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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第六章
35/115

オニイサマ (1)

 

 

 

 

 




「お帰り」

 

 

 

 マーシャルの家の玄関のドアを開け、シルバーはすぐにそのドアを閉じた。

 


「………幻覚か?まだ、精霊が幻を見せてやがるのか?」



「いやいや、精霊はシルバーには幻を見せなかったでしょぉ」

 

 ドアノブを掴んだまま、真面目な顔でそう言ったシルバーに、やんわりとツッコミを入れるカール。

 ドアを開けたシルバーは、一体何を見たというのか。

 ……出迎える声はマーシャルのものではなかったが。

 


 やがて、シルバーは意を決したように再びそのドアノブを回す。

 そうして、シルバーは固まった。

 リオは、そんなシルバーを押しのけ、自分も中に入る。

 



「おい、どうしてもう一度ドアを閉じたんだ」

 

 

 出迎えてくれたのは、マーシャルではなかった。

 


 誰だ、この人?

 リオは、目の前に立つ男をまじまじと見つめる。

 背が高く、均整の取れた身体。

 サラサラとした金茶色の髪は、照明を反射して金色に見える。

 整った、男らしい精悍な顔立ちをした彼は、髪と同色の瞳をこちらに向ける。

 

「早く入ってこい。そこにいては、寒いだろう」

 

 その言葉に、シルバーはようやく金縛りが解けたようだった。

 

「おい、待て。どうしててめぇがここにいやがる」

「なんだ?ここにいてはいけないか?」

「いや、そういう問題じゃねぇ」

「じゃあどういう問題だ?とりあえず中へ入れ。話はそれからだ」


 金茶色の男は、少しからかうようにシルバーに答え、その目でリオを捉えた。

 

「なあ?君もそんな所では寒いだろう?」

「え、あ、はい」

 

 突然声をかけられ、言葉につまる。

 そして、リオの答えを聞くと男は奥へと行ってしまった。

 シルバーは舌打ちをすると、その男の後に続いた。


 リオの隣をカールが通り過ぎるのを、リオは引き止める。

 

「あの、カール、あの人は誰なんですか?」

「ん?ああ、さっきの人〜?あの人はぁ、今回の手紙を送ってきた人だよぉ〜」

「あの人が、ですか」

「そうそう。オニイサマ〜」

 

 カールがくすくすと笑いながら言う言葉に、そういえばそんな事も言っていたな、と思い出す。



 そして、部屋の中へ入ると、例の男が椅子に腰をかけていた。

 

「さあ、立っていないで座ればいい」

 

 その言葉に、シルバーはわざとらしく音を立ててどかっと椅子に座り込む。

 リオとカールも近くの椅子に座った。

 


「俺は、てめぇに言いてぇことが、山程ある」

 

 

 顎をくいっとしゃくりながら、喧嘩腰に話し始めるシルバー。

 それを面白そうに瞳を細めながら聞く、金茶色の男。


「そうか。それは大いに結構だが、その前に、そこの彼を紹介してくれないか?」

 

 その瞳が、リオに向けられる。

 

「私は、リオと申します。アルジェンテでシルバーにお世話になっている者です」

 

 そう言えば、男は一瞬きょとん、とした後、口を開けて笑い出した。

 

「シルバーと、アルジェンテにいるのか!あの人との付き合いが、壊滅的なシルバーと!!いや、珍しいこともあるもんだ…よく、シルバーが家にいることを許したな!」

「おい、それ以上何か言ったら、ぶん殴るぞ」

 

 若干瞳に涙を浮かべながら、男は失礼、とリオに詫びる……シルバーにではなく。

 

「いやあ、すまないすまない。俺の自己紹介がまだだったな。俺は、ハイラム・フィニアンだ。ハイラムで構わない」

 

 ハイラムは、笑いすぎて目尻に溜まった涙を指で拭った。

 

 

 

「で?そろそろ、本題に入っていいか?」

「ああ、そうだったな」

 

 シルバーの声に、視線をシルバーに戻すハイラム。

 


「よし…じゃ、取り敢えず、てめぇを一発殴らせろ」


「なぜそうなる」

「あったりめぇだ!!あの手紙!俺に魔石を採ってこいとあったと思ったら、突然雪の中に転移させられたんだ!これは、てめぇを殴るのに、十分な理由だ!!」

「まあまあ、落ち着けよ、シルバー。そんなにカリカリしていては、すぐに禿げるぞ」

「禿げねえよ!そんで、魔石を採りに行って帰ってみたら、てめぇがいやがるし」

「ああ、それは、頼みを聞いてくれた弟を労おうと思ってな」

「頼みじゃねえだろ、あれは!つうか、こんな所にいていいのかよ、てめぇ!」

 


 最終的に、ハイラムの胸ぐらを掴み上げてしまうシルバー。

 ……そんな状態でも、ハイラムはシルバーの反応を楽しんでいるように見える。

 

「お前の言うとおりだ。すぐに戻らなくてはならない」

「なら、さっさと帰りやがれ!」

「魔石を受け取りに来たんだ」

 

 その言葉に、シルバーはその手を離すと、魔石の入った袋をハイラムの目の前に置いた。

 

「おら、これで、十分だろ」

「ふむ…やはりここの白爛石は質がいい。助かった、シルバー」

「ふん」

「で、だ。もう一つ頼みがあるんだが」

「ふざけんな、もう俺は何もしねぇぞ!」

「…そうか、残念だ」

 

 わざとらしく声のトーンを落としたハイラムは、そこで顔をリオの方に向けた。

 


  ぞわ。

 目が合ったリオは、背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

 

「では、代わりにリオ君を連れて行くことにしよう」

 

 

 その言葉に、リオは「は?」と声を漏らすが、突然襟首を引っ張られる…苦しい。

 ………デジャヴを感じる。

 

 

「じゃあな!シルバー、カール!!」


 

 はははははと爽やかに笑いながら、ハイラムはリオと白爛石の入った袋を手に、魔法を発動した。

 

 

「え、ええぇぇぇえええ!!?」


「おいおいおいおい!冗談だろ!?ハイラム、待ちやがれ!!」

「うーわー。リオちゃん、ドンマイ」

「カール!!そんな楽しそうに笑って手を振らないで下さい!!」

 



 

 そこで、何やら見覚えのある光に包まれ、リオの視界からシルバーとカールの姿が消えた。

 

 

 

 


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