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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第四章
17/123

◆ドクターとの会話

 








 

「すみません、タレイアの元に行ってきてもいいでしょうか?」

 

 

 

 その言葉に、ドクターはにっこり微笑んだ。

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 その言葉を聞くや否や部屋を飛び出していったリオを見て、「あいつ、ずっと俺とトルーマンの話が終わるのを待っていやがったな」とシルバーは溜め息をつく。

 どうやらトルーマンも同じことを思っていたようで、彼女が出て行った扉を苦笑いで見ていた。


「元気だねえ、彼女」

「…もう少し大人しくしてくれると、ありがたいけどな」

「…君が彼女を初めて連れて来た時には、本当に驚いたよ」

「…」

「あれからもう、どれくらい経ったかねえ?」


 シルバーは、ふっと窓の外に咲く天雪草を見て答える。



「春が来れば、一年になる」

「そうか。一年か」

 

 

 しみじみとそう言うトルーマンも、何か思うところがあるのか、シルバーと同じように天雪草に目をやる。

 

 

 

「案外、早いものだね」

 

 

 

 天雪草の向こうで、リオが駆けていくのが見えた。

 今でこそよく笑い、時にはシルバーをからかうこともあるが、出会った当初、リオは今とはまるで別人だった。

 


 

 ーーー『…』


 ーーー『なんだ、口もきけないのか』

 

 


 

 最初は、威嚇するようにこちらを睨む獣のような姿。

 

 それから。

 

 

 

 

 ーーー『おい、おい!しっかりしろ!!』

 

 

 

 

 次に見たのは、衰弱しきった姿。

 その頃のリオの姿が順番に脳内に映し出されては、消えていく。

 

 

 

 

  ーーー『トルーマン!開けてくれ!!』


 ーーー『…シルバー?一体どうした?』





 ーーー『急患だ!』

 

 

 

 

 

 

 シルバーは、そっと目を閉じた。

 

 

 

 



「………彼女は、一体何処から来たのだろうね」

 

 

 

 トルーマンも当時のリオを思い出してか、ポツリと呟く。

 

 リオ。

 シルバーが、偶然出会い、拾った少女。

 

 少なくともこの大陸では見たことのない、やや黄色味がかった不思議な色の肌。

 実年齢よりも幼く見える顔立ちは、異国めいた神秘的な雰囲気を纏っている。

 今でこそ丁寧な言葉遣いで滑らかに喋っているが、初めは言葉すら話せなかった。



 だがーーー最も異質だったのは、その髪と瞳の色だ。

 

 

 リオの本当の髪と瞳の色を知るのは、極僅かな人だけで、トルーマンとタレイアもそれに当てはまる。

 

 

「さあな」

 

 

 トルーマンの独白にも近いようなそれに、シルバーも誰に言うでもなく言葉を宙に放り投げてみる。

 

 いまだに、シルバーはリオが何処から来たのか知らなかった。

 ただ帰る場所は何処にもない、というのは本人の口から確かめた。

 それだけで十分だと、シルバーは思っている。

  気にならないといえば嘘になるが、シルバーはリオが必死に言葉を覚え、この環境に適応しようとする姿を見てきた。


 シルバーは知っている。

 今だってリオは毎日欠かさず言葉の勉強をしているし、自身が知らない知識をその頭に詰め込んでいる。

 それはリオが、今いるこの場所で生きていく、という意志の表れに他ならない。

 たとえ、その傍でリオが寂しげな表情を見せることがあっても、ひたすら前を向いているリオに、わざわざ後ろを振り向かせる必要はない。

 むしろ、リオが後ろを向いて立ち止まってしまった時には、問答無用でその手を掴んで引っ張ってやるつもりだ。


 本人が前に進むことを決めたのなら、その方向へ進めるように手助けしてやるのが、リオの面倒をみると買って出た自分のすべきことだろう。

 

 



「ーーーで?あの赤毛は、誰と結婚するんだよ」

 


 シルバーは、この話はもうやめだ、と言うように話題を切り替える。


「ああ、タレイアは…とある貴族の方と結婚することになったよ」

「んなことはなんとなく分かってる。それに、この街でもないだろ?」

「…」

「図星か」

「ああ、その通りだよ」

「リオは…気づいてなさそうだったな」

「そうだね。タレイアも涼ちゃんのことだけが気がかりなようでね」

「…その嫁ぎ先で思い当たるところが一つあるが、まさか、王都か?」

「流石…察しがいいね、君は」

「はぁー。やっぱあそこかよ。なあ、頼むから、俺の所には結婚式の招待状送るんじゃねえぞ」

 


「涼ちゃんがいるんだ、送るに決まっているだろう」

「……チッ」

 

 

 

 

 その後、しばらく経ってからアルジェンテに届いた招待状を、シルバーが破ろうとしてリオと乱闘を繰り広げたのは、また、別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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