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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第六章
42/126

帰りの道にはご用心を (1)

 

 





 

 生誕祭の翌日。

 リオはハイラムにお世話になったと礼を言い、シルバーと共にフィニアン家を後にした。


 その別れ際に、ハイラムがテータムまでの馬車を出そう、と言ってくれたので、その言葉に甘え、現在、馬車に揺られている最中である。

 


 王都から、テータムまでの道のりは長い。

 休まず馬車を走らせ続けても五日はかかるそうだ。

 もちろん、御者にそんな無茶はさせられないため、途中でいくつかの町に立ち寄り、そこで夜を明かす予定だ。

 

 

 そして、三日目の夕方に着いたのが、ホイートンという町だった。

 丁度、王都とテータムの中間に位置するホイートンは、なかなかに大きな町だ。

 馬車を降りて、リオはシルバーと共に本日泊まる宿を探す。

 

 

「それにしても、本当に大きな町ですね」

「王都に比べれば小さいけどな」

「まあまあ。シルバー、明日、ホイートンの町を見て回りたいんですけど、駄目ですか?」


 歩きながら、ずっとそれだけを考えていたリオは、駄目元でシルバーに聞いてみる。

 

「ああ、いいぞ。別に。急いで帰る理由もねぇ。俺もいろいろ店を見たい」


 おお、意外なこともあるものだ。

 あっさりとOKをもらえたことに、リオは目をパチクリさせる。

 

 その後、無事に宿を見つけ、そこで一晩明かしたリオは、翌朝シルバーと共にホイートンの町へとくりだした。

 


「シルバーは、ホイートンを訪れたことがあるんですか?」

「何回かは、来たことがある」

「じゃあ、町を案内してくれません?」

「…面倒くせぇ。俺は俺で勝手に店を見て回るぞ」

「なら、それについていきます」

「…」

 

 はぐれるよりはマシだろう、と勝手にリオはシルバーと共に行動することにする。

 

 そして、やはり、シルバーが訪れるのはほとんどが魔石細工に関わる場所であった。

 シルバーが店に入り、長くなりそうだと感じれば、リオは近くの他の店を物色していた。

 

 


 やがて日も暮れはじめた頃。

 魔石細工の道具を扱う店から出てきたシルバーと共に、宿へと戻ろうとした時だった。

 

 

「…あの」

 

 背後から、リオ達を小さく呼び止める声がした。

 

 リオとシルバーが振り返れば、20代半ばくらいのまだ若い女性が立っていた。

 


「あなた方は、魔石細工職人ですか?」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 


 女性は、名をセリーナと言った。

 


「あの、魔石細工を作っていただきたいのです」

 

 彼女の恋人は、ギルドで働いているらしく、それが心配な彼女は、お守りとしてペンダントを贈りたいのだとか。

 それを聞いたシルバーは、すんなりとその依頼を引き受けた。

 


「…ハイラムさんのもとで働かされて、人格が変わりましたか?」

 

 あんまりにもすんなりと承諾したシルバーをリオはからかってみる。

 

「俺は、別にあのガスパーのジジイみたいにムカつくこと言われなけりゃ、依頼は引き受けるぞ!」

 

 ぎろ、とシルバーに睨まれてしまった。

 


 

 そして、シルバーとリオはその日からさらに三日、ホイートンに滞在することになる。

 

 ペンダントは大きなものでもないため、三日ですぐに完成させたシルバーは、セリーナのもとへと魔石細工を届けた。

 受け取った彼女は、深く頭を下げてお礼を言っていた。

 

 

「あんなに想ってもらえているなんて、セリーナさんの恋人さんは、幸せ者ですね。魔石細工をお守りに、だなんて」

「一応、防御に優れた土属性の魔力を込めておいた」

「へぇ、シルバーも考えているんですね」

 

 そこでリオはべしっと頭を叩かれた………痛い。

 

 

 

 

 こうしてその翌日、シルバーとリオはホイートンの町を後にした。

 

