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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第六章
36/104

オニイサマ (2)

 


 

 

 

 

「いやあ、突然すまなかった」

「……ええ、本当に」

「まあ、こうでもしないとシルバーはここには来てくれないだろうと思ってな」

「……」

 

 

  ずず、と差し出されたお茶をすすりながら、リオは若干その目に疲れの色を滲ませた。



「ところで、ここは一体ど、」

 

 どこですか、という言葉は、突如現れた光によって続けることは叶わなかった。


「おお、思ったより早かったな」

「てめぇ、やっぱり、殴る」

 

 ぎろり、とハイラムを睨むのは、青みがかった銀色の瞳。

 

「で、てめぇも、何呑気に茶を飲んでやがる」

「………冷めないうちに飲んだ方がいいと思いまして」

 

 それに、もう何かいろいろ疲れたし、とリオはもう一口お茶を口に含む。

 

 

「来てくれてありがとう、シルバー。で、早速なんだが」

「早速も何もあるか!リオ、帰るぞ!」

 

 

 そんなシルバーの様子に、ハイラムはリオに声をかける。

 


「そうだ、リオ君。もうすぐ王都で国王の生誕祭があるんだが、君も祭に行きたくはないかい?」

「それは………一度行ってみたいですね」

「だろう?なんなら、生誕祭が始まるまで、俺の家に泊まっていくといい」

「え?いいんですか?というより、ここって王都なんですか?」

「ああ、ここは王都にある俺の家だ」

 

 

 生誕祭、確かに興味がある。

 ハイラムの話はとても魅力的だった。

 ハイラムの話につられつつあるリオを見て、シルバーは眉を釣り上げる。

 

「ハイラム!リオを使うんじゃねえ、リオを!」

 

 ビシィッとハイラムに指を突きつけるシルバー。

 しかしそんなこともお構いなしに、ハイラムは言葉を続ける。

 

「リオ君、どうだ?うちに泊まっていかないか?」

「ぜひ」

「リオぉぉおおおお!!!」

 

 キリッと即答したリオに、シルバーは絶望の叫び声を上げる。

 その返事に、ハイラムは実に清々しい笑みをシルバーに向けた。

 


「…だそうだ。お前も、もちろん、泊まってくよな?」

「…………アルジェンテを、空けるわけにはいかねぇ。突然転移させられたんだ、鍵も閉めてねえんだぞ」

「ああ、それなら大丈夫だ。先ほど、カールから自分がアルジェンテで留守番しているから、シルバーは心配しなくていい、と連絡があった」

「…」

 

 

 


 こうして、シルバーは己の敗北を悟った。

 

 




 ***

 

 

 

 

 

「ーーーでね、今、ハイラムさんの家にお世話になってるんだ」

 


 リオは、品のいい椅子に腰掛けながら、楽しそうに言った。

 その向かいに座る彼女は、小さく微笑みながらも、若干、呆れた様子である。

 

「そう…貴女は、生誕祭に行きたいがために、シルバーを売ったのね」


「人聞きの悪いこと言わないでよ、タレイア。たまにはシルバーも働かないと、ナマケモノになっちゃうと心配した私の親切心だと言ってほしいな」

「ははっ、違いない。アレは、もう少し働いたほうがいい」

「ですよね?リースさんも、そう思います?」

「で、シルバーさんは今どうしてる?」

 

 ここは、王都にある水の貴族の家の一室である。

 流石は、名門貴族。

 豪邸である。

 

 ハイラムのもとにお邪魔することになってから、リオはタレイア宛に手紙を送った。

 タレイアがいるのは、貴族の家なので、流石に突然訪問するのもどうかと思ったからだ。

 すぐに返事を貰ったリオは、こうしてタレイアのもとを訪れ、リオが来ると聞いたリンとリースも同席した、という訳である。

 

「シルバーは…日に日に目が死んだ魚のように濁っていきますね。そろそろ、天に召される日も近いんじゃないですか?」

 

 最近のシルバーの様子を思い出し、リオが淡々と述べると、リンとリースが爆笑した。

 唯一、タレイアだけが、シルバーのことを憐れんでいる。

 

 あれから、シルバーは毎日、ハイラムに働かされているようだった。

 なんでも、王へと献上する魔石細工を作るにあたり、シルバーに手伝いをさせているらしい。

 ……ハイラムさんが王宮に勤める魔石細工職人だと知った時は驚いた。

 二人は朝早くに出かけては、夜遅くに帰って来るため、朝食と夕飯の時にしか顔をあわせる時がない。

 

