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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第六章
34/123

◆秘密共有者

 

 





 

 白爛石を採り終え、シルバー達が帰りの道を歩いていると。

 シルバーの隣でカールがふと、リオに声をかけた。

 

 

「あ、そうだぁ〜……リオちゃん」

「はい、何ですか?」

 


 突然名前を呼ばれ、リオがカールの方を振り向く。


「これぇ、リオちゃんにあげようと思ってねぇ〜」

 

 そう言ってローブの中から差し出したのは…青いリボンだった。

 

「リボン、ですか」

「うん。多分、リオちゃんが今つけてるのよりも、性能は遥かにいいよぉ」

「性能って…」

 

 カールの言葉に、リオは顔を強張らせる。

 


「リオちゃんの、髪と目の色。このリボンの方が、簡単には見破られないよぉ〜」

「……やっぱり、カールは気がついていたんですね」

 

 

 リオがそういえば、カールはにっこりと笑った。

 



 


 ーーーーー『黒い色に魔力もない…シルバー面白いモノ見つけたねぇ。ただ、あのリボン、腕の立つ魔法使いにはきっと見破られちゃうよ?』

 

 


 シルバーは、以前カールが言い残していった言葉を思い出す。

 

 

「リオ、それは、もらっとけ」

「シルバー?」

「カールの言う通り、魔法に精通した奴には、今のリボンじゃ、誤魔化せねぇ」

「…そうですか。なら、カール、ありがたく頂戴しますね」


 リオは、カールからリボンをもらい、その場で素早く付け替える。

 

 せめて、帰ってからにしろよ。

 誰かに見られたらまずいってあれほど言っているのに…。

 

 若干、シルバーは呆れたようにリオを見る。

 一方、リボンを解いた一瞬、本来の色に戻ったリオを、カールは興味津々といった様子で見つめていた。

 

「てめぇは、本当に好奇心の塊だな」

「褒め言葉として受け取っておくよぉ。だって、こんなに面白いモノ、そうそうないでしよぉ〜?」

 

 楽しそうに口角を上げてリオの黒髪を見て笑うカール。

 

 シルバーは、何となく分かっていた。

 カールはただシルバーに手紙を届けに来たわけじゃない。

 多分、目的はリオだ。

 あいつは、リオに興味があってシルバーの所に来た…絶対、そうだ。

 カールは昔から変わったものや面白いことが大好きだ。

 

 

「はあ」

 

 

 また、面倒なもんに目をつけられたな。


 けれど、カールでまだ良かったとも思う。

 興味が湧いたと言っても、カールは実験や何かをする訳でもない。

 ふざけたような喋り方をする奴だが、中身はしっかりしている。

 ああ見えて、人に対する思いやりとか優しさだってちゃんと持ち合わせている……変わってはいるが。

 それに、頭もまわるし観察眼も鋭い………変わってはいるが。

 

 …………変人であることは否定できない。

 

 リボンを付け替えたリオをシルバーは一瞥する。

 リオにリボンをやるくらいだから、少なくともリオを気に入ってはいるんだろう。

 そのことに、少し安堵する。

 

 もともと、カールが誰にも言わないと言った時から、カールがリオのことを誰かに言うことはないと分かっていた。

 カールは口が固いし、シルバーはなんだかんだいって、彼を信頼している。

 

 

 

 

 ーーーーー『覚悟は、しておくべきだ』

 

 


 いつか、リオが王都に行くことも考えれば。


 カールは職人としてでだけでなく、魔法使いとしてもずば抜けた才能がある。

 あいつがリオを気に入ったなら、何かあった時、きっと、心強い味方になってくれるはずだ。

 


 と、そこでシルバーはカールが一瞬、本当に一瞬だけ、目を横に滑らせたのを捉えた。

 その視線を、シルバーも追う。


 

「あれは、」

 

 

 雪の向こう、その白に同化するように。

 一頭の、白い熊。


 あれは、魔獣だ。

 


 

 《まさか、ここで出くわすとはねぇ》

 


 脳内にカールの声が響く。

 魔獣に気づいていないリオには聞こえないようにするためだ。

 

 《それにしても、おかしいよねぇ…あのおじいさん、ここに出る魔獣はそんなに危険度は高くないって言ってたんだけどぉ》

 《…危険度が高くない?あれが?》

 

 シルバーはその熊のような姿の魔獣を見やる。

 ……いや、あれはどう考えてもヤバイ奴だろ。

 

 シルバーの記憶が正しければ、あれは結構危険な方にランク付けられる魔獣だ。

 大体、白い、という時点でーーーーー

 


 《どおするぅ?僕が、やってこようかぁ?》

 《俺たちの方に襲いかかってくる感じは、しねぇな》

 

 あの魔獣は遠くからこちらをじっと見つめているだけだ。

 多分、カールがいるからだ。

 カールに敵わないと感じ取って、遠くから警戒するに留めているといったところか。

 それなら、下手に刺激せずにこちらもすぐに去った方がいいだろう。

 だが、あれほど危険な魔獣を野放しにしておくのも、また、危険だ。

 ここを通りかかった人が襲われる可能性がある。


 しかし、カールとシルバーが魔獣の様子を伺っているうちに、魔獣はその姿を消した。

 

 《あららぁ〜行っちゃったねぇ》

 《これは、報告しておいた方が、いいだろうな》

 《そうだねぇ》

 

 

 帰って、あの魔獣の目撃情報をギルドか何処かに報告しておけば、何かしら対策は出されるだろう。


 そうして、シルバーは魔法での会話を終わらせると、リオがじっとある一点を見つめていることに気づいた。

 その一点は、先ほどまで魔獣がいた場所だ。

 まさか、リオも魔獣に気づいていたのか、と思いながらシルバーはリオに尋ねる。

 


「どうした、リオ」

「いいえ…ただ、彼処に何かいた気がしたんですけど」

 


 気のせいですね、と笑うリオ。

 リオは、意外と気配に鋭いのかもしれない。

 


「リオちゃん、実はさっきまであそこに魔獣がいたんだよぉ」

「え、本当ですか!?」

「うん。でも、もうどっか行っちゃったけどぉ」

「そうなんですか。一度、見てみたかったんですがね…」

「そっかぁ、残念だったねえ。でも、魔獣に襲われるよりは全然いいと思うよぉ〜。僕等、魔石なんて重荷持ってるから、きっと早く動けないしぃ」

「そうですね」

 

 

 いや、てめぇにはその魔石はハンデにもならねぇだろ。

 のほほん、と言うカールに、シルバーは思わず心の中でつっこんだ。

 

 


 その後は、魔獣を見かけることもなく、無事、マーシャルのもとに帰還したのであった。

 

 

 

 

 



 


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