されていく。

 ハイラムが席を立って一礼した時、会場が熱気に包まれた。

 が、そんなことはどうでもいい。

 ついに、司会の紹介はリオの思考を停止させた、件の人物に移る。

 

 

「そして!今年はなんと、スペシャルゲスト!!あのカールが審査員に登場だぁぁああああ」

 

 

 その紹介に、ヒラヒラと笑いながら観客達に手を振るその人。


 

「お、おい、マジかよ…!」

「カールさんだって!?」

「あの人まで、今年は審査員にいるのか!豪勢な面子だな!!」

 

 ザワザワと騒がしくなる観客席。

 その騒がしさに、ようやくシルバーは空から視線をステージに移す。

 そして、眉を寄せた。

 


「……カール?あいつ、あんな所で何やってんだ?」

 

 …ですよね。

 やっぱり、そう思いますよね。

 シルバーの言葉に、深く同意を示しながら、リオはもう一度ステージ上に顔を戻す。

 

 

「さあ!それではお待ちかねっ!!出場者達の入場だぁーーー!!!」

 

 

 ワアァァァーーーー

 湧き上がる歓声の中、出場者達が入場してきた。

 


「あっ!シルバー!ジャックが出てきましたよ!」

 

 見慣れた紺色を見つけ、リオは興奮してシルバーに言う。

 


「それでは!次は出場者の紹介に移りましょう!」

 

 司会が今度は出場者達の紹介に移るが、そこでリオはあれ?と疑問に思った。

 

「シルバー、選手の数、少なくないですか?」

 

 ざっと見た所、20人にも満たない気がする。

 年に一度の、魔石細工職人たちの祭典というには、あまりにも少な過ぎるのではないだろうか。


「ああ。そりゃあ、最初はもっと数え切れないくらい、いただろうさ。けど、大概の奴は、ステージ上に立つ前に落とされる」

「どうしてですか?」

「エントリーする際に、受付の奴に試されるんだ。俺の時は一回だけ魔石を練ってみろって言われたな。そこで腕のレベルが低いものは落とされる」

「うっわぁ…厳しい世界ですね」

「その通りだ。だから、ステージ上に立てただけでも、そいつは既に十分魔石細工職人としての資質があると証明されたようなもんだ」

 

 そんなすごい所に、今、ジャックは立っているのだ。

 リオはステージ上のジャックを見て、自分がそこに立っているわけでもないのに、身体中が熱くなるのを感じた。

 

 やがて、出場者の紹介が終わると、競技の説明に移った。

 魔石細工に詳しくもないリオは、司会者の言うことが分からなかったため、大雑把にシルバーに説明してもらう。


 まとめると、こうだ。


 1.出場者には与えられた時間内に、出されたお題に沿った魔石細工を作ってもらう

 2.評価は審査員によって行われる。それを点数化したものが、出場者の順位に直結する。中でも、ハイラムの評価は他の審査員の十倍くらいの点数に換算されるらしい



「へえ、そういうルールなんですね」

「ああ。出されるテーマも制限時間も年によって大きく変わるし、予想することすら出来ねえ。それが発表されるまでの瞬間が、一番緊張するだろうぜ」

「シルバーも緊張したんですか?」

「俺か?…そういった緊張は、しなかったな。別の意味でなら切羽詰まってたとは思うけどな」

「?」


 シルバーの言った意味がわからず、リオは首を傾ける。

 すると、シルバーがステージ上から目を離さずに言った。

 


「出たぞ、今年のテーマが」


 その言葉に、リオはばっとステージ上を振り返る。


 

「テーマは、『陽』!!おおっと、これはまた難しそうなものが出されましたぁぁああ!これは、11年前以来の、難題かぁーー!?!?」



 その司会者の言葉に、シルバーが顔をしかめる。


「11年前って……アレか」

「知ってるんですか?」

「知ってるも何も、俺が出た大会だ」

「11年前?確か、シルバーは昨年の冬で25になりましたから……14歳の時に大会に出たんですか」

 

 リオは大会出場当時のシルバーの年齢を計算する。

 

「それにしても陽、ですか…また随分と抽象的なもので。確かに、難しそうですね」

「そうか?むしろ、抽象的な方が俺はいいと思うぞ」

「そうなんですか?」

「具体的なものは、完成した形もみんな似たものに偏りがちになる………まあ、だからこそ比べ安いという意見もあるが。俺は抽象的なもののほうが、創造性の面で他の奴との差が際立つと考える方だからな。そいつが魔石細工に何を込めるか、そこが重視されるだろう」

 

 シルバーとリオが話しているうちにも、着々と司会は進んでいく。

 


「さあ!それでは始めましょう!!制限時間は100分!!3…2…1……スタート!!」

 

 ビイィィーという音とともに、出場者達が一斉に動き始めた。

 自分の目の前の机に自身の道具を並べ、そして用意されてあった白爛石を手に取る。

 そこからは、まあ、ひたすら出場者が作るのを見ているだけだ。


 今から、100分。

 魔石細工職人でもないリオにとって、ジャックが出場していなければ、退屈で寝てしまっていただろう。

 長いな。

 いや、ジャックたちには、短いのかな。

 リオの隣で、シルバーは真剣な眼差しで出場者達の様子を見つめている。

 


「やっぱり、ステージ上に立つだけあって、腕のいい奴らばかりだな」

「ジャック、大丈夫でしょうか」

「あいつが、他の奴らに劣ってるとは思えねぇよ。あとは、ジャック次第だ」

 


 その言葉に、リオはハラハラしながら、100分という長い時間、ジャックのことを見守ったのであった。

 


 

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