11『TSは長くは続かない』
目が覚める。
あの四大ヒロインと結果的に仲良くなることができた。
あと俺がすることは……東雲とくっつけることだけ。
近いような遠いような。
でも、確実に距離は縮まっている。
「あれ……」
なんだか下半身がムズムズする。
懐かしい感覚だ。
胸も重くないし、頭も軽い。
恐る恐るスマホを掴み、画面に反射する自分の顔を見る。
そこに写っているのは美少女ではなく、散々見なれた醜い顔の男性の姿であった。
「は!? え、は?」
今までのはなんだったのか。
夢だったのか? そういうことだったのか?
俺は慌てながら、スマホのギャラリーを漁る。
そこにはしっかりと、女性化している俺の写真がある。
うわー、可愛いなぁ……じゃなくて、なんでだよ。
どうして戻ってるんだよ。
◇◇◇
「戻っちまったんだけど」
梓の元へ向かうなり、迷うことなく言葉を投げる。
試験管を目元に持ってきていた彼女は、俺の方へ視線を向けるとニヤッと笑う。
「そりゃ戻るよ。一時的に性別を変えるだけだからね」
「もう一回あの薬くれよ。良いところだったのに……」
少なくとも彼女らと仲良くなることはできていた。
傍観しているだけだったあの時に比べれば状況そのものは大きく変わっていたはずだ。
「ダメ」
彼女は短い言葉で拒否をする。
「そこをなんとか。このままだと逆戻りなんだよ」
今まで積上げてきたものが全て崩れてしまう。
坂井睦月という女性だったから今まで物事が上手く運べていたわけであって、坂井睦月という男性は需要がない。
だから、必死に頭を下げる。
なんなら土下座をしたって良いと思っている。
それほどにあの薬に縋りたい。
プライドなんか地面に叩きつけたって良い。
「一日、二日で元に戻ったわけじゃないでしょ」
「え、うん」
「時間はたっぷりあった。それでやりきれなかったのは誰?」
「お、おれ……」
「でしょ。はい、話は終わり」
チャンスはあげた。
でも、お前はそれを有効に活用しなかった。
二度もチャンスがあるとは思うな。
そういうことなのだろうか。
「そこをなんとか」
今の俺に出来ることはただお願いすることだけである。
鬱陶しいと思われるだろう。
それでも良い。
あの薬がないと全てが水の泡になるのだ。
「体の器官を無理矢理変化させてる自覚はある?」
「そりゃそうだ。あるに決まってるだろ」
「そんなことしてたら体に負担かかってるのも分かってるでしょ? 何回もホイホイとあげられるような薬じゃない。薬を作った人間として、使用者を守る義務がある。これ以上は危険だと判断したから、私は渡さない」
試験管に入っていた液体をビーカーに流し込む。
部屋に広がる異様な臭い。
「例え殺されようとも渡さない。分かった? 分かったなら話は終わり」
覚悟のようなものが見え隠れしている。
あぁ、本当に渡す気がないんだ。
それが嫌という程伝わってくる。
「……」
甘い甘い青い春は一ヶ月という短い期間で終わりを迎えた。
結果として、坂井睦月という女性がいたという事実だけが彼女達の間で残っている。
東雲に告白をするところか、東雲に見切りをつける手助けをしてしまったらしい。
俺はどこで道を踏み外してしまったのだろうか。
教室の端っこで、ぼんやりとスマホの画面を見つめながら、そんなことを考えていた。
◇◇◇
放課後。
また梓の元へ向かう。
ガラッと扉を開くとまたお前かみたいな目で俺の事を見てくる。
いや、口に出さないだけでそう思っているのだろう。
「なに」
「薬をくれ」
まるで薬物中毒者みたいなセリフを吐いてしまう。
「危険性については話したでしょ。あげないってば」
「気付いたんだよ」
「はぁ?」
ほら、話してみろ。
そう言いたげな様子で梓は俺の方を見つめる。
裾を掴み、恥じらいもプライドも捨てて思ったこと、感じたこと、そして今抱いていることを吐露する。
「俺は女の子になりたい! もう女の子じゃないと生きていけない。あの華々しい世界を知ってしまった。愛されるということを知ってしまった。主要キャラになるという気持ち良さを知ってしまった。もう引き返せない」
「薬は――」
「分かってる。場合によっては死ぬかもしれない。それも分かってる。分かってるんだよ。でもさ、思っちゃうんだ。女の子になれなくても結局辛くて死んじゃうかもなって。薬で死ぬか、病んで死ぬか。それだけの違いだと思うんだ」
何を叫んでいるのだろう。
「お――私に薬くれない?」
この世からは「坂井睦月」という男性は姿を消し、二度と観測したものは居ない。
代わりに明るい「坂井睦月」という女性が現れたのだとか。
――イチャイチャしてこそ真のラブコメだ
まずは今作をご覧頂きありがとうございました。
本命と本命の間の自己満作品ではありましたが、皆様のおかげで完結出来ました。
重ね重ねになりますが、ありがとうございます。
さて、こういう感じの微百合作品をもう一作執筆しました。これが公開されている頃には公開しているはずです。
タイトル
「地下世界の魔法少女と地上のプリンセス〜地下の世界で見つけた奇跡の花園〜」
あらすじ
「ある日、地上に住んでいた鮎川緋織は突然地下の世界に落っこちる。不安に包まれたヒオリは、そこで手を差し伸べてくれた魔法使いのカレンに助けられた。カレンは地下世界で魔物討伐を生業としており、彼女によって命を救われたヒオリは、彼女と共に地下世界で生活することになる。
ヒオリは、異なる世界で生きることになったこの状況を乗り越えながら、一緒に暮らしていくうちにお互いを惹きつけていくことになる。時にイチャイチャし、時に真面目な「ローファンタジー×百合」作品」
俺TUEEEE、ご都合主義、無双というなろう要素は勿論、私が主軸にしているラブコメ要素(今作のような要素)も混ぜ合わせた作品です。
お手隙の際に一度読んでいただけると嬉しく思います。
https://ncode.syosetu.com/n6773id/