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翌日。
本日はお役目がお休みの澄彦さんと三人で、いつも通りの朝餉の席。
私は昨日叔父さんから教えてもらった不動産屋さんが村をうろついている件について、高田くんということも含めて澄彦さんにお話をすると、予想に反してもう澄彦さんの耳には入っていた。
流石、正武家当主である。
「あぁ、その話ね。知ってる知ってる」
澄彦さんは気にもしていないようでニコリと笑い、別のところに喰いついてきた。
「でも営業マンが比和子ちゃんの知り合いだったとは、この澄彦も知らなかったよ。元カレとかなの?」
「違います。ただのクラスメイトです。高校までの」
「ふーん。でも次代の様子を見るにそれだけじゃなかっただろうに」
そう言った澄彦さんは無言で会話に入らず、湯呑みの中を睨み付ける玉彦に視線を流した。
後から面倒事になるのが嫌なので、昨晩お屋敷に帰って来てから玉彦には正直に高田くんとの関係を話しておいたのだった。
そしてこの有様である。
たかが告白をされただけでOKをしたわけではないのに、何かが玉彦の中で引っかかってしまったらしく、けれども私に当たるのは理不尽と考え悶々と不機嫌だった。
でもさ、私だってそういうの経験してる。
私という彼女がいるにも係わらずに高校の時なんか普通に告白されてたし、大学生の時だってそういうことがあったと何となくわかる。
でも私はこんなにも不機嫌になることはなかった。
だってそういう誘惑をものともせずに私を選んでくれたんだから。
だから玉彦にもそう思って欲しかったのだけど、やはり彼は私の斜め上を行く考えを持っているようだ。
「ちょっとだけ、好意を寄せてくれたことがありまして」
「あぁ、そう! それは面白、いや結構な話じゃないか! うんうん。高田くんだっけ? 今度鈴白に来たら正武家に来るように伝えなさい」
「何が結構な話だ!」
上機嫌になった澄彦さんと反比例するように不機嫌さを増した玉彦は、おかしな事を言い出した父親に喰って掛かった。
私も高田くんを呼ぶ澄彦さんの意図が見えなくて賛同できかねる。
「結構な話しじゃないか。人にも好かれない嫌われ者の嫁じゃなくて、好意を持ってもらえる嫁で良かっただろう。それに比和子ちゃんに目を付けるとは中々人を見る目がある人物と見た。正武家の離れの捌きは鰉の娘が跡を継ぐが、経営に関しての後任がまだ決まっていない。ならばその高田くんとやらが不動産関係に詳しいのならば、持って来いじゃないか」
お役目以外に無頓着な正武家の家人は、その収支や来客の捌きなど現在は松梅コンビと呼ばれている古くから正武家に仕える人物に一任していた。
彼女たちの姉妹である竹婆は本殿の巫女を務めている。
そして彼女たちの血縁に当たる香本蓮見さんは本殿の巫女の跡取りで、遠い親戚に当たる鰉那奈は離れの業務を引き継ぐべく修行している。
確かに離れの業務を那奈一人で行うには厳しいものがあり、手が回らないだろう。
だからあと一人、事務方を担う人物が必要なのは理解できるけれど、それがどうして高田くんになるのか。
正武家のお役目に関する捌きならば任せられるだろう。
けれど正武家の財産管理となれば話は別だ。
どれくらいの財産があるのか私には想像も出来ないけど、半端な額じゃないことだけは判る。
高田くんに限ってそんなことはしないと思うけど、もし横領とかされたら一大事だ。
それに彼が正武家に仕えるとなると、鈴白村に引っ越してくることになる。
最悪離れで住み込みだ。
しかもこの五村の特異性を大人になってから理解しようとしても無理だと思う。
いつか出会った警察関係者の人たちのように。
「何を馬鹿なことを。そのような者、絶対に認めぬ!」
私情が入る玉彦の反対だったけど、私も反対だ。
けれど澄彦さんは私たちを一瞥して当主の顔になってしまった。
「認めぬとはまた生意気なことをいう。正武家当主はこの澄彦ぞ。その人事に口を挟むとは言語道断。次代とはいえ許せぬ。本日より七日間、その顔を私の前に出すな。謹慎である」
冷たく言い放った澄彦さんは、比和子ちゃんは別ね、と言って座敷を出て行ってしまった。
頭ごなしに謹慎を言い渡された玉彦は無表情のまま障子を睨みつけていた。




