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赤字続きの魔石細工店  作者: 夜風
第三章
13/123

その猫は同じ色をしていた

 



 

「カール、カール」

「なあに〜?」

「よければ他にも魔石細工のこと教えてくれませんか?」

「あはっ、いいよぉ」

 


 にっこりと承諾してくれたカールに、リオは瞳を輝かせる。


「なんなら、実演してあげる〜」

「カール、魔石細工作れるんですか!?」

「うん〜。僕、これでも一応魔石細工職人だからぁ〜」


 そう言うと、カールはがさごそとローブの中をまさぐり小さな石を取り出した。

 真っ白で、綺麗な石だった。


「まず、これが魔石細工に使う石ねぇ。白爛石(ハクランセキ)って言うんだけどぉ…」

 

 カールが話している途中で、突如石はその形を崩した。

 こねるようにして手を動かすと、それに合わせてぐにゃりぐにゃりと変形する。

 

「リオちゃんの言った通り、魔力を注ぐと〜柔らかい粘土みたいになるんだあ〜。ちなみに、溶けると透明になるんだよぉ〜」


 カールの言った通り、それは無色透明になっていた。

 カールは素早く手を動かす。

 

「でぇ、そのまま放置しとくと、だんだん固まっていってぇ、一度完全に固まると基本的にまた溶かすことはできない。だから、常に少しずつ魔力を注ぎながら柔らかい状態を維持して、やるんだよぉ」

 

 カールの手の中で、魔石は次々と形を変えていき、途中から色も着き始めた。

 リオは首を捻る。

 

「カール、色はどうやって着けてるんです?」

「んー?それは、魔力の色だよぉ。属性に色があるのは、知ってるよねぇ?だから、属性を帯びた魔力を注ぐことで、魔石に色をつけていくんだぁ。例えばぁ…」

 


 魔石の一部が、青くなった。

 


「水属性なら、青〜。火は赤、雷は黄色、風は緑、土は茶色っぽい橙色。これが基本だねぇ〜」

 


 後は、それらをうまく混ぜ合わせて他の色を作るのだ、とカールは言う。

 説明している間にもその手が休まることはなく、カールはまたもやローブの中から何かを取り出すと、素早くそれで魔石に切り込みを入れた。

 一瞬の迷いもなく動くカールの手に、リオと、いつのまにか隣にやってきたセシリアは、つい見惚れてしまう。

 

  「はい、出来たよ〜」


 ようやく手を止めたカールは、完成した魔石細工を手の平に乗せた。

 セシリアがそれを見て感嘆の声をあげる。


「うわあぁぁ!かわいい!!」


 カールの手の上には、一匹の猫がいた。

 ピンと立った耳に、しなやかな曲線を描いた長い尻尾は、ゆらゆらと揺れているように見える。

 首に結ばれたリボンが可愛らしい。

 大きなアーモンド型の瞳は爛爛と輝いていて、それでいて、何処か気品を感じさせる。

 確かに、美しい魔石細工だった。

 

 リオは言葉を失った。

 

 この短時間でよくこれだけのものを作れたな、と思えるほど、精巧な魔石細工。

 けれど、リオが何も言えずにいるのはそれだけが理由ではなかった。

 リオはその猫とリボンの色に、嫌な予感がした。

 

「まあ、手の上だけで即興で作ったからぁ、そんなに褒められたものじゃぁないけどね〜」

 

 すると、カールはその猫をリオの方に差し出した。

 

「はい。これは、リオちゃんにプレゼントぉ〜」

「…え…?」


 そのまま、リオの手に渡された猫。

 リオは恐る恐る、視線を手の上に落とす。

 

 鼻の先から尻尾の先端まで、全身が真っ黒な黒猫。

 黒い体は艶やかな輝きを放っていて、首には真っ青なリボンをつけている。

 

 


「ど?君をモチーフにしてみたんだぁ〜」

 


 

 その言葉に、リオはサァーっと全身から血の気が引くのを感じた。

 

 

 

「な、んで…」

「カールさん、凄いですね!」

「ありがとぉ、セシリアちゃん。そうだ、セシリアちゃんにも作ってあげるぅ〜」


 リオは顔色を悪くしたまま、セシリアの前で魔石細工を作り始めたカールを見つめる。

 どうして、この色を。

 リオはそっと髪を縛っているリボンに触れる。

 ……大丈夫だ、リボンは取れてない…ということは、今、私の髪と瞳は茶色のはず。

 けれど、確かにこの黒猫を差し出して、リオをモチーフにしたと言ったのだ。

 

 ーーーーカールは、私の本当の髪と瞳の色に気づいてる。

 

 どうやって知ったのかは分からない。

 だがそれだけは明白な事実であり、リオは静かに彼を警戒する。

 


 リオはまるで得体の知れないものを目にした時のように、微かな恐怖と不気味さをカールに感じていた。

 

 

 



 **

 ****

 ******

 

 



 ーーーそれは、リオがシルバーと出会って間もない頃のこと。

 


『シルバー、これ、何?』

 

 

 突然手渡された青いリボンにリオは首を傾けた。

 覚えたばかりの言葉を使って、シルバーに問う。

 


『それは魔道具だ。それで髪を縛れば、てめえの髪と瞳の色を変えられる』

 

 

 そう言って、シルバーは手際よく青いリボンでリオの髪を一つに束ねた。

 恐る恐るリオが鏡を覗き込むと、黒だったはずの髪と瞳が暗い茶色に変わっていた。


『変える、なぜ?』

『てめえのためだ』


 シルバーは、真剣な表情でリオに言った。

 

 

『いいか、絶対に人前でそのリボンを外すんじゃねえぞ。それから、髪と目が黒いことは誰にも言うな』

『…』

『絶対に、バレないように、徹底しろ』

『……なぜ?』

 

 

 首を傾けて問うリオに、シルバーは目を細めた。

 

 

 

 

『ーーー黒い色を持つ人間は、存在しないと言われているからだ』

 

 

 

 ******

 ****

 **

 

 

 

 

 

「ーーーでは、私たちはこれで帰ります」

「シルバーさん、リオさん、ありがとうございました!カールさんも、魔石細工ありがとうございます!!」

 

「どういたしましてぇ〜」

 

 

 

 パタパタとセシリアがリオとシルバーに駆け寄る。


「リオさん、シルバーさん、またアルジェンテに遊びに来てもいいですか?」


 その言葉に、ちらっとシルバーの方を見たリオは綺麗に微笑む。


「ええ、勿論。楽しみに待ってます」

「やったぁ!あ、その時はまたいろいろお手伝いさせてください!!」

「それはありがたいですね」


 リオは先ほどまで感じていた不安をかき消すように、セシリアの頭を撫でた。

 

 


 ーーー『存在しないと言われていた人間がいて、お前を狙う奴がいないとも限らない。だから、死ぬ気で隠せ』

 

 

 


 

 ………大丈夫。

 

 カールは、シルバーの知り合いなんだ。

 そこまで不味いことにはならないはずだ。

 リオはカールに貰った魔石細工をちら、と見る。



 黒猫が、尾を揺らしたような気がした。

 

 

 

 

 

 


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