意外な繋がり
「随分と楽しそうだね」
その声に真っ先に反応したのは、リンだった。
「兄上!!」
あ、兄上っ…!
本当にそう呼ぶ人がいるんだ、と、リオは誰にも気付かれないように吹き出しかけた口を手で押さえる。
「結婚おめでとう、リン、タレイア」
「リース様…ありがとうございます」
「タレイア、私のことは兄と呼んでくれて構わないんだよ」
「そんな、」
「さあ、ほら、言ってごらん」
「う、…お、義兄さま…」
目の前で繰り広げられる会話に、「あれ?これ、私超部外者じゃね?もう消えた方がよくね?」とリオが思っていると。
「兄上、後ろにいる方は?」
「ああ、そうだった。お前達の所へ来たのはこれが目的だったんだよ。ほら、お前からも何か言ってやってくれないか、シルバー?」
いそいそと退散しようとしていたリオは、思わぬ人物の名前に、ばっとリンたちの方へと振り返る。
シルバー?今、シルバーと言ったか…?
すると先ほどの三人の中に一人、銀色の頭が混ざっているではないか。
なぜリンのお兄様と一緒にシルバーがいるんだ。
「……何かって、何だ?」
「ほら、おめでとう、とかさ」
「ご結婚オメデトウゴザイマス」
見間違いかと思い、何度か目をこすってみたが、お兄様の隣にいるのは、どこからどう見ても毎日リオが目にしている銀色の彼だった。
いつもと変わらぬ……いや、少し不機嫌そうなシルバー。
「シルバーさん、来てくださったんですね」
まさかのまさか。
リンとも知り合いらしい。
リンが嬉しそうに声をあげた。
どうやら戸惑っているのはリアを除けばタレイアだけのようで、彼女はリオの方へと近寄ってくると、リオの耳元に顔を寄せコソッと話しかけてきた。
「……ねえ、ちょっと。アレ、どういうこと?」
「…待って。私も今すごく混乱してるから」
リオとタレイアがそうしている間にも、彼らの会話は進んでいく。
「でも、本当驚きだよね。私も駄目元でシルバーへ招待状を送ったんだ。弟の結婚式にぜひ、君も来て欲しかったからね」
「……駄目元で送ってきたのか」
「まあね。シルバーのことだから、この結婚式にはあの人も呼ばれてる可能性があることにすぐ気がつくと思って」
「…」
「あの人がいる所に、シルバーは絶対行きたがらないだろう?だから本当にびっくりしたよ」
「…当たりめぇだ。あいつに会わないにこしたことは、ねぇからな」
「そう?あの人はシルバーに会いたがってるよ」
「いい迷惑だ!…だいたい、俺は、あいつに会うといつもろくな事がないんだ!!」
猫がフシャーッと威嚇するように声を荒げたシルバーを、まあまあ、とお兄様は宥める。
「でも、よかったじゃない?あの人、今仕事で忙しいみたいで出席できなくなっちゃったから。代わりにお祝いの手紙は届いたけど」
「ああ、本当によかった。九死に一生を得た気分だ」
「大げさだな」
「大げさでもなんでもねぇよ!今回はあいつがいなかったからまだよかったが、俺はてめぇにも会いたくはなかったんだ!!」
「ひどいなぁ」
「でも俺、シルバーさんが来てくれて本当に嬉しかったです。てっきり、招待状なんて破り捨てられるかと…」
「ああ!もちろんてめぇらからの招待状は、届いてすぐに捨てた!」
「えぇ!?」
まさかのシルバーのカミングアウトに、リンが目を見開く。
リオも、まさかリンの方からシルバーへと招待状が届いていたとは知らなかったため、同じようにシルバーを凝視した。
「けど、仕方ねえだろ!?リオの所に、きっちりと招待状が届いちまったんだ。くそっ、あのトルーマンのくそじじいめ」
シルバーのその言葉に、今度はリオへとリンの視線が突き刺さる。
リンが不思議そうに尋ねた。
「リオは…シルバーさんの知り合いなのかい?」
「ええ…ですが、私も同じ事をリンさんに聞きたいくらいです。シルバーとはどういった…?」
リオの戸惑う声に応えたのは、リンのお兄様だった。
「シルバーはね、私の友人なんだよ」
「誰が友人だ。俺は、てめえを友だと言った事は一度もねぇはずだ」
「それでね。以前まだシルバーが王都にいた頃に、シルバーはリンとも会ったことがあるんだ」
「人の話を聞きやがれ!!」
「へぇ…そうだったんですか」
驚いた。
貴族の人と知り合いだったという事にも驚いたけど、シルバーが王都にいたことにも驚きだ。
「私はリンの兄のリースだ」
「申し遅れました。私はリオと申します」
「それで、シルバーがさっき言ってたことって?」
「あ、はい。私はシルバーの店に一緒に暮らしているのですが…」
「し、シルバーが…!?え、嘘だろ…ーーーああ、すまない。続けて」
「私はタレイアの友人で、タレイアから結婚式の招待状を貰ったのです。それで、シルバーも一緒に」
「…成る程」
一通りリオから話を聞き終えると、まじまじとリースはシルバーの顔を見つめた。
「…なんだよ、人の顔じろじろ見やがって」
「いや、世の中何が起こるかは分からないものだな、と」
心底意外だ、とでも言うようにリースは言い、その隣でリンも頷いていた。




