ビビリの根性無しと言われた俺が故に異世界では最強!?~でも好きな子への告白が一番強い敵でした~
一クラスが一斉に勇者として召還された異世界転移。それに巻き込まれた主人公の少年は、世界の危機を救い平和へと導いた後も、好きな子に告白できずにいた。
この世界には『勇者システム』という法則があり、『異世界の者』というこの世界にとって完全な異端分子が本人にとって相容れないもの、つまり未知のものや苦手なことに挑むことで『加護』が得られ、通常よりも桁違いに力を発揮できたり上達が早くなったりするようになっているのだという。つまり、罪の無い善人を殺しても何とも思わないサイコパスよりも、勇気を振り絞って仲間を護るために強敵に立ち向かう臆病な者の方が、強力な加護を得て実力以上のことを成せるのである。言い換えれば、魔法を含め得た力次第では瞬時に文字通り『思い通り』にまで願いを叶えることもできるのである。
そして、少年は人一倍ビビリでありながらも戦略以外では逃げることをしなかった程に度胸もあるが故に、他のクラスメイトよりも格段に強い加護を得、最強とも言える力を持った『勇者』になれたのである。
内向的、マイナス思考、意気地無し、根暗。人々からそう嘲られようとも、恐くても嫌でも何度でも、最後には逃げる人々を背に動けない者の盾となる勇気を持つが故に、その加護の効力は絶大なものとなっていたのである。
古より伝えられていた魔王を倒し世界を救う過程で、様々な種族や属性の美少女に惚れられることも、崇拝されることすらもあったが、少年の気持ちは揺るがない。今日までただ一途に、クラスメイトの少女たった一人に、想いを寄せているのだった。
彼女は最初から、内気な自分を否定しなかった。落ち込んだ時には励ましてくれた。自分が護っていた人々を共に護り、後には一緒になって介抱もしてくれた。お互い疲弊している中、嫌な顔一つせず、むしろ笑って、元気付けてくれた。
だから、自分は彼女のことが好きなのである。
だから、どんな脅威よりも彼女への告白が恐いし、それでもその恐怖に打ち勝つための勇気を持てたのである。
そして――――――少年は、覚悟を決めた。
ついに今日。決行の日である。
いつも出会い頭から取り巻いてくる美少女達の目を盗み、自称世話を焼くにしてはストーカー紛いな美女達の追跡を撒き切り、なんとかその少女と二人きりになり、告白の機会を掴み取った。この場には人避けの魔法や防音の魔法、気配を遮断する魔法などを施したので、しばらくは邪魔が入らないだろう。あとは、自分次第である。
おそらく、今生で最大規模の勇気が必要になる。しかし、告白しなければ現状は変わらないのである。最悪、もたついている内に他の誰かに先を越されるかもしれない。そうなるくらいならば、チャンスがある内に挑んでおきたかった。
それに、結果はどうであれ、次の行動に進むにはまずその結果がわからなければ戦略を練ることもできない。もし今告白してダメでも、次に、彼女が望むように変わった自分でまた挑めば良い。もしくは、自分なりに自分を高めて見てもらえば、向こうが心変わりするかもしれない。
ともあれ、まずは今の自分で勝負である。
「あ、あの……っ」
少年の声が震える。目が泳ぎ身体までもが小刻みに震えている気もするが、気力で押さえて勇気を振り絞る。
目の前の少女は手持ち無沙汰に、控えめに頷いて言葉を待っている。
あまり時間を掛けても、空気が変になるだろう。それで余計に怖じ気付いて動けなくなる前に、早く続きを。そう自分を急かし、少年は続けた。
「ま、前から、好きでした……! 俺でよければ、付き合ってください!!」
少女の目をしっかりとまっすぐに見て、少年ははっきりと言い切った。震えを押さえるために強張らせた身体が、今度は緊張で硬直する。
少女は少し間を置いて、ようやく自分が言われたことを理解すると、一瞬にして顔を真っ赤にしながら目を見開いた。
しかし、はっとした様子で青ざめたのはすぐのことだった。
再び頬にわずかな紅潮を灯らせるが、開きかけた唇が閉ざされ、それを何度か繰り返す。やがて小さな声が母音をまばらに紡ぎ、少し言い淀んだかと思ったら、ぽつり。こぼすように。
「……ごめんなさい。そういう目、では、ちょっと……見れないかな……」
赤らめた顔を隠すように俯いて、最後は消え入りそうな声になりながらも、そう言われた。
フラれた。その事実だけが、目の前で起きた現実だけが、少年の脳内を占めた瞬間だった。
落胆。覚悟はしていたが、つらいものはつらい。正面切ってまともに受けるのだ。そのダメージは計り知れない。
――――こんな世界、壊れちゃえばいいのに。
つい、思わず。少年はそう願ってしまった。
あ。と思った時にはもう遅かった。
後悔するどころか、罪悪感を持つことすらもしない間に、否、できない内に、それは決定され施行された。
それは確かに、『少年の意思』によるものだった。
世界を救った勇者が世界を滅ぼす魔王になるのは一瞬だった。しかし、その直後には世界が滅んでしまうものだから、その記録が記されたような文献が残るはずもなく。
勇者も、魔王も、世界そのものすらも。まるで初めから何も無かったかのように、後には跡形も無く、虚無だけがそこに残ったのだった。