「リオ、貴女は何をしているの?」

「私?私は、ハイラムさんの家でいろいろお手伝いをさせてもらってるよ」

 

 特に、やることもなく暇であったリオは、ただお世話になっているのも申し訳なく思い、ハイラムの家の使用人達の手伝いを自ら買って出ていた。

 そのおかげで、今ではフィニアン家の使用人の皆様と仲良しである。

 そして、フィニアン家が貴族の家であることも知った。

 

「そう…楽しそうで何よりだわ」

「うん。タレイアも、元気そうで良かったよ」

 

 そうして、四人でテーブルを囲み、暫く談笑していた。

 途中、タレイアを祭に一緒に行かないか誘ってみたが、タレイアは王宮に行かなくてはならないのだと、残念そうにリオの誘いを断った。

 



「ああ、もうこんな時間ですか。そろそろ、私は失礼します。今日は、本当にありがとうございました」

「いや、俺たちのほうこそ、楽しい時間をありがとう」

「また、いつでもおいで」

「リオ、ありがとうね」

 

 リオがお暇を告げると、三人は温かくリオを見送ってくれた。



 久しぶりに親友に会うことができ、リオは上機嫌でフィニアン家に帰った。

 

 

 

 


 

  ***

 

 

 

 

 

 翌日。

 起床したリオは身支度を整える。

 

 昨日は、帰りが遅くなるとハイラムに言われたので、夕食は使用人の方々と食べさせてもらった。

 シルバーもハイラムも結局いつ頃帰ってきたのだろうか、と思いながら、朝食を食べに行こうとする。

 

 しかし、その途中でリオは足を止める。

 広い廊下に置かれていた、高級そうな一つのソファ。

 それを見たリオはすぐにその上で寝ている人物を起こそうとした。

 なぜなら、すぐに支度をしなければその人が家を出る時間に間に合わないからだ。

 

 けれど、そこへやってきたハイラムが声を出そうとするリオを静かに止めた。

 


「おはよう、リオ。こいつはこのまま寝かせておいてやってくれ」

「おはようございます。でも、いいんですか?家を出るのに間に合いませんよ?」

「もうシルバーにやってもらうことは終わったから大丈夫だ。俺が言うのもなんだが…結構こき使ったから、相当疲れも溜まってるんだろう。休ませてやってくれ」

 

 

 そう言い残して、朝食を食べに行ったハイラム。

 残されたリオは、ソファを見やる。

 その上でシルバーが規則正しい寝息をたてていた。

 長い足を窮屈そうに折り曲げて、自身の片腕を頭の下に、枕代わりにしている。

 普段はキリリとした青みがかった銀色の瞳も閉じられていて、無防備に眠る彼の顔を見るとやはり、綺麗な顔だなとあらためてそう思う。

 そして、その顔に影を落とす美しい銀色の髪。

 服装は昨日家を出て行った時のままで、白いシャツに少し皺がよっている。


 ーーーまるで、猫が丸まっているみたいだな。

 思わずクスリと小さな笑みが零れたリオは自分が羽織っていた薄手の上着をふわり、とシルバーの身体に掛けてやる。

 

 

「……お疲れ様です」

 

 

 深く眠る彼に、リオは小さく労いの言葉を囁くと静かにその場を後にした。

 







 それから、シルバーが目を覚ましたのはお昼を過ぎた頃であった。

 


 部屋に戻ったリオは、ドアがノックされる音を聞き、ドアを開ける。

 そこにはシルバーが立っていた。

 

「おはようございます」

「……ああ」

「よく眠れましたか?」

「それなりに、な」

 

 そう言うシルバーは、まだ眠いのか、欠伸を噛み殺す。

 

「食事、どうしますか?私、シルバーの分何か作ってくれるよう頼んできましょうか?」

「いや、いい」

 

 短く答えるシルバーは、まだ疲れが抜けきっていないようだ。

 その様子に、リオは優しく微笑む。

 

「なら、シルバー。もう少し寝ていたらどうですか?もう、仕事は終わったのでしょう?」

「…そうだな。そうする。今日はもう少し、寝ることにする。夕食の時間には起こせよ」

「はいはい」

 

 若干命令口調だが、最近働き詰めであったシルバーなのだから、リオは大人しくそれを聞くことにする。

 そこで、シルバーは手にしていたものをリオに差し出した。


「これ、てめぇのだろ。ありがとな」

 

 それはリオがシルバーの身体に掛けた、薄手の上着だった。

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 そして、再び自分の部屋で眠りについたシルバーを、夕食の時にリオが起こすと、その顔からは少し疲れが取れたように見えた。

 

 

 

 


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