生誕祭 (2)
シルバーに連れてこられたのは、小さな酒場だった。
中に入ると、シルバーはカウンターに近づき声をかける。
「おい、ナディムはいるか?」
それに反応したのは、色気たっぷりの女性だった。
シルバーよりも年上に見える彼女は、腰に巻いたエプロンを翻す。
気の強そうな赤茶色の瞳が、大きく見開かれた。
「あら、シルバーじゃないの!久しぶりねぇ、いつ王都に帰ってきたの?」
「二週間程前だ」
「そうだったの。ああ、ナディムに用があるのね?待ってて、すぐに呼ぶから………あんたっ!!シルバーが来たよっ!!!」
と、彼女は突然片手を口元にあてて、大声で叫んだ。
すると、それと同時にバタバタと騒がしい音が近づいてくる。
現れたのは、がたいのいい大男だった。
「なんだって!?シルバーが来たのか!何処だ!?」
「こっちだよ、この馬鹿っ!!」
登場して、キョロキョロと辺りを見回す大男の頭に、先程の彼女がバシッと容赦なくその手を打ち込む。
うわ、痛そう。
そうして、ようやくシルバーを見つけた大男は、その顔を破顔させた。
「シルバー!久しぶりだな!!元気だったか?」
「ああ、元気だったぜ…てめぇも、相変わらず、五月蝿えな。……元気そうでなによりだ」
ばしばしと肩を叩かれ、迷惑そうに顔を歪めるシルバー。
「で?今日は一体、突然どうしたんだ」
ようやく肩への攻撃から解放されたシルバーは、軽く襟元を直しながら答える。
「今日、上に行ってもいいか?」
「ああ!そうか、これからパレードが始まるもんな。いいぞいいぞ。好きに使え」
「助かる」
「昔は、みんなでうちに来ては、あそこからパレードを眺めてたもんなぁ。それ以外でも、酒を飲んだりしてただろ?」
「懐かしいねぇ。学校を卒業してからは、あんたたちもあんまりうちに来なくなっちゃったから、アタシたちゃあ少し寂しかったよ」
「もしかして、今日、久しぶりに集まるのか?」
懐かしそうに話していた大男は、期待の入り混じった目でシルバーに問う。
「いや、ちげぇ。今日は、こいつがパレードを見たいって言うもんで、連れてきた」
その言葉に、二人の視線がリオに集まる。
リオは、小さく微笑みながら自己紹介をした。
「初めまして、リオと言います」
シルバーのもとでお世話になっている、と言おうとしたリオは、突然肩を掴まれ、「へ?」と間抜けな声を漏らす。
次の瞬間、リオの顔に柔らかい感触が当たった。
「まあっ!なんて可愛い子なんだい!!?」
く、苦しい。
ぎゅうぎゅうと体を圧迫され、軽く窒息しかけるリオ。
「お、おい…リオが死にかけてるぞ」
「あら、アタシったらつい。悪いね」
「…」
若干引き気味のシルバーの声がして、すぐにリオはその圧迫から解放された。
「ごめんね、あまりにも可愛かったから、つい。アタシはタウニー。そこにいるデカイ男の妻だ」
「デカイ男こと、ナディムだ。こう見えて、この酒場の主人だ」
「こう見えても何もねぇだろ。てめぇからは酒の匂いしかしねぇからな」
シルバーから呆れたような一声が出る。
それにタウニーとナディムの二人は大きな声で朗らかに笑った。
……とても明るい人達だな。
ひとしきり笑った後、タウニーが気さくな口調でリオに話しかける。
「リオは、シルバーの友人かい?」
「友人、というか、シルバーは私の恩人ですかね」
「ほお!こいつが、恩人!」
「それにしても、あんた、綺麗な顔してるねぇ。どうだい?うちで働かないかい?給料、弾むよ」
「おい、ババア、何リオを勧誘してやがんだ。だいたいリオはうちで働いてんだ、誰がやるかよ」
「ババアとはなんだい!?本っ当にお前は可愛げのない子だね、シルバー!」
「そうですよ、シルバー。タウニーさんに失礼です」
