赤と黒のピアス
しばらくしてタレイアとリン、リースの三人は、行かなくてはならない所があると言い、リオとシルバーの元から去っていった。
残されたシルバーは、小さく息を吐く。
「やっと行ってくれたか」
「…シルバー。私、シルバーにリンさんたちから招待状が届いていたなんて知りませんでしたよ」
「差出人の名前見た瞬間に、捨てたからな」
「貴方、なんてことを…」
「それに、俺はトルーマンから依頼を受けた時から、相手がリースの弟じゃないかって疑ってたからな」
「…」
「青色にこだわる貴族で、赤毛と年の近い未婚の男っていう条件に当てはまる奴で、俺は真っ先にあいつの顔が浮かんだ」
そういえば、リンは青い髪と瞳をしていたな。
リンだけではない。
兄のリースも、そして、結婚式で見かけたリン側の親族もみな青かった気がする。
「もしかして、貴族が色にこだわるのって、その貴族の方の髪や瞳の色に関係してます?」
その言葉にシルバーは頷いた。
「あいつらは、王都でも権力のある水の名門貴族だからな」
「水の、名門貴族…?」
聞きなれない言葉に、リオは首を傾ける。
「…そうか、てめえは何も知らねえのか」
そこで、シルバーはリオにも分かるように一から説明してくれた。
「いいか。まず、人が使える魔法の属性は一般的に火、水、風、雷、土の五つだ。これは誰でも練習すれば使えるようになる」
「へえ。どれか一つとかじゃなくて、誰でも五つとも使えるんですね」
「五つ使えるといっても、属性の得意不得意は個々にもちろん存在する。で、だ。貴族ってのは、その得意属性がずば抜けて優れている。しかもその血筋を代々守り、受け継いできた。魔法使いの素質は遺伝によるものが大きいからな」
「へぇ」
「つまり水の貴族というのは、五つの属性の中でも水属性に秀でた、水を司る貴族ってことだ」
「…じゃあ、他の属性の貴族もいるってことですか?」
「ああ。王都にはリース達の家を含めた、五大貴族ってのがいる。他の貴族よりも圧倒的に力があるし、何より、その家が司る属性の、国内でも指折りの優秀な魔法使いを代々輩出してきた。何百年と続く、歴史のある貴族達だ」
リオは話を聞きながら、本当にファンタジーの物語のような世界だなと改めて思う。
「で、その貴族の奴らは基本、自分たちの司る属性の色を髪と瞳に宿してる」
どうやらシルバーによると、髪や瞳の色というのは自分の魔力の色が現れるものらしい。
「自分の魔力の色?」と、リオが聞き返すと、その本人自身の魔力の色というよく分からない答えが返ってきた。
とりあえず、その自分の魔力の色というのは個々に異なるようで、大概がその人の得意属性の影響を受けて、その得意属性の色であることが殆どだ、とのこと。
「…つまり、リンさんたちは水に秀でた貴族だから、その水属性である青い色をしている、ということですね?」
「そういうことだ」
「じゃあタレイアは赤ですから、火が得意属性ってことですかね」
「だろうな」
「…でもちょっと待ってください。普段街で見かける人はあんなに鮮やかな色の人ばかりではないですよ」
「…ああいう風に自分の魔力の色がはっきりでるのは、優れた魔法使いの資質を持った奴だけだ。それ以外は茶色が普通で、それにうっすらと自分の魔力の色が混じるか、どこか一部に色が現れるくらいだ」
「なるほど」
セシリアとノエリアは確かに茶色系の髪と瞳だったし…ショーンも茶髪だったな。
ただ、ショーンは目が綺麗な緑色だから、目に彼の魔力の色が現れたパターン、ということか。
……もしかして、髪も瞳もあんなに鮮やかな赤色をしたタレイアって、結構凄いんじゃない?
「普通、貴族はその血筋に他の色が混じるのを嫌う。…正直あの赤毛が水の貴族のもとへ嫁ぐのは、例外といってもいいな」
「そうだったんですか」
リオは少し離れたところにいるタレイアを見る。
「まあ、例外といったらリースたちも貴族の例外に当てはまる連中だな。そんなに心配しなくても、あの赤毛は温かく迎えられるだろ」
「…そうですね。リンさん、とってもタレイアを愛していましたからね」
きっと貴族の家に嫁ぐのだから、大変なこともたくさんあるだろう。
それでもシルバーは心配ないだろうと言うし、リンさんもリースさんも、とても優しい人のように思えた。
タレイアのことをしっかりと支えてくれるだろう。
「タレイア、幸せになるといいですね」
リオは、優しく微笑んだ。
***
披露宴も終わり、リオがシルバーとともに馬車に乗り込もうとした時だった。
「リオ!!」
突然大きな声で名前を呼ばれ、リオは振り返る。
タレイアがこちらに駆けてきていた。
「ちょっと、待って」
「どうしたの?タレイア」
「これ、リオに渡そうと思って」
「私に?」
タレイアがリオに片手を突き出す。
それに対して、リオも片手を差し出した。
「これ…」
手のひらに乗せられたそれに、リオは目を見開く。
渡されたのは、赤い石のはめ込まれたピアスだった。
けれども一つしかないから、片耳にしかつけられない。
「実はね、これ、魔石細工なの。シルバーに作ってもらったのよ」
「え、シルバーが?」
「そうよ。私がお願いしてね。ほら」
そう言うと、タレイアはもう一方の手をリオの前で広げて見せた。
そこには、リオの赤いピアスと同じデザインの、黒い石がはめ込まれたピアスがあった。
それをタレイアは自身の右耳につけてみせる。
「私たち、離れていてもずっと親友よ」
その言葉に、リオは熱いものが胸からせり上がってくるのを感じた。
このピアスの赤と黒は、タレイアと自分だ。
ぎゅっと赤いピアスを握りしめると、リオは綺麗に笑った。
「うん。タレイアは、私の大切な、大好きな親友だ。ずっと」
その言葉に、タレイアも花が咲くような可憐な笑顔を見せた。
「帰ったら耳に穴を開けなきゃ」
「あら、リオは穴を開けてなかったのね」
「うん。……タレイア、幸せになってね」
「もちろんよ。リオも早く恋人作りなさいよ」
「はは」
「また手紙を書くわ」
「私も、書くよ。もし、王都に行くことがあったら会いに行ってもいい?」
「ええ、もちろん。私も会いたいわ」
タレイアと別れを惜しんだ後、ついにリオは馬車に乗り込む。
遠ざかっていくタレイアの姿を見つめながら、リオは親友の幸せを心から願うのであった。




