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Mis.メモリ  作者: 夏山雛汰
2/3

【2】

待合室で眠った僕は夢を見た。

それは僕が小学生から高校生になるまでのもので、僕自身の記憶を、人生を見返しているようだった。





僕の生まれた家庭は、夫婦仲があまり良くなかった。

両親は顔を合わせればいつも言い争いをしていて、その大半はどうでもいいことばかり。まだ幼い僕のことなどお構いなく、両者ヒステリックに言い争っていた。

物心ついた頃から繰り広げられていたこの舌戦は、これからもずっと続くのだろうと思っていたが、僕が中学生になった頃に終わりを迎える。

奇跡とも言えるような、言い争うことのない両親を見たあの時の僕はとても嬉しそうだった。

そこからが地獄の始まりだったというのに。


両親の様子がおかしい、そう思ったのは言い争いが無くなってすぐのことである。

まずは言葉が消えた。会話というものが家から消えたのだ。

明日は遅くなるとか買い物に行ってくるとか、そんな短いやり取りしかしない。

言い争うことこそしないが、お互いに目線を合わせず最低限の意思疎通しかしなくなったのだ。


それに加え、今まで髪がボサボサでだらしの無かった父が髪を切って小綺麗になり、近くのスーパーに買い物に出掛ける母は化粧やお洒落な格好をしていて別人のようになった。

時折、両者が互いに向ける目はまるで興味を失くしたおもちゃを見つめるような、そんな目をしていた。


何かがある、そう思った僕はまず、買い物に行く母の後をバレないように付けることにした。

いつも母は家の近くにあるスーパーに歩いて買い物に行くので、後を付けるのはそう難しいことでは無い。

いつものように信号を渡り、スーパーまでの一本道を歩いている母を見て、何も無いことに安堵した。


やがて母がスーパーに到着し、もう帰ろうかと思って、、、やめた。

母は店には入らず、駐車場に向かったのだ。


母は駐車場から一番離れた場所に停車させている車の前で立ち止まり、そして乗り込んだ。

車内には見たことのない男が座っており、母と笑顔で会話している。

最初はただの知り合いで会話を楽しんでいるだけだと思いたかった。

でも、母が男とキスをする姿を見た瞬間、最近の様子に納得した。してしまった。


両親は互いにどうでもよくなったのだ。

異性としての魅力を感じることがなくなり、ただ家族としての形を維持するだけの関係に変わってしまったのである。両者が交錯させていた目は、つまりそういうことだったのだと気が付いた。

おそらく父の変化も母と同じものだ。

つまり、お互いに何をしているか分かった上で黙認しているのだ。ただ家庭だけは壊さないように。

顔には凍りつくような仮面を付け、外観だけは家族の真似事をする。


それはまるで、ピエロのようだと思った。



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