「あらあ!リオは本当に可愛いわね〜こんな息子が欲しいわぁ」
「……それが本心か」
「シルバー、何か言ったかい?」
「いや、何も言ってねぇぞ」
賑やかなタウニーとナディムに、自然とリオも笑い声が出る。
シルバーは少しうざったそうにしているが。
暫く笑いあった後、シルバーに連れられ、酒場の奥にあった階段を上り、リオは店の屋上へと出た。
「うわあ、周りの景色がよく見えますね」
「まあな。ここら辺は低い家ばっかりだからな」
リオは、屋上の端へと駆け寄る。
「ここからなら、パレードも見えますね」
下を見下ろすと、先ほどまでリオたちがいた、パレードの行われる通りが見えた。
「よく、ここからパレードを眺めたもんだ」
リオの隣にやってきたシルバーが、下を見下ろしながらしみじみと呟く。
「以前、王都にいた頃ですか?」
「ああ。リースも一緒だったぞ」
「へぇ」
すると、突然大きな音が鳴り響いた。
「ーーー始まった」
その言葉に、リオは顔をすぐにあの通りに向けた。
ワアァァァーーー
屋上にいても届く人々の熱狂した声。
辺りに鳴り響くのは、明るいトランペットの音。
太鼓の軽快なリズムに合わせて、足音が近づいてくる。
「すごい」
パレードはとても華やかだった。
行進する人々は、みな煌びやかな衣装を身につけていて、馬に乗っている人もいた。
誰一人、その列を乱すことなく前へ進む。
そして、突如歓声が大きくなった。
「騎士団の、おでましだ」
シルバーの言葉に、リオは目を凝らしてその行列を見る。
すると、途中から行進する人の衣装が変わっていた。
立派な装飾が施されているが、華美というより、キッチリとした軍服の正装といった感じだ。
パレードの観客から、黄色い声まで湧き上がる。
「……すごい人気ですね」
「騎士団は、国民の憧れだからな。それに、こういう所に出てくるのは無駄に顔のいい奴が多い」
そう言われ、リオは騎士団の人達の顔を見る
……確かに。
あれって、入団試験とかで合否を判断する際に、顔も基準に入っているのではないだろうか。
「……大丈夫です。シルバーも負けていませんよ。口さえ開かなければ」
「は?何のことだ」
「いいえ、なんでもありません」
暫くして、騎士団の行列が過ぎ去ると、次に見えてきたのはなにやら豪勢な馬車だった。
これまた、観客の声が湧き上がる。
「次は一体何なんですか」
「あれか?あれは、王子だ」
「へぇ、そうなんです……って、王子!?」
驚いたリオは、その馬車の上に乗る人物を凝視する。
近づいてきたその馬車の上で、一人の青年が手を振っている。
眩しいくらいに輝く綺麗な金色の髪。
同じ色の瞳は、パレードを囲む民に向けられている。
遠くからでも分かるくらい整ったその美貌に、彼は小さな笑みを浮かべていた。
「あれが、この国の王子様ですか」
「ああ。アレは、第一王子のレックス王子だな」
「何人王子がいるんです?この国は」
「王子が三人、王女が二人…だったはずだ」
シルバーと話しているうちに、王子を乗せた馬車も遠くへと過ぎていった。
そして、シルバーもナディムたちのもとへと下りていってしまった。
一人残されたリオは、華やかなパレードを眺める。
それからもパレードは暫く続き、やがて最後の列が通り過ぎていった。
通りにいた人々も、バラバラと解散し始める。
その様子をぼんやりと眺めていると、
「やっぱり、パレードはすごかったわね」
「ああ!場所取りしておいて正解だったな。おかげで、間近で騎士団を見れたしな!!」
「この後の花火も、楽しみ」
何やら賑やかな声が屋上に響いた。
驚いたリオは、屋上のドアの方を振り返る。
そこには、同じようなデザインの服に身を包んだ少年少女達がいた。




