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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第七章
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似たもの同士

 





 リオは男の子を二階のリビングへと案内した。

 ソファに男の子を座らせ、リオは二人分のお茶を淹れてから、自分もその隣に座る。

「どうぞ」とお茶を差し出せば、「ありがとう」と小さな返事が返ってきた。

 それににっこりと微笑みながら、リオは男の子に尋ねる。

 

 

「どうして、シルバーに勝負を挑みに来たんですか?」

 

 それに、男の子は差し出されたカップをぎゅ、と握りながら答えた。

 


「認めて、もらいたかったんだ」

 


 そして、ぽつぽつと話し始める。

 

「もともと、俺は魔石細工職人になって王宮で働くのが夢だった」

 

 紺色の男の子は、名をジャックと言った。

 

「それで、昔親に連れられて行った王都で年に一回秋に開催される大会で、シルバーを見た」

 

 その時、ジャックはまだ2、3歳であったと言うが、幼いながらに思ったらしい。

 

 

「あいつの、シルバーの魔石細工を見てすげえ、って思った。こんな、綺麗な魔石細工を作れる奴がいるんだって、びっくりした」

 

 

 その時のことを思い出してか、ジャックの瞳がキラキラと輝く。

 

「その日から、俺は王宮で働きたいって思うのと同時に、いつかシルバーみたいなすげえ職人になりたいって、思うようになった」

 

 シルバーに追いつきたくてそれからはさらに必死に勉強した、と言うジャック。

 


「いつか、シルバーに俺の作った魔石細工を見てもらって認めてもらいたかった」

 

 

 話を聞きながら、心の中でリオは首を傾ける。

 どうしてそこから勝負を挑むに至ったのか。

 

「でも、あれからシルバーが大会に出ることはなくて。会う機会もなくて。ほんとは、俺が大会に出て、それで、シルバーに魔石細工を見て欲しかった」

 

 ジャックは、少しだけ表情を曇らせた。

 

「だから、勝負を挑んでシルバーが大会に出場するって言ってくれれば、俺は大会でシルバーに魔石細工を見てもらえる、って思ったんだ。それに、もし、俺がそれで優勝すればきっと、認めてもらえるって思って…」

 

 最後の方はだんだんと声が小さくなってしまった。

 リオは、小さく微笑む。

 要するに魔石細工職人を目指す者としてシルバーに憧れ、まあ、勝負という方法にでたのはジャックが、この子なりに考えた結果であって。

 この子は、シルバーに認めてもらいたいのだ。


 ……それを、シルバーに見事に打ち砕かれたということか。

 先程のシルバーのセリフに、リオは顔が引き攣りそうになる。

 さて、どうするかとリオが思っていると。

 


「俺は、このままじゃ、帰れない」

 


 ジャックが唇を噛み締めながら言う。

 

「ああ言われたまま、大人しく帰るのは、凄く悔しい」

「……なら、しばらく、うちにいますか?」

 

 そう言ったリオの言葉に、ジャックが勢いよく顔を上げる。

 

「シルバーが何と言うかは分かりませんが…シルバーに認めてもらいたいのでしょう?」

「ああ」

「なら、近くでシルバーの魔石細工作りを見ていったらどうですか?きっと、学べることもあるはずです。それで、もう一度、シルバーに魔石細工を見てもらったらどうですか?」


「…いいのか?本当に?」

「ええ」

 

 リオが微笑みながら頷けば、ジャックは嬉しそうに顔を輝かせた。

 

「本当に、本当の本当に、いいんだな!?」

「はい」

「やった!シルバーの魔石細工作りを真近で見れる!!」

 

 先程の偉そうで生意気な様子からは一変して、ジャックの年相応のはしゃぎっぷりに、リオはくすくすと笑う。

 13、4歳くらいのジャックは、同年代のセシリアと比べると少々言動がまだ幼く感じる。

 男の子だからかな。

 と、リオが笑っていることに気づいたジャックは、少し恥ずかしそうに頬を赤くした。

 


「……その、あ、ありがとう」

 

 目を逸らしながら言うジャックのあまりの可愛さに、リオは無言で鼻を押さえた。

 ……危ない、鼻血が出るところだった。

 


