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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第七章
44/123

嵐襲来

 

 

 

 

 

「シルバー!!」

 

 それは、嵐のようにやってきた。

 



「俺はお前に勝負を挑む!!」

 

 

 

 

  ***



 

 

 照りつける容赦ない日差し。

 店の周りの木々の葉は、青々と生い茂っている。

 王都からアルジェンテへと帰還し、既に夏も真っ盛りとなった。


 夏の暑さにリオは額に浮かんだ汗を拭いながら、今日もアルジェンテの扉に"open"の文字を見せる。

 

 

「………そうですよね。これが、いつもの、日常でしたよね」

 

 店のカウンターの椅子に座りながら、はぁ、と溜め息を一つ。

 王都から帰ってきて、アルジェンテを訪れる客はゼロ。

 なんだか懐かしさも感じる一方で、リオはゼロという数字に項垂れてしまう。

 

 そこへ、ベルの音が鳴った。

 


「いらっしゃいませ」

 

 営業スマイル全開で、リオは客を出迎える。

 現れたのは10代半ばくらいの小柄な男の子。

 サラサラとしたストレートの紺色の髪を肩の上で一直線に切り揃え、高そうな衣服に身を包んでいる。

 貴族のお坊ちゃま、といった印象だ。

 その男の子は、大きな紺色の目をリオに向けて言った。

 


「ここに、魔石細工職人シルバーはいるか?」

 


 シルバーの名が出されたことに内心ちょっぴり驚きつつも、リオは「少しお待ちを」と言ってシルバーを呼びに行く。

 そして、シルバーをつれて来て………………冒頭に戻るのである。

 

 

 

 

 シルバーの姿を見た途端、その子はシルバーを指差しながら言った。

 

「シルバー!!」

「ああ?」

 

 突然名前を呼ばれ、眉を寄せるシルバー。

 男の子は、キッとシルバーを睨みつけながら声高らかに宣言する。

 

 


「俺は、お前に勝負を挑む!!」

 

 

 

「はあ?」

「秋に王都で開かれる大会、そこで勝負だ!!」

 

 ふん、とどこか偉そうにそう言う男の子に、シルバーは面倒臭そうに言葉を返す。

 

「…言っておくが、俺は参加しねぇぞ」

 

 その言葉に、男の子は目を大きく見開く。

 そして、再びキッとシルバーを睨みつけながら言うのだ。

 

「何故だ!?」

「ごたごたうるせぇ!参加する理由がねぇからに決まってるだろうが!!」

「り、理由ならあるっ!俺と勝負するためだ!!」

「ますます意味が分からねぇ!なんで、てめぇと勝負しなきゃいけねぇんだ!!だいたい、こっちは忙しいんだ、クソガキに付き合ってる時間は、ねぇ!!」

「はっ。天才と呼ばれる魔石細工職人シルバーも、所詮、その程度か」

「あぁ!?何だとこのクソガキ!もういっぺん言ってみろ!!」


「ああ何回でも言ってやるよ!シルバーは子供相手に勝負から逃げ出す臆病者だってな!!」


「上等だ!表へ出ろクソガキ!その捻くれた根性、叩き直してやるっ!!」


 

 そのやり取りを見ていたリオは、笑い転げたいのを必死で堪える。

 

 に、似すぎだろうこの二人…!

 口調もそうだが、短気なところもそっくりだ。

 


「だいたい、てめぇに魔石細工が作れんのかよ」

「なんだと!この俺を何だと思ってる!!」

「ただの口煩い生意気な糞ガキ」

 

 そのシルバーの言葉に、男の子の額に怒りマークが増えたような気がした。

 

「作れるさ!俺は、将来王宮お抱えの魔石細工職人になる男だ!!」


「はっ、てめえにそんな才能があるかよ」

「ある!」

「じゃあ、見せてみろ」

 

 腕を組み、挑発するようにニヤリと笑うシルバー。

 それに顔を怒りで真っ赤に染めた男の子は、カバンをテーブルの上にどさっと置くと、中から白爛石と、様々な道具を取り出した。

 


「いいか、見てろよ!」

 


 ぎろ、とシルバーをもう一睨みしてから、その男の子は魔石を手にとった。

  リオとシルバーが見守る中で、男の子の手は迷いなく動く。

 無色透明になって溶けた白爛石。

 それを何度も練りながら、形を作っていく。

  練る度にだんだんと色づいてゆくそれを、リオは面白そうに見つめた。

 

 

  「出来た」

 

 ふう、と小さく息を吐いた男の子は、出来上がった魔石細工を見て、少しだけ表情を緩めた。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐにシルバーへと向き直る。

 

「どうだ!出来たぞ!」

 

 その言葉には答えずに、シルバーはまじまじと出来上がった魔石細工を見ている。

 

 作り上げられたのは一羽の青い鳥。

 羽ばたいているその鳥は、美しく、また、何処か可愛らしさがある。

 深い青と、くちばしの鮮やかな黄色のコントラストがとても綺麗だ。

 やがて、魔石細工から視線を外したシルバーはふん、と鼻を鳴らした。

 


「はっ、この程度か」

 

「な、」

「少なくとも、王宮お抱えの職人の魔石細工には、遠く及ばねぇな」

 

 シルバーは男の子を見下ろして言った。

 


「そんなんで、俺に勝負を挑むなんざ、100年早ぇ。さっさと帰んな」

 


 そう言い残して、シルバーはまた店の奥へと戻ってしまった。


 何もあんな言い方しなくても、とリオは男の子の方へと向き直る。

 男の子は、先ほどの威勢はどこへやら、顔を俯かせ、両手を握りしめていた。

 泣いてしまっただろうか、と心配になるリオ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 男の子の顔を覗き込もうとしゃがんだと同時に、男の子は俯かせていた顔を勢いよく上げた。



「大丈夫じゃない!悔しい…!」

 

 男の子は、泣いてなどいなかった。

 先程と寸分違わず、瞳には強い光が宿っていた。

 違うのは、その唇を悔しげに噛み締めているところか。


 リオは、ぽんぽん、とその頭を優しく叩きながら立ち上がる。

 


「とりあえず、こちらへどうぞ」

 



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