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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第六章
30/123

強制転移は道連れに (1)

 

 

 

 



 白い雲がゆったりと流れ、地面に咲く小さな野花が陽の光に柔らかく照らされた長閑な春の日の朝。

 窓の外の小鳥のさえずりを聞きながら、リオは機嫌よく鏡の前に立っていた。


 顔を僅かに横に向け、目だけを鏡に向ける。

 そして、左耳に手をのばす。

 


「よしっ」

 

 

 リオは、鏡の中の、自分の耳に輝く赤い石を見て満足げに頷いた。

 

 

 ぶっ倒れたのが嘘のように、シルバーの粥を食べた翌日には見事完全復活を果たしたリオは、左耳にピアスの穴を開けた。

 初めて穴を開けるのでヒビっていたら、見ていてじれったかったのかシルバーに穴を開けられた。

 あまりの早さに、痛みはそこまで感じなかった……というより、いきなり穴を開けられた驚きの方が痛みに勝った。

 

 そして、しっかりとピアスの穴が開いた後、朝、鏡の前でタレイアとお揃いの赤いピアスをつけるのがリオの日課となっていた。

 親友と同じ色をしたそれは、まるですぐそばにタレイアがいるかのように感じる。

 

「シルバー、おはようございます」

 

 リビングに入ったリオは、既にキッチンに立っているシルバーに声をかける。


「ああ。リオ、皿出せ」

 

 リオは、シルバーに言われた通り、朝ごはんを盛り付ける皿を用意した。

 シルバーはそれに手際よく料理を盛り付けていく。

 繊細な魔石細工を作る彼はもともと手先が器用なのか、以前も言った通り、料理が上手だ。

 リオにとって、アルジェンテでシルバーの手料理を食べるのは至福の時間でもある。

 

「いただきます」

 

 リオは、テーブルの上に並べられた朝ごはんを前にしっかりと手を合わせた。

 

 この所作も、初めはシルバーにとても驚かれた。

 それは何をしてるんだ、と不思議そうに尋ねられたのを覚えている。

 食べ物に感謝を示しているのだ、と言えば、確かおもしろいなとかなんとか言われた気がする。

 今ではもうリオの所作も見慣れたようだが。

 

 そして、リオは朝ごはんにフォークをのばす。

 シルバーもフォークを皿にのばし……ガッ。


 何やら変な音が聞こえた。


 リオはシルバーの方を見る。

 シルバーはフォークを机の上に突き刺しながら、呆然としていた。

 

「……ちょっと、シルバー。何してるんですか。机にフォークを刺すなんて行儀が悪いですよ」

「…………皿が、消えた」

「…は?」

 

 シルバーの言葉に、そんな馬鹿な、と思ったリオだったが、確かに、彼の前に置いてあった皿が全て消えていた。

 ちなみに、リオの分はちゃんと全て目の前にある。

 

 

「ん〜やっぱりぃ…もぐもぐ…シルバーの料理はぁ、もぐ…いつ食べても美味しいねぇ」

 

 

 突然、リオでもなく、シルバーでもない声がその場に響いた。

 

「…」

「…」

「もぐもぐ」

 

 リオとシルバーは、我が物顔で椅子に座っている人物を無言で凝視する。

 怪しげな黒いローブに、被ったフードの中からこぼれる柔らかい黄緑色の髪。

 女と言っても通じるような可愛らしい顔立ちと、力の抜けたのんびりとした口調。

 こちらの視線に気づいたのか、顔を上げた彼は、フードの奥から緑と金の瞳をのぞかせる。

 

 

 

「…あれ?二人ともこっちを見つめてどぉしたの〜?」

 

 

 

 ーーー自称シルバーの兄、カールだった。

 

 

 カールのその言葉に、ようやくシルバーは口を動かした。

 

「てめぇ…なんで、うちにいやがるんだ…」

「んー?んー…おいしそうな匂いしたからぁ、つい?」

「『つい?』じゃねえ!勝手に魔法で人の家に侵入すんな!……それに、それは俺の朝飯だろうが!!」

「あ、シルバーのだったぁ?なら、問題ないよねぇ」

「なんでそうなる!?大有りだ、このボケナス!!返しやがれ!」

「ごくん、………ふぅー。おいしかったぁ。ごちそうさま〜」

「…!……カール!てめぇ、よくもっ!!」

「へ?ってうわぁ、ちょっとぉ、やめてよぉ」

 

 ギリギリ、とカールのフードを引っ張り、カールの首を絞めているシルバー。

 そんな二人を冷ややかな目で見守るリオ。

 

 ギャーギャー何かシルバーが怒っていて、カールはヘラヘラ笑いながら、シルバーの反応を完全に面白がっている。

 

「カール、シルバー。まだ食べている人がいるんです、静かにしてください。煩いです」

「なんだと!?」

「シルバー煩いよぉ〜。ごめんねぇリオちゃん」

「黙れ、カール!もとはと言えば、てめえが悪いんだろうが!!」

「シルバー、黙ってくれません?」

 

