強制転移は道連れに (2)
地面を覆う柔らかい雪。
辺り一面に広がるのは輝く銀世界。
「どこ、ここ」
ヒュオオオォォォォーーー…
呆然とした呟きも、容赦ない風に掻き消され、ついでにその風に吹かれた髪がリオの顔面を覆った。
「うーん、どこだろぉねぇ」
そう答えるのは片手でフードを押さえているカール。
「…」
シルバーは言葉もなく、ただ手紙をぐしゃり、と握り潰した。
あの強烈な光に包まれた後。
視界がハッキリとした時には、既に、リオ達三人はこの雪に覆われた地面の上に足をつけていた。
「ーーーっていうか、寒い!!」
リオは叫ぶと、両手で自分の体を抱きしめる。
リオの言うことはもっともである。
現在の季節は春であり、リオ達は薄手の服を着ていた。
「どういうことですか!今、春ですよね!?冬じゃありませんよね!?」
四季のあるこの世界。
もう冬はとうに終わったはずだ、とリオは震えながらその事実を脳内で整理する。
「あのクソ野郎…!わけわかんねぇ所に飛ばしやがって!!」
「ええ!?シルバーも何処か分からないんですか!?」
「当たりめぇだ!この雪しかねぇ景色で、ここが何処かなんて分かるはずねぇだろうが!!」
確かに。
雪しか見当たらないこの場所で、ここが何処か分かったのなら相当なものだろう。
「ん〜春なのに、こんなに寒くてぇ、雪が降ってるっていうとぉ…」
「カール、心当たりがあるんですか?」
「そういえば、てめえはあちこちフラついてたんだったな」
「テータムよりもずぅーっと北なのは確かだけどぉ…流石にこの景色だけじゃあ僕にも分からないや〜」
「けっ、使えねぇ」
「あ、でも〜なぁーんかあっちの方に人がいっぱいいるねぇ。街があるのかも〜」
そう言って、カールはある方向を指差す。
つられてリオもそちらを見てみるが、白い世界が続くだけで、何も見えない。
「…?人も何も見えませんよ?」
「ああ〜うん、目じゃぁ分からないよお。魔力の、気配?が向こうにかたまってるなぁって」
「魔力?気配?そんなのが分かるんですか?」
「僕、そういうの得意だからね〜。距離からしてぇ…2〜3時間位歩けば着きそうだけどぉ〜」
こてん、と首を傾けて言うカールに、リオはそんなことまで分かるのか、と驚愕した。
一方で、それを聞いていたシルバーは、前髪をかき上げた。
「…仕方ねぇ。そこを目指して、歩くしかねぇか」
「……転移、は使わないんだねぇ〜」
「俺が転移苦手なの知ってるだろうが」
シルバーはジトッとカールを見る。
「お前の方こそ三人まとめて転移することなんか朝飯前だろうが。…そうだ、てめえが転移を発動すればいい話じゃねえか!」
気付いたシルバーは、カールに叫ぶ。
しかし、カールは何が面白いのか、くすくすと笑うだけで、首を縦に振ることはなかった。
「え〜やだよぉ、疲れるじゃんかぁ。それに、歩いた方が、きっと楽しいよぉ〜」
「てめぇの魔力量なら余裕だろうが!!それに、俺は楽しさなんか求めてねえぞ!」
「まあまあ、お散歩だと思えばさぁ」
「こんなクソ寒ぃ中コートも着ずに散歩するなんざ、俺は御免だ!!」
また始まった。
リオは二人のやりとりに、このままではきっと日が暮れるまでここから離れられないだろう、と思案する。
歩くにしろ、転移するにしろ、このままここで立ち止まるのは御免被りたい。
そうしてリオはコントを続ける二人に背を向け、先程カールが指差した方向へと歩き出した。
一人で進むのは危険だが、あの二人に付き合っていては凍死しかねない。
「あ、シルバー、リオちゃん一人で行っちゃったじゃない」
「なんだって!?一人で行くとか、馬鹿か、あいつは!危ねえだろうが!…おい、カール、早く行くぞ!」
「はいはーい」
カールとシルバーの二人は、リオの後を追った。
結局、三人で雪の中を歩くことになった。
「寒い…寒い」
歩きながら、リオはずっと同じ言葉を繰り返す。
しかし、隣を歩く男二人は至っていつもと変わらぬ様子である。
「二人は、寒くないんですか?」
「僕はぁ、このローブがあるからねぇ」
カールは、黒いローブの端を摘んでひらひらとしてみせる。
曰く、ただのローブではなく、魔法の施された特殊なローブらしい。
「寒くないわけじゃねぇが、俺も、大丈夫だぞ」
「シルバーまで特別な服なんだとか言いませんよね…?」
「あはは〜それはないよぉ。シルバーは、もともと寒さには強いからねぇ」
そんな会話をしながら、一時間ほど歩いた時。
リオ達はあまり雪に覆われていない一本の道を見つけた。
シルバーが言うことには、この道に敷き詰められている石が、火属性の魔力を含む魔石なのだろう、とのこと。
火の魔石は僅かに熱を持っているため、それが雪を溶かし、道が雪に埋もれることはないのだそうだ。
その道の上を歩くこと、更に一時間。
白銀の世界の向こうに、ようやく何かが見え始めた頃。
リオ達の歩く道の先から、猛スピードでこちらに近づいてくるものがあった。
それは、馬車だった。
驚いたリオ達は、このままでは轢かれてしまう、と一旦道から離れることにする。
しかし、これまた驚いたことに、馬車はリオ達の目の前で急停止した。
御者台にいた人物が、道の上に飛び降りてきて、言った。
「シルバー様でごさいますか!?」
その言葉に、リオはシルバーの方にぐるんと首を回す。
いや、あんな奴は知らねえぞ、とシルバーは無言で首を左右に振る。
しかし、御者台に乗っていた人物は気にせずに言葉を続ける。
「お待ちしておりました!貴方が転移してこられた際に案内するよう仰せつかっております。どうぞ、こちらへ」
そう言って、片手で馬車の方を指した。
乗れ、ということだろうか?
首を傾けるリオだったが、シルバーとカールは、何か分かったようで。
「なるほどぉ〜そういうことかぁ」
「…リオ、とりあえず馬車に乗るぞ」
二人は馬車の中へと乗り込んでいってしまった。
大人しく、リオもそれに続く。
「皆さん、乗りましたね?では、出発致しますーーーハアッ!!」
その大きな声とともに、馬車は走り出した。




