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表門を通り、石段を下る。
途中私の目の前をアキアカネが番で飛んでいったのを目で追う。
空高く登って行ったので、まだ帰る時間ではないのだろう。
私は懐からスマホを出して、玉彦へとメールを送った。
夕方、とんぼ塚を探しに行こうって。
きっとお役目が終わったあと、メールを確認した玉彦は着替えてすぐにお祖父ちゃんの家へと来てくれるはずだ。
そしたら私は一緒にお屋敷へ帰って、山を彷徨う羽目になっても良いように着物からジャージに着替えるんだ。
二人で、とんぼ塚へ。
見つからなくてもきっと、二人一緒なら楽しいはず。
足取り軽く石灯籠を通り過ぎ、私は晴れ渡る空の遠くに入道雲を見つけて肩を落とした。
メールを送るの早まったかもしれない。
午後のお役目を終えた玉彦は、夕方私を迎えに来てくれた。
雨が酷かったので、車で来てくれたのだった。
田舎の天気予報はテレビよりも空の方が当たりやすいのだ。
お祖父ちゃんに夕飯を食べて行けと勧められた私は、玉彦と一緒に招待されることにした。
それにしてもお祖父ちゃんが玉彦がいるのにこうして誘うのも珍しい。
正武家では個人個人でのお膳料理なので、皆で食卓を囲む夕食は玉彦にとってちょっとしたイベントである。
小鉢のおかずはともかく、大皿に盛られた唐揚げは希来里ちゃんとの争奪戦でいつも負けていた。
晩酌にも付き合った玉彦は車で来ていたので、今夜は泊りになりそうだった。
お祖父ちゃんとお婆ちゃんが部屋に下がり、私と玉彦と叔父さん、そして夏子さんは茶の間でゆっくりとテレビを観ている。
こうしていると普通に親戚の家に遊びに来たようで、日常が非日常に感じてしまう。
「玉彦、今日はお泊りで良いの?」
テレビのCMの合間に隣の玉彦を見ると、いつの間にか立ち上がって家の神棚に手を伸ばしている。
その指先にあるのは、私が中一の時に玉彦から貰った煤けて真っ黒になってしまっている御札だった。
「飲酒運転で事故を起こすと免許を剥奪されるからな」
「事故を起こす以前に車走ってないけどね」
玉彦は御札を手にして懐に仕舞うと、後日新しいものを届けると叔父さんに告げた。
そして座り直すと歯磨きを終えた希来里ちゃんがちゃっかりと胡坐を掻いた玉彦の膝に納まる。
彼女はこっくりさんの一件以降玉彦や澄彦さんを避けていたけど、最近ようやく元通りになってきた。
「玉ちゃんはさー、小っちゃい頃夏休みの宿題っていつしてたの?」
呼び方も元通りになってしまっている。
希来里ちゃんに尋ねられた玉彦は、即答だった。
「夏休みの一日目」
あ、私と一緒だ。
私も宿題はすぐに終わらせたいタイプだった。
嫌なことは早く終わらせて遊びまくるぞ~って感じだった。
お祖父ちゃんの家に来た時は、イレギュラーだったけど。
「が、比和子が居た夏休みは最終日」
私は気まずくなって横目を流す。
言われて思い出してみれば、中一の時は夏休み後半に色々あって玉彦は私が眠るまでの間に参考書を読み込もうとしていたし、高二の時は最終日前日に私の妨害に遭って断念していた。
「えーじゃあ竜輝くんと一緒かー。頭の良い人って最初に終わらせちゃうのかなー。希来里もそうしたら頭良くなる?」
「ならぬだろう。余った時間をどう過ごすかが問題だ」
「玉彦、身も蓋も無い……」
言われた希来里ちゃんはジト目で玉彦を見上げたけど、彼はどこ吹く風で彼女が持ってきていた読書感想文を手にして読み始めていた。
そんな二人を放って前を向くと、夏子さんが叔父さんを肘でつついている。
すると言いにくそうに叔父さんは口を開いた。
「最近村を不動産屋がうろついているんだ」
「不動産屋さん?」
「そうなのよう。土地を売ってくれってしつこくてみんな困ってるのよう」
「土地を売ってくれって頼まれたって、この辺は……正武家のものでしょ?」
「そうそう。だからね、みんなお断りしてるんだけどどこから話が漏れちゃったのかうちが標的になっちゃって」
どうしてお祖父ちゃんの家が標的になるのかと首を捻れば、希来里ちゃんを膝に乗せたまま玉彦が話に参加してくる。
「どこの不動産だ。五村ではあるまい」
「県外の大手みたいです。五村に隣接している山に何かが出来るらしく」
「……山ならば村内の土地は必要ないだろうに」
「それが……」




