完売御礼大特価
「最初から知ってたの?」
セザは胡乱な表情を浮かべた。何故そんな質問をされるのかがわからないようだ。
「僕がその……まわしものだって」
「いや、単なるたかりだと」
真面目な顔で酷いことを言う。しかし反論はできない。ここ一ヶ月、ニニはセザの前に姿を現しては自分の売り込みをし、獲物を恵んでもらっていた。立派なたかりだ。
「適当に食わせていれば満足していなくなるかと思いきや、二日と空けずに現れる。一日兎一羽で満腹だと言う割に、赤熊一頭をやった翌々日には腹をすかせている。かと思えば山羊の肉は串焼き二本で十分だとのたまう」
「あー……たしかに、怪しい、ね」
持ち帰った獲物は全てザンやその取り巻き達に没収されていた。赤熊にいたっては毛皮すら取り上げられた。
「それと怪我だ」
セザはニニの足元を睥睨した。
「子どもとはいえ、転んだ程度で足を挫く獣人がいるか」
ニニは苦笑した。ごもっとだ。
横暴の全てを『仕置き』だと奴らは言った。報告の度にニニは殴られ蹴られ、役立たずと罵られた。実際は憂さ晴らしだなのだと早々にニニは気づいた。
獣王ゼノの子でもっとも小さいセザが、ある日突然台頭し獅子族の長になった。今までとるに足らないと侮っていた者に先を越された。屈辱と捉えるのも無理はないーーが、やはり自分の力でどうにかするべきだ。少なくとも蛇族の間者を使って毒殺を企むのは、誉れ高き獅子族にあるまじき姑息な手段。
「ところで、貴様は何故俺の前に現れた?」
間者だとバレた時点で暗殺失敗。ニニがセザの元に訪れる理由はなくなった。
「あー、その件なんだけどね」
ニニは頬を指でかいた。
「ザンが『無能なミミズはいらない』って」
「ついに虫と獣人の区別すらつかなくなったのか」
「頭の打ちどころが悪かったみたいだね」
ミジンコ程度の憐憫をザンに寄せた後、ニニは特大の笑顔をサービスした。
「というわけで、次にニニ君をお買い上げいただいた方の元に馳せ参じたという次第で」
「いらんと言ったはずだ」
「駄目だよ、最後まで責任をもって飼わなきゃ」
「貴様を飼った覚えはない」
「餌くれた」
「残飯処理をさせただけだ」
「よし、じゃあ残飯処理役ということで」
ニニは手を差し出した。
「いらん……っ!」
セザの尻尾が太くなった。ご機嫌を損ねたようだ。背を向けて歩き出したセザを、ニニは慌てて追いかけた。
「気にしなくていいよ、勝手についていくから。誰かに訊かれたら『セザの従者』って答えるね。セザが獲物を仕留めたら皮を剥いで内臓処理して食べやすくしてあげるね。寂しい夜は寝物語も聞かせてあげる。あ、歌も得意だから期待してね」
セザが足を早めた。
「ねー僕、今日は赤熊が食べたいなー」
「黙るか俺の朝飯になるか、選べ!」
セザは怒鳴ると駆け出した。木々の合間をすり抜け、見る間にその姿は小さく、遠くなる。
でも「ついて来るな」とは言わなかった。
ニニはにんまり笑って、セザを追うべく走り出した。