嵐襲来
「シルバー!!」
それは、嵐のようにやってきた。
「俺はお前に勝負を挑む!!」
***
照りつける容赦ない日差し。
店の周りの木々の葉は、青々と生い茂っている。
王都からアルジェンテへと帰還し、既に夏も真っ盛りとなった。
夏の暑さにリオは額に浮かんだ汗を拭いながら、今日もアルジェンテの扉に"open"の文字を見せる。
「………そうですよね。これが、いつもの、日常でしたよね」
店のカウンターの椅子に座りながら、はぁ、と溜め息を一つ。
王都から帰ってきて、アルジェンテを訪れる客はゼロ。
なんだか懐かしさも感じる一方で、リオはゼロという数字に項垂れてしまう。
そこへ、ベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませ」
営業スマイル全開で、リオは客を出迎える。
現れたのは10代半ばくらいの小柄な男の子。
サラサラとしたストレートの紺色の髪を肩の上で一直線に切り揃え、高そうな衣服に身を包んでいる。
貴族のお坊ちゃま、といった印象だ。
その男の子は、大きな紺色の目をリオに向けて言った。
「ここに、魔石細工職人シルバーはいるか?」
シルバーの名が出されたことに内心ちょっぴり驚きつつも、リオは「少しお待ちを」と言ってシルバーを呼びに行く。
そして、シルバーをつれて来て………………冒頭に戻るのである。
シルバーの姿を見た途端、その子はシルバーを指差しながら言った。
「シルバー!!」
「ああ?」
突然名前を呼ばれ、眉を寄せるシルバー。
男の子は、キッとシルバーを睨みつけながら声高らかに宣言する。
「俺は、お前に勝負を挑む!!」
「はあ?」
「秋に王都で開かれる大会、そこで勝負だ!!」
ふん、とどこか偉そうにそう言う男の子に、シルバーは面倒臭そうに言葉を返す。
「…言っておくが、俺は参加しねぇぞ」
その言葉に、男の子は目を大きく見開く。
そして、再びキッとシルバーを睨みつけながら言うのだ。
「何故だ!?」
「ごたごたうるせぇ!参加する理由がねぇからに決まってるだろうが!!」
「り、理由ならあるっ!俺と勝負するためだ!!」
「ますます意味が分からねぇ!なんで、てめぇと勝負しなきゃいけねぇんだ!!だいたい、こっちは忙しいんだ、クソガキに付き合ってる時間は、ねぇ!!」
「はっ。天才と呼ばれる魔石細工職人シルバーも、所詮、その程度か」
「あぁ!?何だとこのクソガキ!もういっぺん言ってみろ!!」
「ああ何回でも言ってやるよ!シルバーは子供相手に勝負から逃げ出す臆病者だってな!!」
「上等だ!表へ出ろクソガキ!その捻くれた根性、叩き直してやるっ!!」
そのやり取りを見ていたリオは、笑い転げたいのを必死で堪える。
に、似すぎだろうこの二人…!
口調もそうだが、短気なところもそっくりだ。
「だいたい、てめぇに魔石細工が作れんのかよ」
「なんだと!この俺を何だと思ってる!!」
「ただの口煩い生意気な糞ガキ」
そのシルバーの言葉に、男の子の額に怒りマークが増えたような気がした。
「作れるさ!俺は、将来王宮お抱えの魔石細工職人になる男だ!!」
「はっ、てめえにそんな才能があるかよ」
「ある!」
「じゃあ、見せてみろ」
腕を組み、挑発するようにニヤリと笑うシルバー。
それに顔を怒りで真っ赤に染めた男の子は、カバンをテーブルの上にどさっと置くと、中から白爛石と、様々な道具を取り出した。
「いいか、見てろよ!」
ぎろ、とシルバーをもう一睨みしてから、その男の子は魔石を手にとった。
リオとシルバーが見守る中で、男の子の手は迷いなく動く。
無色透明になって溶けた白爛石。
それを何度も練りながら、形を作っていく。
練る度にだんだんと色づいてゆくそれを、リオは面白そうに見つめた。
「出来た」
ふう、と小さく息を吐いた男の子は、出来上がった魔石細工を見て、少しだけ表情を緩めた。
しかしそれも一瞬のことで、すぐにシルバーへと向き直る。
「どうだ!出来たぞ!」
その言葉には答えずに、シルバーはまじまじと出来上がった魔石細工を見ている。
作り上げられたのは一羽の青い鳥。
羽ばたいているその鳥は、美しく、また、何処か可愛らしさがある。
深い青と、くちばしの鮮やかな黄色のコントラストがとても綺麗だ。
やがて、魔石細工から視線を外したシルバーはふん、と鼻を鳴らした。
「はっ、この程度か」
「な、」
「少なくとも、王宮お抱えの職人の魔石細工には、遠く及ばねぇな」
シルバーは男の子を見下ろして言った。
「そんなんで、俺に勝負を挑むなんざ、100年早ぇ。さっさと帰んな」
そう言い残して、シルバーはまた店の奥へと戻ってしまった。
何もあんな言い方しなくても、とリオは男の子の方へと向き直る。
男の子は、先ほどの威勢はどこへやら、顔を俯かせ、両手を握りしめていた。
泣いてしまっただろうか、と心配になるリオ。
「大丈夫ですか?」
男の子の顔を覗き込もうとしゃがんだと同時に、男の子は俯かせていた顔を勢いよく上げた。
「大丈夫じゃない!悔しい…!」
男の子は、泣いてなどいなかった。
先程と寸分違わず、瞳には強い光が宿っていた。
違うのは、その唇を悔しげに噛み締めているところか。
リオは、ぽんぽん、とその頭を優しく叩きながら立ち上がる。
「とりあえず、こちらへどうぞ」




