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「それは都会で揉まれた経験のある比和子ちゃんの言い分よぅ。私だってそう思ったわよ。でもね、この鈴白では違うのよ」
「また、暗黙の了解ってやつ?」
何度も頷く夏子さんは肩を竦めて天井を仰いだ。
「お隣の亜由美ちゃんもそうだけど、この辺りの女の子って村外に出ることって少ないみたいなのね。だから小さい頃から身の回りにいる相手と結婚することが殆どなんだって」
お隣、といっても五百メートル離れたところに住んでいる私のお友達の亜由美ちゃんはもうすぐ豹馬くんと結婚することになっている。
言われてみれば彼女は村役場で働いているし、結婚相手の豹馬くんとは小さな頃から知った間柄だった。
ちなみに私の知る限り、高校生の友達で村外に出たのは進学特化クラスの面々で、その中に女子は二人だけだった。
そう考えると村外に出た女子は二人だけである。
しかもある程度になると半数は鈴白へと戻って来て、正武家に関わりを持つ仕事をすることになるそうだ。
「でもいくらそうだとしても、早すぎない? 希来里ちゃんが可愛い子ちゃんだったとしてもさ」
「もうね、そこは問題じゃないのよ。希来里が正武家様の外戚の子ってとこがミソなわけよ」
「いやいやいくら外戚って言っても、直接なにか便宜を図るとかそういうことは有り得ない訳だから意味ないでしょ」
「わかってないわね、比和子ちゃん。良い? 比和子ちゃんと希来里は従妹でしょ?」
「うん、そうだね」
私のお父さんの弟の子供だからそうなる。
「でね、もし希来里に子供が生まれたら従妹の子供になるでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
小四の希来里ちゃんの子供なんてまだまだ想像できないけど。
「ででで、比和子ちゃんにも子供が出来たら、希来里の子供とハトコになるわけじゃない?」
「普通に考えればそうだね」
「息子を希来里の子供の親にしたいわけよ、男の子のママ友は」
「なんでよ」
「そうなると自分の孫は、正武家様の次代の子供、ゆくゆくは惣領息子様のハトコってなるじゃない」
「でも正武家の血は一滴も流れてないよ?」
「ステイタスよ、ステイタス。田舎ではそれが全てなのよ!」
畳に突っ伏した夏子さんは動かなくなる。
そして私は何だか申し訳なくなる。
私のせいで面倒なことに巻き込んでいると思う。
そこまで深く考えたことがなかったけど、希来里ちゃんがお嫁に行ってしまったら、この上守の家はどうなっちゃうんだろう。
跡継ぎが居なくなるし、叔父さんとしては婿を取りたいと考えていると思う。お祖父ちゃんも。
そうしないと名もなき神社の管理者が居なくなってしまう。
それに……。
ふっと頭に浮かんだ疑問が鳥肌を立たせた。
私が持つ、お父さんから復活してしまったこの『神守の眼』は誰が受け継ぐんだろう。
お父さんは、上守の長子にのみ受け継がれると教えてくれた。
そうなると普通に考えれば、玉彦と私の子供に受け継がれても不思議ではない。
でも私はもう上守を出てしまった。
今現在、生まれている人間では結婚前の私が上守の長子だったから眼が発現した。
だから事実上の長子となった希来里ちゃんには今後もその可能性は無いだろう。
ではこれから生まれてくる子供は?
希来里ちゃんが婿取りをすれば、その子が神守の眼を持つ可能性がある。
でもお嫁に行ってしまったら、上守は途絶える。
私の弟のヒカルが生きていればヒカルの子供が受け継ぐはずだっただろう。
私たちの次の世代はどういう流れになっているのか。
私は夏子さんの背中を摩りながら、一抹の不安を覚えたのだった。




