#5.5 悲劇のヒロインだなんて誰も知らない
力尽きてしまった彼の下へと走って向かう。
彼には聞こえていないかもしれないけど、それでもこの言葉は彼に届けたい。
「......ありがとう、最後まで戦い抜いてくれて―――――
――――かっこよかったです!ゼディア!」
伝わったかどうかはわかりません。いいえ、伝わっているはずです。
私が信じているゼディア様ならかならず届いている。
気持ちを切り替えて、オストルさんに話しかける。
「オストルさん。ゼディア様の実力はいかがでしたか?」
少し強く言ってしまったかもしれません。しかしオストルさんはため息を吐いてから、強くうなずいてくださいました。
「......ったく、合格だ。Cランク冒険者の俺のHPを20も削りやがって。とんだ逸材だぜ?こいつはよぉ!」
豪快に笑ってからオストルさんは私の腕で眠るゼディア様を担いで行ってしまいました。
「お嬢さん、ファレナと言ったな。ついてきな。これからお前さんたちが生活する宿に連れていく。」
そういってオストルさんの後をついていった先には、春風亭という8区の宿に着きました。
「よぉ!フトシ!ちょっくら面倒見て欲しい奴らが二人来た!いつも暇そうにしているからちょうどいいと思って客を俺が連れてきてやったぞ!」
オストルさんが大声でそう言うと、春風亭の宿主が奥から出てきました。
「おいおい!もう昼も暮れるってのに相変わらず騒がしい奴だな。オストル。それでその子たち二人がお客さんだって?って、もしかして......」
フトシと呼ばれた黒髪の宿主さんが私とゼディアさんを見て何かを察しています。
「そのまさかさ、2か月ぶりに攻略者が現れた。それがこいつってわけだ。身なりから見てもリステラの住人とはとてもじゃない思えねぇからな。つーわけで、面倒見てやってくれ。それじゃ、俺はこれで。」
そういうとオストルさんはフトシさんに硬貨の入った袋を渡して立ち去ってしまいました。
「はぁ~あいつ不器用だよな。あんな成しておいて優しさの権化とか、仏さんも爆笑中だろうよ。」
「あの......ファレナと言います。こっちで休んでいるのはゼディア様と言います。これからお世話になりますね?」
「おっと、自己紹介ありがとうね。俺はこの春風亭の宿主。大和田太だ。これからよろしくな。それともう一人うちの娘いるんだが......」
宿屋の奥の方からたったったと小刻みに足音が聞こえてくる。
小柄な少女が寝間着姿で元気に私の下へとやってきた。
「大和田ハルカです!よろしく、ファレナお姉ちゃん!」
「はい、よろしくお願いします。ハルカちゃん。」
かわいらしい娘さんがいらっしゃる宿屋さんなのですね。ハルカちゃんのふんわりした金髪とふっくらしたほっぺに癒されてしまいました。これは将来美少女に成長しそうですね。
ふふっといつも通りの微笑を1つして、二人とも違う部屋に通される。
ゼディア様の方はフトシさんが担いでお部屋まで休ませてもらいました。
私の方はというとハルカちゃんにお部屋まで案内されて宿の夕飯が出来るまでの間お休みするようにと言われてしまいました。
小さな歳ながらも気づかいも出来る、流石宿屋の娘さんですね。
春風亭のお部屋は奇麗に清掃が行き届いていて寝具もしっかりしていてお日様のいい匂いがします。これだけで眠れてしまいそうですが、ゼディア様の様子が気になります。
私は自室を出て向かい側のお部屋にいるゼディア様のお部屋に突撃します。
どーんとではなく、ゼディア様を起こさないように静かにお部屋に入ります。
ベットに寝かされている彼の表情は安らかで、心配していることは何一つなく私の心は一つ安堵しました。
ゼディア様とオストルさんの戦いを見ていた時、私はゼディア様がきっと実力がなくとも何かしてくれるような人だと心の底から信じていました。だからこそ、最後の最後まで踏ん張ってくれた時、私の胸はすこしチクリとなってしまいました。
今はまだこの茨の棘を仕舞っておきたい。
それはきっと彼の邪魔をしてしまう。
彼と私は仲間であり同時にこの世界から帰還するためだけの利害関係のはずなんです。
そこに私の思いまで介在させたくはありません。
彼の寝顔をふと見ると、彼の髪色は黒色。私の国では黒髪は大変珍しく悪魔の子なんて呼ばれ方をします。ですがそれはいい意味なのです。なぜだがは忘れてしまいましたけど。
こんなに頑張った彼のために私も何か彼のために手助けになることがあればと思案します。けれどこの胸には一つの過ちがあるのです。
「ごめんなさい。ゼディア様。ごめんなさい。」
私の手に血が滲む。私の爪がぎゅと握りしめた手の中で深々と刺さる。
ああ今は、その時が来ないことを祈るばかりで、止めることのできない私を許してほしいだなんていわないから。
どうか、神様。ゼディア様を私の代わりに救ってあげて欲しいのです。
運命の呪縛にとらわれた悪魔から逃げ出してほしいのです。
どうか、私に騙されないで。どうか、どうか―――――――
夕暮れ時の窓際に赤い瞳が怪しく輝く。
知らない世界の知らない都市で、囚われた悪魔少女。
今はただ耐え続けることしかできないでいた。
2話投稿です!8/31に2話投稿。
ストーリーについてのあれこれは何も言いません!小ネタとかちょっとした設定はいっぱい公開したいと思います。




