◆あの人の言葉
会場に着いてジャックを送り出した後、シルバーはリオとともに観客達のいる方へと向かった。
すでに人でいっぱいだったが、なんとか座るところを見つけてそこに腰を下ろす。
そして、リオが今朝のジャックとのやりとりについて笑いながら言った。
「シルバーも、たまにはいいことを言いますね」
「てめぇ、喧嘩売ってんのか」
「いいえ、すごいなと思っただけです」
リオの言葉に、思わず溜め息が出る。
「……あれは、俺の言葉じゃねぇよ」
自分の言葉に、リオが怪訝そうな顔をしたのが分かった。
あれは、あの人の受け売りだ。
ーーー『シルバー。そんな怖い表情をしていては駄目ですよ』
シルバーと同じように、大会当日の朝、あの人が言った。
ーーーー『いつも言っているでしょう。君は今日、魔石細工に何を込めるつもりですか』
生憎、自分は真っ直ぐなジャックとは違って捻くれた餓鬼だったのは十分自覚している。
それに、シルバーが大会に出た時の状況もジャックとは大きく違っていた。
腕を試したいとか誰かに認めてもらいたいとか、そんな余裕は、なかった。
ーーー『シルバー、工房にいるみんなの顔を思い浮かべなさい。そうすれば、自然とわかるはずですよ』
シルバーは優勝しなくてはならなかった。
それだけが、全てだった。
そんなシルバーに、あの人は諭すように言って、微笑んだのだ。
ーーー『大丈夫。君なら出来ますよ。もし駄目でも、私がなんとかしてあげますから』
シルバーは、空を見上げる。
「この空だけは、変わんねぇか」
そして、あの時と同じ、大会開始の合図が聞こえた。




