弟子? (1)
ジャックが来てからは、まあ、毎日が騒がしかった…いろんな意味で。
例えば、ちょこまかとシルバーの後をついてまわるのを鬱陶しがったシルバーの怒号が響いたり。
勝手に作業部屋に入ったことでシルバーの怒号が響いたり。
もともと、ジャックもシルバーに似たところがあるものだから、二人して喧嘩しているのもすでに見慣れた光景だ。
…………なんだか、怒鳴り声ばかり聞いている気がする。
けれどもジャックは結構しっかり者で、進んでリオやシルバーの手伝いをしてくれる。
リオが掃除道具を手に取れば、ジャックもすぐに駆け寄ってくるし、おつかいにだって、荷物を持つのを手伝いに来てくれる。
皿洗いだってやってくれるし………まあ、何枚か皿を割ったのは大目に見よう。
「リオ、リオ!聞いて!」
店番をしていたリオのもとに、瞳をキラキラと輝かせたジャックがやってきた。
客の来ない店番に退屈していたリオは、微笑みながら彼をむかえる。
…そう言えば、アルジェンテの客足の少なさに、ジャックは結構ショックを受けていたなあ。
「今日はどうしたんです?」
こうして、ジャックはしょっちゅうリオのもとにやってきては、その日あった出来事や、その他にもいろんなことを話していく。
どうもリオはジャックに懐かれたらしかった。
「今日、俺、シルバーの作業部屋に入れてもらったんだ!!」
ジャックは嬉しそうに笑う。
どうやら、ようやくジャックはシルバーに作業部屋へと入るのを許されたらしい。
「それでな!静かしてるんだったら、そこにいていいって言われたから、今日はシルバーが作るところ、ずっと見てたんだ!」
「それは良かったですね。で、どうでした?」
「ああ!やっぱりシルバーはすげえよ!!」
そこからは、もう、凄まじかった。
シルバーがいかに凄いかを語る口は、止まることなくずっと動き続ける。
「…へえ。そんなにあの人って凄い人なんですかね。私は魔石細工について詳しくはないから分からないんですが」
あまりにもジャックがすごいを連発するので、リオがそう言うと。
「何言ってんだよ!リオは知らねえのか!?」
何故か、カッと目を見開いたジャックに怒られてしまった。
「シルバーは、秋の王都での大会で、優勝してるんだぞ!それで、その後に王宮にも勤めてたんだからな!!」
「え、シルバーが?王宮に?」
今度はリオが思わず目を見開いてジャックの言葉を反芻する。
「ああ!まあ勿論、王宮に勤める中でも王宮お抱えと言われる職人は、アルビオン王国一の魔石細工職人ハイラム・フィニアンだけど。シルバーは、それに並ぶ魔石細工職人だ、って有名だぞ?」
「ハイラム・フィニアンって、あのハイラムさん?え、あの人、そんなに凄い人だったの?っていうか、それに並ぶシルバーって…」
次々と明かされる驚愕の事実に、リオは頭がパンク寸前である。
ーーー『そうだ、シルバー。これ、やるよ。今は腹が空いてなくてな』
ーーー『なんだ?こんな美味そうなもん、いいのか?なら、遠慮なくもらうぜ………ーーーーうっ、ゴホッゴホッ!ーーハイラム!てめぇ、なんだこれは!!』
ーーー『はっはっはっ!ひっかかったな!それは今王都で流行りの激辛シュークリームだ!!』
ーーー『てめえ、ふっざけんな、この野郎!っゴホッ!こんなのが、流行ってるワケ、ねぇだろ!!』
ーーー『今日俺が作った。これから、流行る』
……あの人たちが?
王都での日々を思い出したリオは、人違いではないかと頭を抱えたくなった。
キラキラと尊敬の色に目を輝かせながら語るジャック。
……ジャック、君は目を覚ましたほうがいい。
あの人たちは、君が思っているような人たちじゃないよ。
本性知ったら、絶対がっかりするよ。
「おい、ジャック」
と、そこへシルバーがひょっこり顔を出した。
声をかけられたジャックが、元気よく返事をする。
「明日、てめぇが作るの、見てやってもいいぞ」
その言葉に、今までで一番強く目を輝かせるジャック。
「ほ、本当に!?お願いします!!」
ジャックは、勢いよく頭を下げる。
どうやら明日、シルバーはジャックに魔石細工作りの指導をしてやるつもりらしい。
その熱のこもった返事に、シルバーは少しだけ口元を優しく緩めると、くるりとこちらに背を向ける。
シルバーが去った後で、ジャックはリオを振り返って嬉しそうにガッツポーズをしてみせた。
なんだかんだで、シルバーはジャックのことを気に入っているようだ。
もしかしたら、弟子でもできたような気がしているのかもしれない。
「じゃあ、そろそろ店を閉じますか」
「俺、札をひっくり返してくる!!」
リオがにこやかにそう言うと、ジャックは飛び跳ねるような勢いで店の入り口へと駆けて行った。
「……やっぱり、子供は元気ですね」
ジャックが再び戻ってきたところで、二人一緒にリビングへと上がる。
すでに、キッチンにはシルバーが立っている。
「さあ、シルバーを手伝いましょうか」
「おう!…あ、その前に手、洗ってくる」
「そうですね」
この子が来てから毎日が本当に明るく、賑やかだ。
そう思っているのはきっと、リオだけではないはずだ。




