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7『桜木麗』

 意図せずに。

 そう言うと少しだけ語弊があるかもしれない。

 実際、このような展開を望んでいたのは間違いない。

 多喜浜と星越。

 四大ヒロインの中の太陽的存在二人と交友関係を持つ所か、親密度をここまで上げることになるとは思っていなかった。

 物事があまりにも上手く進みすぎていて、正直怖いなと一歩引いてしまう。


 運が俺の方に転んで、こういうご都合主義展開が続いているわけじゃないと理解している。

 言ってしまえば、これは偶然ではなく、必然的に起こっているのだ。

 もっとも、こうなるだけの状況ってのは偶然できているのだが。


 まずは、東雲拓人という存在。

 主人公ポジションでありながら、ヒロインに全く興味を示さない謎の存在。

 彼にアタックしたヒロインたちは次々と戦意喪失している。


 そして、俺が美少女になったという点。


 これらが上手く噛み合わさった結果、彼女たちの興味が東雲から俺へ移り変わったのだろう。

 無論、恋愛感情か否か。

 そういう大きな違いは存在する。

 が、それはあくまでも心持ちの問題。

 意識レベルでは明らかに傾いている。


 つまり何が言いたいか。

 簡潔にまとめてしまうと一言でまとめることができる。


 ――この状況に怖がることはない!


