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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第六章
32/123

強制転移は道連れに (3)


 

 

 

 

 

「……で、これはどういう状況ですか?」

 


 馬車の中で、リオが二人に尋ねる。

 

「手紙の送り主が、迎えを寄越したんだろ」


 溜め息をつきながらシルバーが簡潔に説明した。

 リオはシルバーから視線を外し、カールにより詳しい説明を求める。

 

「多分〜手紙を送った人はぁ〜転移先でシルバーを迎える人をあらかじめ用意してあったってことぉ。じゃないと突然の転移で、シルバーはきっとお金も持ってこれないしぃ、困っちゃうだろうからねぇ」

「なるほど」

「手紙の魔法陣が作動したら、その出迎えの人にシルバーが転移したことが伝わるように細工してあったんじゃない〜?」

「へぇ…魔法って、いろいろ出来るんですね」

「まあ、ねぇ〜。でもぉ、おじいさん、焦ってたよねぇ」

 

 おじいさん、というのはこの御者台に座っている人のことだ。

 身なりの良い、優しげなおじいさん、というのがリオの印象だ。

 

 

 しばらくして馬車は街に入り、とある家の前で止まった。

 おじいさんが馬車のドアを開けてくれたので、リオは軽く頭を下げて馬車を降りる。

 

 そして、ついてきてください、というおじいさんに従いその家の中に入った。

 歩きながら、おじいさんは説明する。

 


「実は、あらかじめシルバー様を出迎えるよう、準備をしていたのですが…手紙の転移の魔法が作動したことはこちらにもしっかりと伝わったものの、一向にシルバー様がこの家に現れなかったので…」

「あれは、この家に直接転移するようになってやがったのか」

「はい。ですが、いくらなんでも遅すぎると思い、まさか他の場所に落ちてしまったのかと、馬車を走らせたのでごさいます」

「ああ〜もしかしたら、シルバー以外の人間も転移に巻き込まれたことで、少し座標が狂ったのかもねぇ」

「はい。おそらくは」

 


 やがて、案内された部屋で、リオ達は各々部屋にあった椅子に座った。

 


「で?あいつからの手紙には、白爛石を採ってこいとはあったが、それ以外、何も書かれてなかったぞ」

「そちらの説明も、私が仰せつかっております」

 

 

 おじいさんーー名はマーシャルと言うらしいーーーは、紅茶を淹れたカップを人数分机の上に並べると、今回のシルバーへの手紙の内容について、説明し始めた。

 

「まず、近々国王の生誕祭が行われるのは、ご存知ですよね」

「ああ、毎年、春の終わりに催される奴だろ?」

「はい。その時に、王への献上の品の一つとして、巨大な魔石細工が作られるのです。シルバー様には、それを作るための白爛石を採りにいっていただきたいのです」

「それは、毎年作ってるものなんだろう?なら当然、毎年そのための白爛石を採りにいく奴がいるはずだろうが。なんであいつは突然俺に頼んできやがった?」

「ええ。実は、毎年その仕事を任されていた人物が高齢な方だったものですから…つい二月程前に、突然亡くなられてしまって…」

「そうか、それは気の毒だったな。でも、そこで俺が呼ばれる意味が分かんねえぞ。別に他の奴でもよかっただろうが」

 


「いえ、それが、白爛石のある場所が問題なのです。実は、この街から更に北に洞窟がありまして、その奥に白爛石が存在するのですが……そこは、精霊の洞窟なのです」


「あ〜、なる程ねぇ」

 

 

 マーシャルの言葉に、カールが頬杖をつきながら言った。

 

「それなら、シルバーに頼むしかないよねぇ」

「?どうしてですか?」

「それは精霊が絡んでるからだよぉ〜」

「…私のような普通の人間では、精霊は決して洞窟の奥へと近づけてはくれません。実際、既に何人も洞窟の中へと行ったのですが、白爛石のもとまで辿り着けたものは一人もおりませんでした」

 

 しゅん、としながらマーシャルは言う。

 そもそも、精霊って何?

 

「精霊はぁ〜…うーん、説明が難しいなぁ………万物に宿る、超自然的な存在?」

 

 曰く、意思を持った魔力の集合体みたいなものだ、とのこと。

 火の精、水の精、というように様々な種類の精霊が存在し、普段は滅多に人前に姿を現さないらしい。

 

「精霊はぁ、自分の住処に人間が入り込むのを嫌うからねぇ〜きっと、幻覚か何かでも見せて、洞窟に入ってくる人を惑わしてるんじゃないかなぁ〜」

「へぇーそうなんですか」

「そうそう〜だからぁ、精霊の住む森は迷宮の森とか言われることも少なくないしねぇ」

「でも、そこで何故シルバーが出てくるんです?」

「それはぁ、シルバーが精霊に愛された者だからだよぉ〜」

 


 カールはにっこりと笑った。

 

 精霊に、愛された者?

 なんだそれは、とリオは首を傾けるが、カールは笑うだけでそれ以上詳しくは教えてくれなかった。

 

「要するにぃ、シルバーなら、精霊は白爛石のある場所まで通してくれるかもしれないってこと〜」

「亡くなられた方も、精霊に愛された者でしたからね」

 

 カールの言葉に、マーシャルも頷く。

 


「面倒くせぇが、それなら、仕方ねぇな」

 


 シルバーも渋々、といった様子で白爛石を採りに行くことを了承したようだった。

 

「明日、その洞窟に行く」

 

 そう言い残し、シルバーはその場を去った。

 

「あれはぁ、僕たちもついてこいってことなのかなぁ〜?」

「多分、そうでしょうね…」

 

 リオは小さく項垂れる。

 そんな二人に、マーシャルは微笑みかけた。

 

「あの洞窟に行くまでの道には、魔獣もしばしば出没しております。シルバー様お一人よりも、三人で行かれた方が安全でございましょう」

 

 その言葉に、リオは目を見開く。

 

「魔獣が、出るのですか…」

 

 

 魔獣。

 

 この世界には、魔獣という存在がいる。

 それはリオも耳にしたことがあったので知っていたが、基本、人の住む場所から離れたことのないリオは、まだ魔獣を目にしたことがなかった。

 

「どうしたのぉ?リオちゃん」

 

 カールが不思議そうにリオの顔を覗き込む。

 

「あ、いいえ…私は魔獣を見たことがないので」

「そうなのぉ?まぁ、そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫だよ〜なんとかなるってぇ」

「はい、魔獣と言いましても、確認されているのはそこまで危険度の高い魔獣ではありませんので」

「そうなんですか」

 

 

 

 その後、ベッドに案内されたリオは、明日のことを思いながら、眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 


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