#9 沸騰してしまうほどにハートビート
すごく遅れたような気がするが投稿しました。
あけましておめでとうございます。今年は投稿頻度が改善されるといいなぁ~(願望)
「攻略者......」
知らない単語がエヴァンスの口から飛び出してきた。含みを込めたような確認でもするかのような口調がやたらとシリアスさを醸し出していた。
「そのつぶやきと顔から見るにゼディアもファレナさんも知っていないようだね。」
エヴァンスはネマと目線を合わせて何かを伝えている。
するとネマはこくりと頷いてお店のドアを閉めて、ドアのOPENをCLOSEDに変えてしまう。
空気が少し一変するのを感じる。
カウンターからエヴァンスが軽い調子で言ってきた。
「知らないのならそれでいい。僕たちも知ってほしくないことだから......」
「教えてください。この都市で何が起きたのかを知りたいのです。私たちはこの都市で何をすればいいのかが分からないから。」
ファレナがエヴァンスの飄々とした仮面を剥がすかのように食らいついていく。
「俺もファレナと同じ気持ちだ。正直、この都市で俺たちはどう生きればいいか迷っている。今だってそうだ。今日を生きるためのクエストを冒険者ギルドで受けて明日も明後日もその日暮らしを続けるのかという疑問がある。」
そんな生活だけでは希望が無くなる。
「落ち着け、二人とも。熱くなるのも分かる。知らないことだらけなのも分かっているよ。」
エヴァンスに諭されて少し頭が冷えた。
横目に見たファレナも少し身を引いてカウンター席に落ち着いて座りなおしていた。
「攻略者という存在はこのリステラという都市に2か月ほど前に召喚された存在のことだ。そして、それが僕とネマのことでもある。僕たちはついこないだまでは攻略者という立ち位置で戦っていた。」
エヴァンスは重要なことをさっと言ってしまう。
「でも、負けちゃった。」
ネマがエヴァンスの言葉に乗っかって発する。
「そう僕たちは負けたんだ。君たちも知っているだろう。ボスラッシュという場所を。あの扉の先の魔王に勝てなかったんだよ。」
知っているボスラッシュという場所も、あの張り紙はつまり攻略者たちのものだったというのだろうか。いやそうとしか考えられない。
「そうして敗北した僕らはこのリステラという都市でただの日常を過ごしているんだ。攻略者のみんなはこの都市で思い思いのことをしている。君たちが探そうと思えば、簡単に見つけれると思うよ。」
「何せ彼ら、個性が爆発しているような人たちばかりだからね。オーラがちがうよ。ははっ。」
懐かしむような目でエヴァンスは語り、窓から風が吹いて彼の金髪を少し攫う。
その風を操っているのはネマだった。
「おいおい、ネマ君。人の髪で遊ばないの。」
「ぼさぼさ金髪。」
「君がやったんだろう。」
シリアスだった雰囲気がふわりとした風と共に散る。
「はぁ......ということだ。攻略者という存在はボスラッシュという場所を攻略するために集まり協力し合い、元の世界に帰ることが出来なかった者たちのことを指す。
そして今の君たちもそうであると言える。」
エヴァンスの言葉が俺の胸に突き刺さる。深く深くなんども響いて、目の前がドップラー効果のようになっている。
「元の世界に帰る......?」
「なんで不思議そうにしているだ、ゼディア。君たちはここに召喚されてきたんだろう?元の世界に帰えるのが目標じゃないのかい?」
エヴァンスの単純な疑問がゼディアの心の鏡に罅を入れて割りきる。
その瞬間、ゼディアの頭の中に何かの映像が流れ込んでくる。
ざざっ......
2世代前のテレビが映るかのような砂嵐が通り過ぎて、映像が映る。
鮮明でもなく、色もないような映像。
その映像には何者かの戦いが激しく映し出されていた。
数瞬の攻防の中でその映像の男は爪痕を描いて映像が終わる。
たったそれだけの映像だった。
それなのにその映像が焼き付いた。
まるで実際に俺自身が戦ったみたいに鮮明に色がついて夢想した。
あの時の感情が沸々と今の俺に干渉する。
「俺は元の世界に帰りたいんだ!」
急に立ち上がって全てを振り払うように大声を出した。
その突如とした行動が他の第三者からしてみれば異常者にも見えるだろう。
しかしながら、彼という存在を少しの時間でも知っている者は――――――
――――抱きとめる。
黒髪ツインテ―ルの彼女がふわりとセカンドウインドを促した。
気付け薬が大きすぎるだろう?
うるっとした赤の宝石が俺を直視する。
彼岸の反対に戻った俺が現実をみる。
「すまん。ちょっと取り乱した。」
簡素な謝罪だが、それだけでこの場は収まらない。
収めてくれなかったのはエヴァンスとネマだった。
「ふ~ふ~。アッツ!このコーヒーアッツ!」
エヴァンスはなにやらいつの間にか淹れていたコーヒーで火傷したふりをし......
「風が涼しいのです。」
ネマはわざとらしく窓際で自分に風を当てている。
「えっと、ファレナ......さん?もう大丈夫だから、腕をどけてくれると助かるんだけども。」
漸くファレナは俺を抱きとめていた腕を下ろして、正面に向き直ってこういった。
「ごめん......なさい。ゼディア様が悲しそうにしていたから......」
しんみりとした顔のファレナ。
こういう時、何て返せばいいんだ?
「大丈夫だよ。大丈夫だからさ、笑顔でいてよ。ファレナには笑顔の方が似合っているから。」
ちょっとキザすぎて、自分で言っていても反吐が出るような返し。
「ぶふぉぅ!」
エヴァンスが持っていたコーヒーを吹いて笑う。
「反則じゃないかなw?今のは......」
その言動がこのしっとりとし過ぎた空気を発散させた。
そんなこんなあってみんな落ち着いたころに、エヴァンスが色々教えてくれることになった。
「クエストに行く前にゼディア君は装備が欲しいんだよね?それならガントレルの店に行くといい。あいつの目利きはかなり良くてね。強面だけどしっかりとした人だから信用してくれていいと思う。たぶん。」
「何故に最後に信用できなそうな、たぶんを入れた?」
「まぁ少し僕も怖いところがあったってことさ。」
そういって、エヴァンスはさぁいったいったと促し。
お代は今日のところはいいよと言って、俺たちは店から出ることになった。
エヴァ―ライトから出た空を二人で見上げて、今日の青空と陽光が何かを祝福するかのように俺たちを照らしていた。




