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5

 


 鷹彦の妻、ぎんは赤石村の庄屋の娘だった。


 元服を迎えた正武家次代の花嫁候補として屋敷に入り、そのまま妻の座に収まった。

 互いに惹かれ合い、それはそれは仲睦ましい夫婦であったという。

 正武家では惚稀人以外の女性は長く居着けないというのはこの時代でも知られていたので、彼らは数年の間子供は作らずにプラトニックな関係で想いを育んでいた。


 玉彦にも聞かせてやりたい話である。


 そうして数年後、二人の間に男子が生まれた。

 名は雪彦という。

 ぎんは雪彦を数えで四歳まで育て、正武家の屋敷を出た。

 それから彼女は実家の赤石村へと戻り、そこでひっそりと暮らしていた。

 正武家から有り余るほどの恩賞金が贈られていたので生活に困ることはなかったし、雪彦を連れた鷹彦が年に数回ぎんを訪ねて来てくれていたので寂しいことはなかった。


 けれど、である。


 妻を迎え、次代である雪彦を儲けた鷹彦の元に、表門を通り、みよという女性が現れてしまったのである。

 先代は亡くなり、次代である雪彦はまだ幼子。

 年齢的に考えても鷹彦の惚稀人であることには間違いが無かった。


 そして正武家は大騒動になったそうだ。


 既に生まれた雪彦を次代とするのか、惚稀人のみよと儲ける子を次代とするのか。

 鷹彦はみよと身体を重ねることはせずに、熟考に熟考を重ねた。


 現在の私たちからすれば惚稀人は神様からの賜物だけど、その定義は初恋の人ということになっているので、惚稀人だからといってそんなに強制力は無いように思うけど、当時の彼らからすれば神様からの賜物の惚稀人との間に子を作った方が良いのではないかという考えがあった。

 そして下された決断は、みよとの子を次代とし、雪彦は正武家の外戚の子としてぎんの元へと返されてしまったのである。


 ぎんと雪彦は赤石村にて生活を送っていたけれど、鷹彦は一度も彼女を訪ねることをしなかった。

 彼女に対する後ろめたさ、愛しているにも関わらずに側に居てやれないなど鷹彦にも思うところがあったのだろう。

 そうこうしているうちに雪彦が元服を迎える冬の或る日。


 ぎんは息を引き取った。

 自殺であったとも流行り病であったとも伝えられているが、真相は定かではないらしい。


 一方、みよである。


 彼女は鈴白村の左官の娘で、鷹彦とは幼少期に出逢っていた。

 自分が惚稀人とは思わず過ごして来て、正武家のお屋敷の塀の修繕に来ていた父親にお弁当を届けに来た際に表門を通ってしまった。

 それから彼女の周囲は目まぐるしく変わり、あれよあれよと鷹彦の二人目の妻になってしまったのである。


 そして再び、けれど、である。


 夫婦になり身体を重ねても、二人の間に子を儲けることが出来ないでいた。

 そもそも前に玉彦が赤面しながら教えてくれたけど、正武家の男性は一度誰かを愛して身体を重ねてしまえばその女性以外を抱けない。

 ここが鷹彦のややこしいところで、妻であるぎんとは惹かれ合い雪彦を儲けることが出来た。

 そうなるとみよは抱けないのではないかと疑問が浮かぶんだけど、そこは惚稀人。

 神様からの後ろ盾があるので鷹彦とそういうことが出来てしまったのである。


 そして子を儲けることが出来ない理由。

 それは今の玉彦と私と同じ。

 子へと受け継ぐはずの正武家のお力は雪彦へと受け継がれ、鷹彦にはもう一人の子供を儲ける為の余剰分のお力が残っていなかったのである。

 今だからこそ受け継がれるということが判明しているけれど、この時代にはまだ解明されていなかったので、再び正武家は大混乱。

 そうして紆余曲折があり、赤石村に帰された雪彦がぎんの死を切っ掛けに再度正武家へと呼び戻されたのであった。


 鷹彦とみよと雪彦。


 妻を想い子を愛し、けれどそれらを捨てて惚稀人を選んだ鷹彦。


 母を捨てた父の家を継ぎ、当主に治まった雪彦。


 惚稀人という理由だけで嫁ぎ、子を儲けることすらできず、愛されているのか不安な中で前妻の子を育てたみよ。


 そして、捨てられ裏切られたという思いを胸に刻まれたまま死を迎えたぎん。


 四人四様の思いを抱えて、彼らは時代を生き、そして死んでいった。



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