#2 与えられた選択肢、開かれた扉は二つ
「どうでしたか?」
エルスの画面を見たまま硬直していた俺を現実に戻すように、ファレナが声をかけてくる。
「ああ、どうやら俺の名前は神鶴ゼディアというらしい。だが、それ以外のことは思い出せなかったよ。すまない。」
「いえいえ、お名前を思い出せただけで良いではないですか。それに神の鶴という縁起の良い名字に、ゼディアという良い響きのお名前をお持ちになっている。これでようやくゼディア様と私のお互いの名前が確かめられましたね。」
にっこりとファレナが笑う。
確かに少し時間はかかってしまったが、お互いの名前が分かったことでさらにコミュニケーションが取りやすくなる。呼び方があなたでは少しそっけないしな。
「ともかく俺の名前がゼディアと分かったわけだしこの空間から出る方法を探さないか、ファレナ。」
「でしたら、先に調べておきましたよ。」
そう言ってファレナはこの空間にある4つの扉のことを教えてくれた。
まず中心の神の像から北側の扉は決して入るなという張り紙が貼られていて、
その紙をめくるとボスラッシュへの扉と書かれていたらしい。
入るなという張り紙が貼られた理由はは誰かがこの扉の中に入って危険な目にあったのかもしれないな。
でもボスラッシュなんてゲームのエンドコンテンツでしか聞いたことがないような、この空間はゲームの中なのか?
そして神の像から東側西側南側は全て外の都市。リステラという場所につながっているらしい。東側は居住区、西側は生産区、南側は商業区に移動できるとのこと。
なるほど、この空間は外の空間は何かのロビー的な空間だということが分かった。
それに都市が外にあるということは、人がいるということ。つまりこの扉に張り紙をした人物がいる可能性。だが、その張り紙がいつのものかわからないため、ここに来た人物が既に亡くなってこの空間を知るものがいないこともあり得る。
となると、北側のボスラッシュに挑むのは無し。まずは情報を得るために人通りが多そうな商業区に行くことが優先かもな。
本当にそうか?と心の中で俺が叫んだ気がした。
俺は北側の扉を何故か睨みつけていた。
分けもない行動にファレナが恐る恐る尋ねるように大丈夫でしょうかと聞いてきてくれた。
「いや、何でもないよ。」
俺は頭を横に振って先ほどの行動をまるでなかったかのように記憶から消した。
「それじゃあ、ファレナ。ファレナの言ってくれた情報からこの空間から出て、商業区に行くのが現実的だと思うんだけどどうかな?」
「そうですね。商業区に行けば人はいると思いますし、そこで何か情報が得られるかもしれませんね。でしたら、商業区へ行くのに賛成です!ですが......」
そういってファレナは商業区へ行こうと言ってくれたが、何かあるようだった。
「リスクを取って先人の言いつけを破るというのも、ありではないでしょうか?」
俺はその提案に何故か心が惹かれた。それと同時にどこかで焦燥感に駆られていた。
どうして?なぜ、あり得ないとかよくわからない感情が綯交ぜになって俺の心を泳ぎ出す。
一度落ち着くように一呼吸おいてから話し出す。
「......だけど危険だ!ファレナはどうして危険な道を選ぼうとしているんだ?」
「何故でしょうか。ゼディア様とならもしかしたら危険な道でも行けるような気がしてしまって。」
困ったように笑った彼女の眼には、俺が映っていた。
彼女の眼は俺をまっすぐにとらえていて、本当にそう思っているようだった。
「ファレナの俺に対する信頼の高さを知ったよ。それでも、その道は危険な道だ。行くとしても最後の選択になるだろう。最期の本当にどうしようもなくなった時、俺はファレナと一緒にボスラッシュへ行く。」
「お熱い決意をありがとうございます。私もその選択を取ることになったら、ぜひ全力でゼディア様の信頼にこたえさせていただきますわ!」
ファレナは何か納得したかのように頷いた。
そして俺たちは外側の都市リステラの商業区への扉へ向かう。
その扉は立派な扉だったが鍵などはなく、俺が押さなくても自動的に開いた。
「凄いなこれも魔法なのか?」
疑問に思った俺はファレナに尋ねる。
「そうですね。でも、この空間の扉に魔導具が使われているというのは少しおかしいような気がします。やはり高難易度のダンジョンのような場所だったと思うのですが、う~んまだ情報が余りにもないのでそうだとは言い切れないです。」
今、ファレナはダンジョンって言ったか?それにこの扉が魔導具だとも言った。
あらためて見てもファンタジーすぎるなこの空間。
開いた扉の先に上へあがる階段のようなものがある。
そうして階段を上っていく俺とファレナ。
コツコツと石製の階段が小気味いい音で足音を彩る。
階段を上る最中にファレナがエルスの使い方について教えてくれた。
どうやらエルスにはインベントリのようなものがあって、いくつか物を入れられるらしい。謎の超技術かと思いきや、神様の力だとファレナは説明してくれた。
どうにもこのエルスは命の鏡と言われるのには理由があって、昔々神が人間に自身を見つめれるように与えたのだとか。そこで人間たちはステータスを発見し物事を有利に進めたのだという。
ステータスという情報を見れればそりゃあ自分の得意分野が分かるわけだから、いい職業に就けるだろうなぁ。
インベントリ以外の機能には防具を隠してステータスに反映させたり、リアという硬貨を仕舞えたり、仮想通貨エネというもので秘密の売買が出来たりなど。
おおよそスマホと同じような機能が搭載されつつしっかりファンタジー的な機能もあるという超スマホになっているエルス。いささか便利過ぎないだろうかと思った。
階段を上った先には簡素な扉があって、誰かが最近開いた形跡もないため、ここに人は来ていないようだった。
「開けるけど、何かあった時ようにすぐに逃げる準備はしといてね。」
「ふふっ。心配になる気持ちも分かりますが、そこまで危険性はないと思いますよ?何せ扉の少し先から人の魔力があるのを感じられますから。」
ファレナに笑われてしまった。人の魔力とか分かるのかファレナは、俺の心配は無駄に終わったようだ。
ファレナの情報から俺は扉を何のためらいもなく開ける。
すると、妙に小気味のいい音で扉が開かれて光が差し込んでくる。
扉の先からは水路と思われる場所を透明な水が流れていて、人の声や賑わいが反響して俺たちに届いていた。
次話7/8投稿予定




