その猫は同じ色をしていた
「カール、カール」
「なあに〜?」
「よければ他にも魔石細工のこと教えてくれませんか?」
「あはっ、いいよぉ」
にっこりと承諾してくれたカールに、リオは瞳を輝かせる。
「なんなら、実演してあげる〜」
「カール、魔石細工作れるんですか!?」
「うん〜。僕、これでも一応魔石細工職人だからぁ〜」
そう言うと、カールはがさごそとローブの中をまさぐり小さな石を取り出した。
真っ白で、綺麗な石だった。
「まず、これが魔石細工に使う石ねぇ。白爛石って言うんだけどぉ…」
カールが話している途中で、突如石はその形を崩した。
こねるようにして手を動かすと、それに合わせてぐにゃりぐにゃりと変形する。
「リオちゃんの言った通り、魔力を注ぐと〜柔らかい粘土みたいになるんだあ〜。ちなみに、溶けると透明になるんだよぉ〜」
カールの言った通り、それは無色透明になっていた。
カールは素早く手を動かす。
「でぇ、そのまま放置しとくと、だんだん固まっていってぇ、一度完全に固まると基本的にまた溶かすことはできない。だから、常に少しずつ魔力を注ぎながら柔らかい状態を維持して、やるんだよぉ」
カールの手の中で、魔石は次々と形を変えていき、途中から色も着き始めた。
リオは首を捻る。
「カール、色はどうやって着けてるんです?」
「んー?それは、魔力の色だよぉ。属性に色があるのは、知ってるよねぇ?だから、属性を帯びた魔力を注ぐことで、魔石に色をつけていくんだぁ。例えばぁ…」
魔石の一部が、青くなった。
「水属性なら、青〜。火は赤、雷は黄色、風は緑、土は茶色っぽい橙色。これが基本だねぇ〜」
後は、それらをうまく混ぜ合わせて他の色を作るのだ、とカールは言う。
説明している間にもその手が休まることはなく、カールはまたもやローブの中から何かを取り出すと、素早くそれで魔石に切り込みを入れた。
一瞬の迷いもなく動くカールの手に、リオと、いつのまにか隣にやってきたセシリアは、つい見惚れてしまう。
「はい、出来たよ〜」
ようやく手を止めたカールは、完成した魔石細工を手の平に乗せた。
セシリアがそれを見て感嘆の声をあげる。
「うわあぁぁ!かわいい!!」
カールの手の上には、一匹の猫がいた。
ピンと立った耳に、しなやかな曲線を描いた長い尻尾は、ゆらゆらと揺れているように見える。
首に結ばれたリボンが可愛らしい。
大きなアーモンド型の瞳は爛爛と輝いていて、それでいて、何処か気品を感じさせる。
確かに、美しい魔石細工だった。
リオは言葉を失った。
この短時間でよくこれだけのものを作れたな、と思えるほど、精巧な魔石細工。
けれど、リオが何も言えずにいるのはそれだけが理由ではなかった。
リオはその猫とリボンの色に、嫌な予感がした。
「まあ、手の上だけで即興で作ったからぁ、そんなに褒められたものじゃぁないけどね〜」
すると、カールはその猫をリオの方に差し出した。
「はい。これは、リオちゃんにプレゼントぉ〜」
「…え…?」
そのまま、リオの手に渡された猫。
リオは恐る恐る、視線を手の上に落とす。
鼻の先から尻尾の先端まで、全身が真っ黒な黒猫。
黒い体は艶やかな輝きを放っていて、首には真っ青なリボンをつけている。
「ど?君をモチーフにしてみたんだぁ〜」
その言葉に、リオはサァーっと全身から血の気が引くのを感じた。
「な、んで…」
「カールさん、凄いですね!」
「ありがとぉ、セシリアちゃん。そうだ、セシリアちゃんにも作ってあげるぅ〜」
リオは顔色を悪くしたまま、セシリアの前で魔石細工を作り始めたカールを見つめる。
どうして、この色を。
リオはそっと髪を縛っているリボンに触れる。
……大丈夫だ、リボンは取れてない…ということは、今、私の髪と瞳は茶色のはず。
けれど、確かにこの黒猫を差し出して、リオをモチーフにしたと言ったのだ。
ーーーーカールは、私の本当の髪と瞳の色に気づいてる。
どうやって知ったのかは分からない。
だがそれだけは明白な事実であり、リオは静かに彼を警戒する。
リオはまるで得体の知れないものを目にした時のように、微かな恐怖と不気味さをカールに感じていた。
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ーーーそれは、リオがシルバーと出会って間もない頃のこと。
『シルバー、これ、何?』
突然手渡された青いリボンにリオは首を傾けた。
覚えたばかりの言葉を使って、シルバーに問う。
『それは魔道具だ。それで髪を縛れば、てめえの髪と瞳の色を変えられる』
そう言って、シルバーは手際よく青いリボンでリオの髪を一つに束ねた。
恐る恐るリオが鏡を覗き込むと、黒だったはずの髪と瞳が暗い茶色に変わっていた。
『変える、なぜ?』
『てめえのためだ』
シルバーは、真剣な表情でリオに言った。
『いいか、絶対に人前でそのリボンを外すんじゃねえぞ。それから、髪と目が黒いことは誰にも言うな』
『…』
『絶対に、バレないように、徹底しろ』
『……なぜ?』
首を傾けて問うリオに、シルバーは目を細めた。
『ーーー黒い色を持つ人間は、存在しないと言われているからだ』
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「ーーーでは、私たちはこれで帰ります」
「シルバーさん、リオさん、ありがとうございました!カールさんも、魔石細工ありがとうございます!!」
「どういたしましてぇ〜」
パタパタとセシリアがリオとシルバーに駆け寄る。
「リオさん、シルバーさん、またアルジェンテに遊びに来てもいいですか?」
その言葉に、ちらっとシルバーの方を見たリオは綺麗に微笑む。
「ええ、勿論。楽しみに待ってます」
「やったぁ!あ、その時はまたいろいろお手伝いさせてください!!」
「それはありがたいですね」
リオは先ほどまで感じていた不安をかき消すように、セシリアの頭を撫でた。
ーーー『存在しないと言われていた人間がいて、お前を狙う奴がいないとも限らない。だから、死ぬ気で隠せ』
………大丈夫。
カールは、シルバーの知り合いなんだ。
そこまで不味いことにはならないはずだ。
リオはカールに貰った魔石細工をちら、と見る。
黒猫が、尾を揺らしたような気がした。