 





 そしてホイートンを出発して、半日ほど過ぎた頃。

 それは、突然だった。

 

 


「どうっ!どうっ!!」



 けたたましく鳴く馬。

 慌ててそれをなだめようとする御者の声。


 その異常な様子に、シルバーが窓から顔を出して叫んだ。


 

「どうした!?」

 

 それに、御者は焦った顔で言葉を返す。

 

 

 

 

「ーーー魔獣です!!!」

 

 



 そのフレーズに一瞬思考が停止したが、すぐにリオも窓から外を覗く。

 すると、そう遠くない所に、狼の群れがいた。

 漆黒の身体に、獰猛な瞳がこちらを捉えている。

 

 

「馬を止めるな!走らせ続けろ!!」


「はいっ!ーーーーヤアッ!」

 


 やがて、狼の群れは馬車を囲いながら、馬車と並走する。

 

 一頭が、御者台に飛びかかった。

 

 

 

 

 

 ーーーギャン!


 狼が炎に包まれ地面を転がる。



 リオがシルバーの方を見れば、彼の片手が光に包まれていた。

 

 

「シルバー…」

「リオ、頭を窓から引っ込めとけ」

「……魔法、使えたんですね」

「てめぇは、こんな時まで人をからかいやがって!」

 

 そう言いながらも、シルバーの手からは光が放たれていく。

 

 

「……キリがねえな」

 


 忌々しげに舌打ちをするシルバーは、再びその手を振るう。

 シルバーが魔法をいくら放っても、狼の数が減ったようには見えない。

 数が、多すぎる。



「ーーー異常だな、この数は。しかも、こいつらに群れる習性はねぇはず…」


 狼から目を離さずに、深刻そうな声色で呟くシルバー。

 

 

 その時だった。

 

 

 

「はあぁぁあああ!!」

 


 突如聞こえてきた雄叫び。

 それと同時に、馬車の周りの狼が吹き飛んだ。

 どん、と馬車の屋根に何かが着地した音がする。

 


「私はギルドの者です、ご無事ですか!?」

 

 その声に、シルバーは上を見上げた。

 

「ああ、なんとかな!」

「よかった。…そのまま、馬車を走らせて下さい!後は私達が引き受けます」

 

 その言葉と同時に、馬車の屋根を蹴る音がした。

 御者は、馬車を走らせ続ける。

 

 

 しかし、狼の群れが馬車を追ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ーーー暫く走った所で、馬車が停止する。

 シルバーが馬車から降りた。

 リオも続いて馬車を降りる。


 少し離れた所で、狼の群れがかたまっていた。

 その中心で、三人ほどの人が戦っているのが見える。

 

 

「……すごい」

 

 その光景に、リオは小さく呟く。

 それほどに、圧倒的だった。

 あれほどいた狼の群れが、次々とその数を減らしていく。

 

 やがて、勝ち目が無いと悟ったのか、生き残った狼たちは何処かへと逃げ去っていった。

 その後、戦っていた人達が馬車のもとへとやってきた。

 男性二人に、女性が一人。

 三人とも同じような外套を纏っていた。

 その中で、眼鏡をかけた男性が歩み出る。

 

「ご無事でなによりです」

 

 その声は、先ほど馬車の屋根からしたものと同じだった。

 

「ああ、助かったぜ。礼を言う」

「いえ、ギルド員として、当然のことです」

 

 爽やかに笑う眼鏡の男。

 ふと、何気なく見ていたその男の胸元に光るものに気付いたリオは、驚愕した。

 

 

「え、ええ!そ、それ!!」

 

 そんなリオの様子に、眼鏡の彼はリオの方を見て首を傾ける。

 

「どうしました?」

 

 リオは、ずいっとその男の顔を覗き込む……いや、男の背が高いから見上げるといった方が正しい。

 


「あなた、セリーナさんの恋人さんですか!?」

 


 きらきらと輝くリオの目に、今度は男の顔が驚愕に染まった。

 

 

 


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