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「と、いう訳で。全部澄彦さんにはバレてると思う」
深夜零時を回って、各々懐中電灯を片手に五村道を歩いている道すがら三人に今朝のことを話せば、香本さんはまぁそうだろうと思った。と笑っていた。
「あとから怒られたりするんかな?」
私と手を握っていた亜由美ちゃんが立ち止まりそうになったので、軽く引っ張る。
前を歩く香本さんと那奈は肝が据わっているのか気にもしていないようだ。
「大丈夫、大丈夫。澄彦様がこうやって私たちを泳がせておくってことは、段構えで手を打ってるよ」
「ヤバいことになったら、玉様呼べば良いんでしょ?」
「でもそんなタイミング良く来てくれると思う?」
「そこはほら、正武家様の玉様だから何とかするでしょ」
「……いや、一応玉彦だって人間だからね」
一体那奈は正武家の人間を何だと思っているのか、疑問に思いつつ私たちは真っ暗な五村道を心許ない懐中電灯で照らしながら歩く。
鈴白村は田舎で、車道にも街灯が点々としているほどで闇が深い。
五村道は裏道だからなおさら道を照らす街灯など無く、本当の闇が続く。
風が木々の葉を揺らす音だけ。
もう冬が近いので虫たちの声すらない。
他愛もない会話をしながら歩くこと数十分。
左手の山の斜面が少しだけ開けて、お祖父ちゃんの家の灯りが見えてくる。
ということは、目指す名もなき神社まではあともう少しだ。
五村道の分岐点を山道を上がる右手に進む。
ちなみに真っ直ぐ進んで行けば、亜由美ちゃんちの裏手に出るのだ。
いつの間にか先頭に立っていた私の眼下に名もなき神社の敷地が目に入ったので、振り返って懐中電灯を消そうと言おうとしてぎょっとする。
人影が四人。
思わず手にしていた明かりを落とすと、それを物珍し気に見ながら拾ってくれたのは御倉神だった。
紺色の学生服の神様。
私には彼の姿が視えているから唖然としていたけど、視えていない彼女たちはふわふわと浮かぶ懐中電灯に目が点になっていた。
「うっ、浮いてる……!」
那奈が後ずさったので思わず手を握ると、彼女にも御倉神が視えたらしく小さく悲鳴を上げた。
そして私が香本さんと亜由美ちゃんにも触れれば二人も御倉神を認識する。
普通の人間なら私が手を離してしまえば視えなくなってしまうのだけど、正武家と因縁のある三人は離してもそのまま視えているようだった。
亜由美ちゃんは以前手を離すと視えなくなってしまっていたけど、豹馬くんと一緒に居て御門森の影響を少なからず受けていたようで幸か不幸か今回は視えている。
「どこへゆく。乙女」
「神社よ」
「このような時刻にか」
「色々とあんのよ。みんな、この人怪しい人じゃないから。御倉神様って言って、名もなき神社の神様だから」
私の雑な紹介に御倉神は嫌な顔をせずに、三人を見渡してニコリと笑う。
神様だと言われなければ同年代の男子のような姿に、三人は固まっていた。
香本さんは何度か御倉神を視たことがあったけれど、それでも目を見張っていた。
「本当に神様?」
恐る恐る御倉神を覗き込む様にして見る那奈。
御倉神は手を伸ばしてさらりと流れた那奈の髪を掬い上げた。
「綺麗な髪をしている」
「ひゃあ!」
飛びずさって私の背後に隠れた那奈は、それでも顔を出して御倉神を観察している。
そして亜由美ちゃんは固まったまま微動だにしない。
「とにかく御倉神様がいらっしゃるのなら、危ない目には遭わないんじゃない?」
気を取り直した香本さんが懐中電灯を消したのを切っ掛けに、私たちも消す。
御倉神の登場に動揺した私たちだったけど、本来の目的は神社での蛮行の阻止だ。
そろりそろりと御神木の近くまで移動して、草陰にしゃがみ込んで一息つく。
御神木は拝殿の近くにあり、樹齢百年を優に超える立派な榊だ。
注連縄が巻かれてひっそりと佇んでいる。
丑の刻参りについて検索をして教えてくれた里田さんによれば、あの御神木に藁人形を五寸釘で打ち付けるのだ。
しかもその藁人形には呪いたい相手の身体の一部を埋め込んでいる。
思い返せば私の髪を掴んだ新田さんは、握り拳を見てニヤリと笑っていた。
あの時、私の髪を取られてしまったのだ。
言葉少なに隠れている私たちとは対照的に、御倉神はふわふわと浮いて境内を見回っていたけれど、慌てて私たちのところに戻って来ると私の隣に同じように膝を抱えてしゃがみ込む。
「誰か来た」
小さな声で囁く御倉神だけど、普通の人には姿が視えないんだから戻って来て隠れる必要も声を小さくする必要もない。
やっぱりどこか神様はズレていた。




