第2話:愛しい人
(裕介………。)
私は愛しい人の声に心を震わせた。
(懐かしい声。もう、何年も聞いていない気がする。)
「さあ、あがってあがって。みかんがね、子猫を産んだのよ。見て行ってちょうだい。」
お母さんにうながされ、裕介は私のいる部屋に入ってきた。
(裕介…。会いたかった。)
部屋に入ってきた裕介は、私の記憶の中にある裕介とどこか違った。
(どうしたんだろう。この違和感…。…………裕介、もしかしてじゃないけど痩せてる…。)
間違いない。私の記憶にある裕介に比べて、今の裕介は痩せすぎているのだ。
(でも、どうして……。)
裕介はまず、私の写真が飾ってある仏壇の前に座り、線香を焚き、手を合わせ目を閉じた。
(裕介は何を思いながら手をあわせてるのかな。)
手を合わせるのをやめ、目を開けた裕介は母に促され座り、生まれたばかりの子猫である私たちをのぞきこんできた。
「可愛いですね。」
そう言い、うっすらと微笑む裕介。以前はこんな笑い方ではなかった。もっと、太陽がはじけるような明るい笑顔だった。
(裕介。どうしたの。私がいない間になにかあったの。)
「みゃぁー」
私は、裕介近づき顔をスリスリとなすりつける。
「うぉ、この子猫は人懐っこいですね。」
「そうね。裕介君の事が気に入ったようね。そうだ、裕介君。この子をもらってくれない。」
「えっ……。この子をですか。だけど今は………。」
裕介が言葉に詰まっていると、母は微笑み、
「いつまでも、あの子の……美香の事を思ってくれているのは嬉しいわ。でもね、そんなに痩せてしまった姿を見て美香は喜ぶかしら。いいえ、悲しむと思うわ。美香はね、あなたの明るい太陽のような笑顔が大好きだって私に話してくれたの。美香の事を思うなら、しっかりご飯を食べて、今はまだ無理かもしれないけれど美香の好きだった笑顔を見せてちょうだい。」
母の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「………はい。」
裕介は少し涙ぐみながら返事をした。
(裕介。私のせいだったの。そんなに痩せてしまう程私の事を思ってくれて……愛してくれていたのね。………ごめんね、裕介。ごめんね。ごめんね、裕介。先に死んじゃって本当にごめんね。)
私の心は、裕介が私を思ってくれていたという幸福感と、先に死んでしまい裕介を悲しませてしまった罪悪感で埋め尽くされていた。
(また会えて、私ばっかり喜んで馬鹿みたい。裕介も、お母さんも私が死んじゃって悲しんでくれているのに……。)
私がそんな風に落ち込んでいると、裕介が私を抱きあげた。
(な、何。裕介。)
「みゃぁー」
「お母さん。俺、この猫飼います。」
(………えっ。)
「そう。大事にしてね。」
母はそう言い微笑んだ。
「はい。」
裕介も微笑み返す。
(え、え、え、。ちょっとまって。裕介に飼われるの私。)
裕介は私を自分の目線まで抱きあげ、
「よし、お前は今日から俺の家の子だ。よろしくな。」
(え、え、え……。私、裕介と一緒に住むってこと。う、うれしいけど……。猫としてだからなあ~……。まさか、人間の頃は一緒に住んでいなかったのに猫になってから住む事になるなんて……。)
美香と裕介は結婚してから、一緒に住もうという約束をしていたので、美香は実家に、裕介はマンションに一人暮らしをしていたのである。
「そういえば裕介君。かんじんな事聞き忘れていたけど、裕介君のマンションってペットは飼えるの。」
「あ、はい。うちのマンションはペット飼育可能のマンションなんで、大丈夫ですよ。」
「そう、よかったわ。かんじんな事聞き忘れていたから、しまったなって思ったの。」
母がコロコロと笑う。
「やっぱり、ペット飼育可能のマンションに住んでいるなんて仕事が弁護士なだけあるわね。」
「いいえ、そんなことないですよ。」
和やかに母と裕介は話している。その頃私はというと、裕介の膝の上に座り、裕介に頭をなでてもらっていった。
(うーん……気持ちいいんだけど、ペット扱いだからちょっと不満…。)
「そうだ、お前の名前何にしようか。」
(名前。)
「みゃっ。」
「そう、名前。どんなんがいいのかなー。お母さんはどう思います。」
「ふふふ。さあ、それは、裕介君がしっかり決めてあげないとね。」
「うーん………。なんかいい名前ないかなー。………そうだ。ミレイってのはどうだ。いい名前だろう。」
(ミレイってその名前……。)
私は驚いた。
「ミレイね。いい名前じゃないの。」
母が同意してくる。
「でしょ。じつは、この名前は美香と子供が生まれたときにどんな名前をつけるか話した時に出た名前なんですよ。女の子だったら美怜ってつけようって。あっ、この猫、メスですよね。何も考えず言っちゃったけど…。」
「ええ、その子はメスよ。それにしても、美香とそんな話をしていたとはね…。いい名前つけてもらえたわねミレイ。」
(うん。いい名前だよ。……ありがとう…裕介。)
「みゃぁー。」
「さて、ついたぞ。ミレイ。ここが今からお前の新しい家だ。」
私は母と別れを告げ、裕介の家に来ていた。
これから始まる生活。
猫としてやっていけるのか。
さてさて、どうなるのやら……。
いろんな不安はあるけど、とにかく一歩一歩、歩き出そう。
やっと完成しました。
思ったより進みぐあいが早くて良かったです。
さてさて、この先はどう続けようか全く決まっておりません。
次の投稿はいつになるのやら……。