 そう。

 例え、桜木麗との接点が出来たとしても怖がることない。

 これは全て必然であり、運を使い切っているわけじゃないのだ。

 だから、大丈夫、心配いらない。

 心配いらないから、目の前の桜木麗と目を合わせなければならない。


 俺は恐る恐る目を合わせ、申し訳なさそうに眉をひそめながら、ぺこりと小さく会釈した。


◇◇◇


 なぜこんなことになったのか。

 流れは簡単だ。

 多喜浜と星越に紹介された。


 「睦月さんと馬が合いそうな人紹介してあげるわ!」

 「え、ちょっ、七海! ずるい。私が最初にやろうと思ってたのに」


 そんなしょうもない言い争いをしながらも、桜木麗を紹介してくれた。

 で、ニコニコと微笑む二人を横に置きながら、こうやって桜木麗と対面している。


 目と目を合わせる。

 紫色の瞳がキラキラ輝く。

 アメシストを彷彿とさせるような美しさ。

 怖気付いていたのに、いざ目を合わせるとそんなのすっかり忘れて、瞳に見蕩れてしまう。


 「どうかしましたか?」


 首を傾げる。

 何か付いているのか。

 そうでも言いたげな様子で、目頭を指で撫でる。


 「あ、いや、その……」


 反応に困っていると、多喜浜が見たことないくらいの笑顔で俺の肩をそっと叩く。


 「この子は坂井睦月。わたしの友達よ」


 なんか強調された気がする。


 「麗となら仲良くなれそうかもと思ったから紹介してみた。仲良くしてあげてね」

 「なるほど。そういう事でしたか」


 桜木は納得したように頷く。


 「それではこちらも自己紹介しなければですね。私の名前は桜木麗。桜の木が麗しく。って覚えておいてください」


 桜の木とは似て似つかない黒いポニーテールが揺れる。


 「んぉお? 睦月ったら表情固いぞ〜。もっと柔らかく、ほらほら、笑顔笑顔」


 星越は指を俺の口角に当てて、クイッと無理やり上げる。


 「麗もだぞ〜。あんまり怖がらせないの。ほれっほれほれ」


 俺にやったように、桜木にも指を当て、口角を無理やりあげる。


 「やめてください。私は元々こういう顔なんです」

 「口調くらい柔らかくしたらどうだ〜。それじゃあ怖いよ」

 「七海が柔らかすぎるんですよ。天衣無縫も良いところです」

 「いや〜、どうもどうも。そう褒めてくれると嬉しくなっちゃうね」

 「今のは褒めてないですよ」


 桜木はじとーっとした目線を星越に送る。

 星越は全く気にしない様子でケロッと笑う。

 俺が今まで見てきた光景だ。

 その輪の中に自分も入っている。

 不思議な感覚。


 「おっ、拓人だ!」

 「え、七海!? 待って」


 教室に入ってきた東雲の方へ多喜浜と星越は向かってしまう。

 多喜浜の机の周りに取り残された俺と桜木。

 困惑気味に彼女を見つめると、彼女は苦笑する。


 「あの二人は本当に自由人ですから。甘やかしたらダメですよ」

 「痛いほど味わいました……」


 片や自宅に連れ込まれ、片や出会って一日で映画館デートへと連れて行かれた。

 あれを自由人と呼ばずしてなんと呼ぶか。

 俺も思わず苦笑してしまう。

 少しだけ和やかで柔らかい雰囲気が流れる。

 もしかして、あの二人はこうなることを計算していたのだろうか。

 いや、そんなわけないか。


 にしても綺麗な瞳だ。

 良く見るとラメ入りのアイシャドウが瞼に塗られている。

 色自体控えめだったので、目を凝らさないと気付かないほどではあるが、そのラメが宝石っぽさをさらに引き立てているのだと簡単に理解できた。

 ガッツリメイクはあまり好きじゃない。

 ってか、ケバい人が好きな男ってそう多くないと思う。

 希少種だ。


 「どうかしましたか?」


 また首を傾げる。

 揺れるポニーテール。

 髪の毛もかなり艶やかで綺麗なんだよな。

 相当なケアをしているのだと、普段何もしない俺でさえ分かる。


 「綺麗だなって思って」

 「ありがとうございます」


 言われ慣れているのか、動揺する様子も恥ずかしがる様子も見せない。

 淡々と言葉を受けとり、礼をする。

 対応としては百点満点だ。


 「私普段メイクとかケアとかしていないというかしたことな無いからやり方も分からないんですけど。だからこそ、桜木さんすごいなぁって思って見てました」


 マジマジと見つめていたことに少し罪悪感を抱き、包み隠さず思っていたことを口にする。

 異性とか同性とか関係なく、人にマジマジと顔を見られるのは良い気持ちにはならないだろう。


 「メイクは仕方ないですよ。教えてもらう機会もないですから。社会人のマナーとか教えるくらいならメイクの仕方も教えて欲しいものですよね」


 桜木はまたもや苦笑する。

 というか、メイクって学校で教えて貰えないんだな。

 男で言うところのワックスとかそういう扱いなのかな。

 てっきり、身だしなみの一環として教えてもらうものだと思っていた。

 メイクをしている女性の皆様は基本的に独学ってことなのだろうか。

 今ならインターネットで検索しながら出来るだろうけど。

 どちらにせよ、負担は大きいはずだ。


 「でも、ケアはしなきゃダメですよ。肌も髪も爪も。ボロボロになるのは一瞬ですから。治すのにはものすごい時間とお金がかかりますけど」


 なんか注意されてしまっまた。

 もっともな指摘なのでコクリと頷く他ない。

 メンズケアすらめんどくさいっていう理由だけで怠ってきた。

 女性のケアなんてやるはずがない。


 「……そうですね。こうやってお話するようになったのも何かの縁です」


 桜木は妙案を思いついたというような表情を浮かべながら、ポンっと軽く手を叩く。


 「今度暇な時、私の家で練習しましょうか」

 「へ? 練習ですか……?」


 首を傾げる。


 「メイクとケア。両方です。後者は練習というかオススメのケア商品教えるって感じですけど」


 スキンケアなりヘアケアは大体どうにかなる。

 一円玉くらいクリーム出してその部位に塗ればだいたいどうにかなる。

 ただ、メイクは独学じゃちょっと厳しい。

 そもそもメイク用品すらまともに分からない。

 精々、口紅とアイシャドウと後はつけまつ毛くらいだろうか。

 その程度の知識の人間がメイクなんてしたらとんでもない事になる。

 星越とデートした朝、メイクし始めなくて良かった。


 「お願いしても良いですか?」

 「もちろん。それじゃあ予定合わせましょうか。いつ頃暇ですか?」


 こうして俺たちは予定を合わせ、メイク講座を行うことになった。

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