生誕祭 (3)
制服っぽいな…学生、だろうか?
確か、魔法学校が王都には存在するのだと聞いたことがある。
二人の女の子と、一人の男の子が屋上に入ってくる。
年は、リオとそう変わらなさそうだ。
彼らの会話の内容からして、パレードを見てきた後なのだろう。
まだ興奮が冷めないといった様子で、楽しそうに盛り上がっている。
「そういえば、あとの三人は、まだかな?」
「多分、もうそろそろ来るんじゃない?」
「あ、もうすぐ着くだって!」
赤髪の少女と、橙色の髪の少年に、薄い紫色の髪をした少女が携帯のようなものを覗き込みながら言った。
その様子に、リオはふと、元の世界を思い出す。
学校で仲の良い友達と談笑したり、帰りに寄り道をしたり。
ああして、友達と携帯を開くことだってあった。
懐かしい。
リオは、少し寂しそうに、彼らの姿を眺めた。
すると、携帯から顔を上げた紫色の少女と目があった。
「あ」
突然間抜けな声を漏らした友人に、怪訝な顔をした残りの二人が、こちらを向く。
「え、あれ?先客がいる?」
目をパチクリとさせながら、「今日は屋上貸切状態だと思ったのに…」と橙色の少年が言った。
紫色の少女と目が合って、少々驚いていたリオだったが、少年の言葉に、にっこりと微笑む。
「私はパレードを見に来ただけなので、もうここを去りますよ」
そして、屋上の手すりに預けていた身体を起こし、ドアの方に向かって歩き出す。
「こらっ!あんたが言った言葉にあの人気を遣っちゃったじゃない!」
「いてっ!だ、だって、屋上に人がいると思わなかったから…」
赤髪の少女が、少年の頭を思いっきり叩く。
ドアのもとまで来たリオに、紫色の少女が申し訳なさそうに謝った。
「あの、すみません。無理に屋上から出て行こうとしているなら、全然、私達のことは気にせずここにいて下さい」
こちらを気遣う少女に、リオは優しく言う。
「いえ、本当にパレードを見たら帰るつもりでしたから。それに、連れも下で待っているので」
「…そうなんですか」
「はい。皆さんで、花火を楽しんでください」
「ありがとうごさいます!」
リオの言葉に、少年が元気よくお礼を言った……そして再び頭を叩かれていた。
その様子にリオはクスクスと笑いながら屋上を後にする。
階段を下りると、酒場のカウンターにシルバーが座っていた。
ナディムとタウニーと共に、何やら楽しげに会話をしている。
「あら、もうパレードは終わったのかい?」
リオに気づいたタウニーがこちらに顔を向けた。
「はい」
返事をしながら、シルバーの隣の席に座る。
「それにしても、シルバーから話を聞いたよ。リオ、あんたアルジェンテに住んでるんだって?」
「ええ」
そして、リオも話の輪に加わり、差し出された飲み物をいただく。
「ナディムさん、タウニーさん、こんばんは」
そこへ、新たな声が入ってきた。
「あら、やっと来たのね」
タウニーは、その声の主に笑いながら言う。
リオはグラスに口をつけながら、目だけをその声がした方向に向ける。
「あの、上に行ってもいいですか?」
「勿論だ!ほら、ついでにこれ持ってけ!」
「わ、いいんですか?ありがとうございます」
「もうあの三人は先に上で待ってるよ。早く行っておやり」
「はい!」
ナディムが、飲み物や料理を渡す。
それを受け取ったのは、先程屋上で会った三人と同じ服に身を包んだ青髪の男の子だった。
後ろにもう二人、同じ服装の子がいる。
「じゃあ、行こうか」
「ええ。ナディムさん、タウニーさん、おじゃまします」
階段の方に歩いていく青髪の少年に続き、黄色い髪の少女が頭を下げた。
二人が移動したことで、残されたもう一人の少年の姿があらわになる。
少年は、同じく頭を下げた。
「おじゃまします…いつもすみません」
「なに、いいってことよ。昔っから、ここには学生がよく来るんだ」
そして、顔を上げた彼と、目が合った。
「ーーーラヴィン?」
階段の方からした少女の声に、少年の目がリオから外される。
「今行きます!」
大きな声で返事をした後、淡い水色の髪を靡かせながら、少年は階段を上っていった。
彼らが去った後で、タウニーとナディムは穏やかに微笑む。
「ほんと、懐かしいねぇ。あの子達を見てると、まるでシルバーが学生だった頃を見ているようだよ」
「ガハハ!俺もだ!あいつら、お前らによく似てるんだよなぁ」
その言葉に、シルバーは無言でグラスを傾ける。
そして、そのグラスをカウンターに置いた。
「美味しかった」
「ああ、そりゃどうも」
「リオ、そろそろ行くぞ」
「なんだ、もう行っちまうのか?」
ナディムの驚いた声に、シルバーは懐から財布を取り出す。
「ああ」
「そうか。もう少し話していたかったんだけどな。まだ、王都にはいるのか?」
「いや、もうやることは終わった。店を長く閉じておくわけにもいかねぇ。明日には王都を出る」
「そうかい、残念ねぇ。まあ、また王都に来たら、顔を見せに来てちょうだい」
残念そうに言う二人だったが、笑いながら、また来いと言ってくれた。
もちろん、リオにも同じことを言ってくれた。
そして、二人に手を振りながら、酒場を出る。
そこでリオは先程の少年を思い出す。
ふと、目が合った、あの時。
ほんの一瞬のことであったけれど、あの瞳はしっかりと脳内に焼きついている。
髪と同じように、淡い水色の瞳。
ーーーあの瞳、何処かで見たことがあるような…。
何故か見覚えのあるあの瞳に、リオは思考を巡らせる。
「おい、リオ?どうした?早く行くぞ」
「あ、はい」
けれども結局、リオはその瞳を何処で見たことがあるのか、思い出すことはできなかった。




