Side立花九朗 EP1 路地裏の敗走
「俺は落ちこぼれなどではない......」
悲観に満ちながらも自信にあふれたような微笑を浮かべ、路地裏の壁で自嘲が零れる。
この手に握られたリアはたったの240リア。これでは満足に今日の寝床にも就けやしなければ、満足に腹を満たすことも出来ないだろう。
くそ落ちぶれた俺の腰には双剣がずっしりとした重さを伝えてくる。
雨の滴る夜の風。
寒さが肌に伝わり、衣服の破れに気づく。
「くそ、あのゴブリンどもの仕業か......直せやしねぇよな。贅沢も今日の寝床もねぇ。明日は生きていけるか?」
その声を誰かが静かに聞いていた。
人がほとんど通りはしないような路地裏で人影近づいてくる。
「よぉ?底辺冒険者......散々探してようやく見つけたぜ。」
そいつの顔に見覚えがあった。
そしてその背後からぞろぞろと現れてきたやつらには見覚えなど無かった。
「取り立てだ。きちんと全額揃えているよな。ないなら命は無いものと思えよ?」
その言葉を聞いてハッとする。
俺が珍しく震えている。
歯ぎしりが止まらずに足の震えも止まらない。
オマケにあいつらのニタニタした笑顔に恐れを抱いている。
何てざまだ。これが俺だというのか?
奴らが近づいて、俺の首を掴んでは金を貪る。
「......なんだお前。期限は2か月もあって240リアしか持ってねぇのか。とんだごみ野郎だな。だが、お前のくそみてぇに整った面とそのくそでけぇ背なら利用価値がこっちにもある。」
そう言って顔に傷のあるハゲが俺の首に何かをはめる瞬間。
俺はハゲの玉を蹴り上げて、一気に路地裏を駆け抜ける。
「油断したな......くそハゲ!」
捨て台詞は俺には珍しい暴言だった。
リーダー格と思わしき取り立てのやつらもテンションが上がったのか逃走する俺とチェイスがしたいらしい。
寒い路地裏を颯爽と駆ける俺と対照的に荒々しく無造作に走る取り立て屋達。
「この高揚感と自信が漲る感覚。――――戻ってきた感じがするな。」
腰に掛けていた重りを構えて一気に反転。
追走中の取り立て屋はその速度を殺せずに突っ込んでくるところを一気に舞うようにして意識を刈り取っていく。
「安心しろ、峰打ちだ。残ったお前たちがまだ俺に襲い掛かるというのならば、この双剣でお相手しようか?」
そんな俺の威圧が効いたのか、聴いていないのかさらに激高して取り立て屋は突撃を敢行する。
「死に晒せぇやくそがきが!!!」
一人目のこん棒をステップの要領で避けて背後から峰打ち。
さらに剣で切りかかってくる二人目の溝内を的確に狙って蹴る。
ドスンと二人目の背骨が心配なほどに重い音を上げ、呻いている。
最後の一人はクロスボウか?
既に射出された麻痺毒の塗られた矢が俺の眼前で一刀両断される。
そして―――――
「畏怖の魔剣サルバート」
威圧的で低い少女の声が路地裏で響いた。
真っ赤に燃えた瞳が最後の取り立て屋のクロスボウ事切り裂いて、取り立て屋は大剣のようなものにフードを吊るされて宙に浮いている。
今しがた落とされて気絶する取り立て屋。
これで全員気絶ということになる。
「どうして助けた......君は確か......」
「黙って。それ以上は言わない約束でしょ。お互いに良いことはないわよ。」
直ぐにその口を閉ざせと言わんばかりの威圧で示す少女。
「早く路地裏を出なさい。それからこれ。」
彼女が放り投げてきた袋を受け止める。
その中には幾ばくかのリアが入っていた。
「そろそろ逃走ごっこは止めにして、仕事をしたら?」
「いやだね!」
自信満々に声を大にして伝える。
「俺はまだ舞える。俺はまだやれるんだ。その時を待っている。」
彼女の真っ赤で燃えるような瞳が俺を焼くかのように目で訴える。
「なら、次に私と会う時があなたの終わりだと思いなさい。」
大剣を仕舞い路地裏に消える少女。
俺はうっすらと震えている両手を握り、今晩の宿を探した。