「破壊力抜群ですね」

 


 一人呟くリオに、ジャックは怪訝そうな表情を向けた。

 

 




 ***

 

 

 



「で?これは、いったい、どういう状況だ?」

 

 

 眉をつり上げながら、シルバーがリオに問う。

 リオはニコニコと笑みを浮かべながら口を開く。

 


「ジャック君がしばらくアルジェンテに滞在することになりました。さっきから何度も言ってるじゃないですか。歳ですか?」

 


 最後の一言に、シルバーの額に筋が浮かび上がる。

 そこへ、ジャックがシルバーへとその強い光に満ちた瞳を向け、言った。

 

 

「俺は、お前にああ言われたままだと、悔しくて帰れない!だから、せめて、ここでシルバーの魔石細工作りを見せて欲しい!あんたのところで、学べることは学んでいきたい!お願いします!」

 

 

 最初のシルバーへ喧嘩を売りに来た態度は何処へやら。

 最終的にはしっかりと敬語でお願いします、と頭を下げている。

 それを見たシルバーは、ジャックから顔を逸らし、舌打ちをしながら髪を片手でかき乱した。

 

 

「……っあぁぁああ!クソガキどもが。勝手にしやがれ!!」



 その言葉にジャックは頭を上げる。

 シルバーは、すでにジャックに背を向けてどこかへと行ってしまっていた。

 少し、ポカンとした様子で、ジャックはリオにその顔を向ける。

 まさか、シルバーに滞在の許可をもらえるとは思わなかったのだろう。

 

「よかったですね、ジャック」

 

 リオがそう言えば、先程のシルバーの言葉にようやく現実味がでてきたのか、ジャックはパアアと顔を輝かせた。

 


「ああ!ありがとう、リオ!よろしく……よろしくお願いします!!」

 


 敬語で言い直したジャックに、リオは小さく苦笑をこぼすのであった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 店を閉じた後、「店の掃除をしてくる!」と駆けて行ったジャック。

 それを見送り、リオは夕食の準備にキッチンに立つシルバーの手伝いをしていた。

 


「シルバー、ありがとうごさいます」

「何がだ」

「ジャックのことです。てっきり、追い返してしまうんじゃないかと思ってたんで」

「そうしたら、てめぇも黙っちゃいなかっただろ」

「……そんなことは、ない、ですよ?」

 

 シルバーの言葉に少し目を明後日の方向へ逸らしながら、リオは野菜を洗う。

 そんなリオにシルバーは呆れたように言う。

 

「どうせ、てめぇがうちにしばらくいればいいとか、言ったんだろうが。そんなの、すぐに分かる」

「流石。だって、ジャック、あんなに悔しがってたんですよ?応援したくなるじゃありませんか」

「……言っておくが、」

 

 シルバーはリオから野菜を受け取り、手際よくそれの皮をむく。

 

 

「あのガキは、才能があるぞ。むしろ、天才と言ってもいい」

 

 

 思わぬシルバーの言葉に、リオは手にしていた野菜を落っことす。

 

「そうなんですか?なら、あんなにキツイ言い方しなくても良かったじゃありませんか」

「いくら天才といっても、俺から見れば、まだまだなのは事実だ。それに、どんなに技術があっても、あのガキには決定的に欠けてるものがある」

「………そうですか」

 

 トントントン、と野菜を切りながらシルバーは言った。

 


「それに、俺もああいう目は嫌いじゃねぇ」

 


 その言葉に、リオは先程のジャックの顔を思い浮かべる。

 シルバーに勝負を挑んだ時も、リオと二人で話した時も、彼の瞳には強い光が宿っていた。

 そして、魔石細工を作っている時の表情に、シルバーから滞在許可をもらった時の輝くような目。


 ジャックは、シルバーと似ているんだ。

 口調とか、短気なところとかだけじゃなくて。

 もっと、奥深くにある、根本的なところが。

 


「同じ魔石細工を愛する者として、シルバーも背中を押したくなっちゃったんですね」

 


 リオは、小さく笑った。

 

 

 

 


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