あたしの不幸はお前たちの幸福より安くなんかない。
「あたしの不幸はお前たちの幸福より安くなんかない」
それがあたしの主張だった。
所詮は言い訳に過ぎないセリフだとはわかっていたけれど、本音は変えられなかった。
女勇者として祭り上げられ、魔王を討伐したら王子との婚約を認めると言われて旅に出た。
命懸けで戦いの日々を乗り越えて、ついにあたしは魔王を倒した。
そして、王国に帰還した。
魔王を倒したあたしの帰りをみんな喜んでくれると思っていた。
王子は泣いて喜んでくれるものだと思っていた。
けれど、実際は違った。
誰もあたしを歓迎してくれなかった。
魔王から世界を解放したことを感謝さえされなかった。
あたしは帰還直後に拘束され、断罪された。
理解できなかった。
何故? どうして、こんな仕打ちをするの?
『君は本当に魔王を倒したのか? 実は君は魔王に操られているのではないか?』
断罪の理由はそんなものだった。
確かに誰もあたしが魔王を倒したところなど見ていない。
故にあたしが逆に魔王に打ち倒されて、魔王の傀儡となり王国に侵入している、と彼らは声高らかに言った。
『よって、勇者フランシスを処刑とするっ』
残酷な判決に、しかし、王子は救いの手を差しのべてはくれなかった。
それどころか、処刑の判決に拍手で賛同した。
彼があたしに向けた最後の言葉は到底受け入れられないものだった。
『君はもはや逆賊だ。だから、君との婚約は破棄にする。安らかに眠りたまえ』
頭が真っ白になるっていうのがどういう感覚なのかをあたしはその瞬間に知った。
心が張り裂けるほどの悲しみと絶望を初めて知った。
あたしの悲しみと絶望は怒りに変わった。
このままあたしは処刑されて、他の人々は何事もなく笑って生きるのか?
あたしの不幸は見殺しにして、自分達だけ幸せに生きるのか?
そう思うと、無抵抗でいることがバカらしくなった。
ーー復讐してやる。
もうこの国にあたしの居場所はない。
むしろ、この世から消し去られようとしている。
ならば、この国を滅ぼしてやろう。
あたしが味わった悲しみと絶望をお前たちにもくれてやる。
あたしの不幸はお前たちの幸福より安くなんかないのだから。