似たもの同士
リオは男の子を二階のリビングへと案内した。
ソファに男の子を座らせ、リオは二人分のお茶を淹れてから、自分もその隣に座る。
「どうぞ」とお茶を差し出せば、「ありがとう」と小さな返事が返ってきた。
それににっこりと微笑みながら、リオは男の子に尋ねる。
「どうして、シルバーに勝負を挑みに来たんですか?」
それに、男の子は差し出されたカップをぎゅ、と握りながら答えた。
「認めて、もらいたかったんだ」
そして、ぽつぽつと話し始める。
「もともと、俺は魔石細工職人になって王宮で働くのが夢だった」
紺色の男の子は、名をジャックと言った。
「それで、昔親に連れられて行った王都で年に一回秋に開催される大会で、シルバーを見た」
その時、ジャックはまだ2、3歳であったと言うが、幼いながらに思ったらしい。
「あいつの、シルバーの魔石細工を見てすげえ、って思った。こんな、綺麗な魔石細工を作れる奴がいるんだって、びっくりした」
その時のことを思い出してか、ジャックの瞳がキラキラと輝く。
「その日から、俺は王宮で働きたいって思うのと同時に、いつかシルバーみたいなすげえ職人になりたいって、思うようになった」
シルバーに追いつきたくてそれからはさらに必死に勉強した、と言うジャック。
「いつか、シルバーに俺の作った魔石細工を見てもらって認めてもらいたかった」
話を聞きながら、心の中でリオは首を傾ける。
どうしてそこから勝負を挑むに至ったのか。
「でも、あれからシルバーが大会に出ることはなくて。会う機会もなくて。ほんとは、俺が大会に出て、それで、シルバーに魔石細工を見て欲しかった」
ジャックは、少しだけ表情を曇らせた。
「だから、勝負を挑んでシルバーが大会に出場するって言ってくれれば、俺は大会でシルバーに魔石細工を見てもらえる、って思ったんだ。それに、もし、俺がそれで優勝すればきっと、認めてもらえるって思って…」
最後の方はだんだんと声が小さくなってしまった。
リオは、小さく微笑む。
要するに魔石細工職人を目指す者としてシルバーに憧れ、まあ、勝負という方法にでたのはジャックが、この子なりに考えた結果であって。
この子は、シルバーに認めてもらいたいのだ。
……それを、シルバーに見事に打ち砕かれたということか。
先程のシルバーのセリフに、リオは顔が引き攣りそうになる。
さて、どうするかとリオが思っていると。
「俺は、このままじゃ、帰れない」
ジャックが唇を噛み締めながら言う。
「ああ言われたまま、大人しく帰るのは、凄く悔しい」
「……なら、しばらく、うちにいますか?」
そう言ったリオの言葉に、ジャックが勢いよく顔を上げる。
「シルバーが何と言うかは分かりませんが…シルバーに認めてもらいたいのでしょう?」
「ああ」
「なら、近くでシルバーの魔石細工作りを見ていったらどうですか?きっと、学べることもあるはずです。それで、もう一度、シルバーに魔石細工を見てもらったらどうですか?」
「…いいのか?本当に?」
「ええ」
リオが微笑みながら頷けば、ジャックは嬉しそうに顔を輝かせた。
「本当に、本当の本当に、いいんだな!?」
「はい」
「やった!シルバーの魔石細工作りを真近で見れる!!」
先程の偉そうで生意気な様子からは一変して、ジャックの年相応のはしゃぎっぷりに、リオはくすくすと笑う。
13、4歳くらいのジャックは、同年代のセシリアと比べると少々言動がまだ幼く感じる。
男の子だからかな。
と、リオが笑っていることに気づいたジャックは、少し恥ずかしそうに頬を赤くした。
「……その、あ、ありがとう」
目を逸らしながら言うジャックのあまりの可愛さに、リオは無言で鼻を押さえた。
……危ない、鼻血が出るところだった。
「破壊力抜群ですね」
一人呟くリオに、ジャックは怪訝そうな表情を向けた。
***
「で?これは、いったい、どういう状況だ?」
眉をつり上げながら、シルバーがリオに問う。
リオはニコニコと笑みを浮かべながら口を開く。
「ジャック君がしばらくアルジェンテに滞在することになりました。さっきから何度も言ってるじゃないですか。歳ですか?」
最後の一言に、シルバーの額に筋が浮かび上がる。
そこへ、ジャックがシルバーへとその強い光に満ちた瞳を向け、言った。
「俺は、お前にああ言われたままだと、悔しくて帰れない!だから、せめて、ここでシルバーの魔石細工作りを見せて欲しい!あんたのところで、学べることは学んでいきたい!お願いします!」
最初のシルバーへ喧嘩を売りに来た態度は何処へやら。
最終的にはしっかりと敬語でお願いします、と頭を下げている。
それを見たシルバーは、ジャックから顔を逸らし、舌打ちをしながら髪を片手でかき乱した。
「……っあぁぁああ!クソガキどもが。勝手にしやがれ!!」
その言葉にジャックは頭を上げる。
シルバーは、すでにジャックに背を向けてどこかへと行ってしまっていた。
少し、ポカンとした様子で、ジャックはリオにその顔を向ける。
まさか、シルバーに滞在の許可をもらえるとは思わなかったのだろう。
「よかったですね、ジャック」
リオがそう言えば、先程のシルバーの言葉にようやく現実味がでてきたのか、ジャックはパアアと顔を輝かせた。
「ああ!ありがとう、リオ!よろしく……よろしくお願いします!!」
敬語で言い直したジャックに、リオは小さく苦笑をこぼすのであった。
***
店を閉じた後、「店の掃除をしてくる!」と駆けて行ったジャック。
それを見送り、リオは夕食の準備にキッチンに立つシルバーの手伝いをしていた。
「シルバー、ありがとうごさいます」
「何がだ」
「ジャックのことです。てっきり、追い返してしまうんじゃないかと思ってたんで」
「そうしたら、てめぇも黙っちゃいなかっただろ」
「……そんなことは、ない、ですよ?」
シルバーの言葉に少し目を明後日の方向へ逸らしながら、リオは野菜を洗う。
そんなリオにシルバーは呆れたように言う。
「どうせ、てめぇがうちにしばらくいればいいとか、言ったんだろうが。そんなの、すぐに分かる」
「流石。だって、ジャック、あんなに悔しがってたんですよ?応援したくなるじゃありませんか」
「……言っておくが、」
シルバーはリオから野菜を受け取り、手際よくそれの皮をむく。
「あのガキは、才能があるぞ。むしろ、天才と言ってもいい」
思わぬシルバーの言葉に、リオは手にしていた野菜を落っことす。
「そうなんですか?なら、あんなにキツイ言い方しなくても良かったじゃありませんか」
「いくら天才といっても、俺から見れば、まだまだなのは事実だ。それに、どんなに技術があっても、あのガキには決定的に欠けてるものがある」
「………そうですか」
トントントン、と野菜を切りながらシルバーは言った。
「それに、俺もああいう目は嫌いじゃねぇ」
その言葉に、リオは先程のジャックの顔を思い浮かべる。
シルバーに勝負を挑んだ時も、リオと二人で話した時も、彼の瞳には強い光が宿っていた。
そして、魔石細工を作っている時の表情に、シルバーから滞在許可をもらった時の輝くような目。
ジャックは、シルバーと似ているんだ。
口調とか、短気なところとかだけじゃなくて。
もっと、奥深くにある、根本的なところが。
「同じ魔石細工を愛する者として、シルバーも背中を押したくなっちゃったんですね」
リオは、小さく笑った。