 リオがにっこりと微笑めば、何かを感じ取ったシルバーは、大人しく口を閉ざした。


 そうして、リオは平穏に朝ごはんを食べ終えた。

 

 

「シルバーも、リオちゃんも久し振りだねぇ」

 

 

 カールがフードを取りながら言った。


「そうですね。でもまたなんで突然来たんですか?」

「えーっとねぇ、特に理由はないんだけどぉ」

「……理由がねぇのに、勝手に人の家にあがりこむな。迷惑だ」

「つれないなぁ、シルバー」

「俺は、間違ったことは言ってねぇぞ」

 

 眉を吊り上げながら言うシルバーに、カールは何かを思い出したかのように手を叩いた。

 

「あ、そうだぁ〜。はい、これ、シルバー宛に手紙預かってきたんだったぁ〜」

 

 カールは黒いローブの中から、一枚の手紙を取り出した。

 シルバーはそれを受け取る。

 


「俺宛に?……一体誰、」

 

 

 しかし、シルバーは手紙の入った封筒に書かれた差出人の名を見た途端、それに両手をかけ、真っ二つに破こうとした。

 慌ててリオはそれを止めようとしたのだが。

 

 

「…!おいっ、カール!!何なんだ、この手紙はっ!まったく破けねぇぞ!!」

 


「あぁ〜なんか、シルバーは差出人の名前を見たら、きっと中身も読まずに破くだろう、って言ってさぁ。あの人、めちゃくちゃいろんな魔法かけてたよぉ」

「あの野郎…!無駄なことに魔力を使いやがって!!」

「多分〜シルバーには解けないよぉ〜?」

「んなのやってみなきゃ分からねぇだろ!?」


「……シルバー、そんなことするより、諦めて中身を見たらどうなんですか?」

「リオ!てめぇは黙れ!!…いいか、この手紙は、絶対に読んだらダメなやつだ。まだ、何も見てないなら、あいつに何か言われても知らねえっていい通せる」

「確かにぃ、中身を見ないのが、賢明だよねぇ」

「……何が何だかさっぱり分かりません」

「リオちゃんはぁ、知らなくていいと思うよ〜」

「そうですか?」


「うんうん〜。シルバーがぁ、もう一人のお兄さんからのパシリを回避しようとしてるだけだから〜」


「…パシリ?」

「ちなみにぃ、僕もパシられてきたよぉ〜」

「…」

「まったく、人使いの荒いオニイサマだよねぇ」

 

 

 

 

 しばらくあれこれと奮闘していたシルバーだったが、やがて、諦めたのか封筒の封を開け、中身に目を通し始めた。

 

「………くそっ、やっぱり、読むんじゃなかった…」

「何て書いてあったのぉ〜?」

「あの野郎、俺に……………ん?」

 

 シルバーは、カールに答える途中で眉を顰めてもう一度手紙を見つめた。

 

 

「『追伸:この手紙を開いてから3分後に転移用の魔法陣が作動する。健闘を祈る』ーーーーって、嘘だろ?どうすりゃいいんだ、これ!?」

 

 

 シルバーが手紙の最後に書かれた追伸に気付いて焦り始めたが、時すでに遅し。

 何やら、シルバーが手に持つ手紙が光りだした。

 


「うわぁ。本当、同情するよぉシルバー。生きて帰ってきてねぇ」

「え、何ですか、この光。魔法…?魔法なんですか?」

「うん、空間を移動する魔法だよぉ〜。……リオちゃん、シルバーから離れよっかぁ〜。近くにいるとぉ、僕らも巻き込まれるからねぇ」

「あ、はい。分かりました。…シルバー、頑張ってくださいね」

「てめえら、俺を見捨てる気か!?」

 

 カールの言葉に従い、リオはシルバーのもとを離れようとし、そんな二人にシルバーが叫ぶ。

 

 そして、光が一層強くなった。

 

 シルバーに背を向けてカールの隣に行こうとしていたリオは、突然襟首をぐいっと後ろに引っ張られる。

 

「うっ!…って、シルバー!?何してるんですか!離してください!!」

「離すか!!」

「ちょ、ふっざけんな!!行くなら一人で行けよっ…!なんで私がっ」

 

 徐々に光で視界が白く染まっていく。

 

「あ〜リオちゃん、捕まっちゃったかぁ〜残念だったねえ」

「…、一人だけ助かるなんて許しませんよっ!!」

「へ?…え、ちょ、リオちゃん!?フード引っ張らないで!!く、首がっ、うっ!」

 

 目も開けられないほど強く光が辺りを満たして、そしてーー…

 

 

 

 

 


 

 ーーーーパチン。

 

 

 


 カールの苦しげな呻き声を最後に、アルジェンテから三人の姿が消えた。

 

 

 




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