第6話:事務所の人々
さてさて、再び私は裕介に連れられ弁護士事務所に来ていた。
(もう、私はあの女を排除するための対抗策をねらないといけないのに、ここにいたら……)
「ミレイちゃ~ん。げんきですか~。」
(ええ、元気ですとも。元気だから私の思考の邪魔しないでよ。)
そう、ここにいたらやたら私をかまってくる人がいて、考えに集中できないのだ。私がイライラしていると、
「チ~フ。何をしているんですか。」
と、後ろを見ると青筋を浮かべたとてもプロポーションのきれいで美人なお姉さんがいた。
(菜々美さん!ナイスタイミング!!)
この、プロポーション抜群で髪はセミロングの美人な女性は高塚菜々美。チーフと呼ばれたこの私に話しかけていたダンディーなおじ様は、この弁護士事務所の一番偉い人であるチーフ、橋本純平だ。菜々美さんはチーフである純平さんの補佐をやっている。
「い、いや、菜々美君。私はけっしてサボっていた訳ではないんだよ。ただちょっと休憩を……。」
「やりかけの仕事を途中で投げ出して何が休憩ですか?」
と、にっこりと微笑む菜々美さん。
(菜々美さん、恐いよ…。その完璧で、青筋を浮かべながらの笑顔は恐い……。)
「いやぁ、けっして投げ出したわけでは……。」
と、言いながら後ずさりを始める純平さん。顔はひきつり、冷や汗を流している。
(なんだか、純平さんがかわいそうに思えてきた……。)
「まあまあ、菜々美。チーフも反省しているようだし、今日はその辺にしてあげたら。」
と、苦笑しながら現れたのは、180センチ程の身長に無駄な筋肉の無い体。顔は整っている美形。弁護士事務所の一員であり、菜々美さんの彼氏でもある、佐々木直也だ。
「でも、直也。」
と、言おうとする菜々美さんをさえぎり、
「その辺にしとかないと、ますます仕事が遅れるぞ。」
と言う直也君。
「………。はぁ、そうね。さあ、逝きましょうかチーフ。」
と、ため息をついたあと、ズルズルと純平さんをひきずりながら去っていく菜々美さん。
(菜々美さん。行くって字がちがうよっ!?………。純平さん、ご愁傷様です……。)
「はぁ、俺の彼女ながら恐ろしいな。」
と、直也君。
(確かに、仕事に対する菜々美さんは恐ろしいわ……。)
「ははは。彼女に対してそれは無いんじゃないのか。」
「菜々美が聞いたらぼこられるわよ。」
と、笑いながら現れたのは裕介と凛さん。
(裕介ー。)
「みゃぁ~。」
と、私は裕介に近づきスリスリと顔をなすりつける。
「なんだミレイ。甘えたいのか~。」
と、私を抱きあげて抱きしめてくれる裕介。
(うん!そうなの~。)
「みゃぁぁ~。」
「そうか、そうか。甘えんぼだな、ミレイは。」
と、裕介はでれっとした表情をし、猫ばかっぷりを発揮していた。それを微笑ましそうに見ている凛さんと、呆れたように見ている直也君。
「本当にミレイちゃんは裕介の事が好きなのね~。」
と、フフフと笑う凛さん。
「裕介、そのバカみたいな表情どうにかならないのか。」
と、呆れて言う直也君。そこに、
「いや、直也。裕介のそのバカっぷりは直らないと思うぞ。むしろ直ったら春日裕介という人物を俺は気味が悪いと思うね。」
と、現れたのは平均的な身長に平均的な顔。ごくごく普通な雰囲気を漂わせた男性だ。
(ちょっと、智樹君。それはないんじゃない。)
この人は山本智樹。弁護士事務所の一員だ。
「おいおい、智樹。そんな事をいうなんてひどいよ。」
と、裕介。
「確かに言いすぎじゃないのかな智樹君。たとえそれが本当の事だとしても、黙っておくべきだと思うんだけど。」
と、現れたのはセミロングに軽くウェーブのかかった髪に大きな瞳をくりくりさせた可愛らしい女性だ。この人も弁護士事務所の一員で斉藤真紀という。
「うっ、真紀。お前が一番ひどいことを言っているんだと思うんだが……。」
と、裕介は精神的なダメージを受けたようだ。なにはともあれ、裕介を含めた7人が弁護士事務所に勤めている。
「ははは。真紀、お前相変わらず容赦ないな。」
と、直也君。
「え、えっ。あ、ご、ごめん。そんなつもりで言ったわけじゃあないんだよ。」
と、あわあわしはじめる真紀さん。
「い、いや。分っているからいいよ。」
と、裕介が精神的なダメージから立ち直ったようだ。
私はその光景を微笑ましく見守る。とても日常的だけど、あたたかい光景。平和と平和ではない光景は紙一重。それを知っている私は願う。
(どうか、この日常が壊れませんように)
と………。
(さて、美緒の対処はどうしようかな。ごちゃごちゃあって、全然考えられていないや……。………美緒。裕介の幸せ、日常を壊す者。私はお前を認めない。絶対に裕介は私が守るから。)
私は決意を胸に、美緒を裕介から引き離すための考えを展開する。猫である私にできることは少ない。どうしようか。やっぱり、他の人の手を借りるしかないのか……。
(待っていなさい、美緒。裕介の前に再び現れた事を後悔させてあげる。)
こんにちは。
今回は、そういえば祐介の名字を公開していなかったなぁ~…。と思って、ついでに事務所の人達も一緒に紹介させていただきました。
次回、ミレイちゃんはどう動くでしょう?お楽しみください。